ファブレスとは、自社工場を持たない経営方針のことです。自社工場を持たないことから生産における柔軟性が高く、半導体業界を中心に注目されています。世界的に有名な大手企業も実施しており、今後が期待される仕組みです。
しかし、ファブレスにはデメリットも存在し、安易に実施をしてもうまくいきません。ファブレス経営を成功させるためには、ファブレスの仕組みをしっかり理解し、ファブレス経営に合わせた戦略を立てる必要があります。
ファブレスの特徴とはどのようなものなのか?メリットやデメリット、実際に実施している企業など、ファブレス経営について紹介します。
ファブレスとは何か
そもそも、ファブレスとはどのような意味なのでしょうか?定義や語源など、大まかな特徴について紹介します。
ファブレスの定義と語源
ファブレスとは、「fabrication facility(工場)」に「less(ほとんどない)」を組み合わせた意味の言葉「fabless」です。直訳すると「工場を持たない」ことを意味します。
一般的に、製品の製造は自社工場で行われます。研磨や組立、検査など様々な工程を行うことで、自社製品が作られるわけです。
しかし、ファブレス経営を行う企業は自社工場を所有していません。自社内で行う作業は企画や開発といった工程であり、実際に製品を作る際は、工場を所有するほかメーカーに製造委託をします。
そして、製品が完成したら委託メーカーから製品を受け取り、自社製品として販売戦略を立てていくのです。
自社内で製造を行わないことから、ファブレス企業は卸売業に分類されることもあります。
ファブレス企業の特徴
ファブレス企業の特徴は、自社工場を持たないことです。製品を製造する際は、提携した企業などに委託をし、代わりに製造を行ってもらいます。
しかし、それ以外の部分はほかの製造企業と同じです。自社内で企画、開発、設計、販売などすべて行うことで、自社ブランドとして販売します。
どの業界でも専門分野は専門の企業に依頼をすると思いますが、ファブレス企業の場合は、その依頼をする部分が製造であるというわけです。
工場を持たないことから敷地を必要とせず、作業員が不要なことから、少人数でも企業運営を行うことができます。
ファブレスとOEMとの違い
OEMとは、「Original Equipment Manufacturing」の略称です。日本語では「委託先ブランド名製造」と訳され、「他社ブランドの製品を製造する経営方針」を意味します。
ファブレスとの違いは、ビジネスモデルの違いです。ファブレスは自社で企画や開発したものを他社に製造委託するモデルに対して、OEMは委託された製品を自社製品として製造・提供します。
簡単にまとめると、ファブレスは製造の委託側、OEMは製造の受託側といえるでしょう。
OEMはファブレスの子会社といったわけではなく、担当分野が異なる協力企業といえます。
ファウンドリとの関係性
ファウンドリ(またはファンドリー)も、他社から委託された製品を自社で製造するビジネスモデルです。ファブレス企業が企画した内容を、ファウンドリ企業が製造することで製品を完成させます。
ファブレスの協力工場のような関係であり、発注された設計図をもとに、製造が行われるわけです。
OEMとファウンドリは似ていますが、それぞれビジネスモデルと専門性が異なります。
OEMは委託された製品を製造する形態なのに対して、ファウンドリは主にファブレス企業からの委託を受託する形態となります。
また、OEMは家具やアパレルなど多様なジャンルを製造するのに対して、ファウンドリは主に半導体ジャンルを製造します。
どちらも業務内容は同じですが、内容が少し異なるため注意して使い分けてみてください。
ファブレス経営のメリット
製造工程を外部委託することで、以下のようなメリットがあります。
初期投資が少なく済む
ファブレス経営は、初期投資が安く済みます。工場の建設や設備の導入が不要になるため、その分の初期費用を抑えられるためです。
新しく事業を始めるためには、少なからず初期費用がかかるものです。特に、工業系は大型の機械が必要になることから、数百万円から数千万円の初期費用がかかります。
また、近年は工場のデジタル化が推奨されており、AIやクラウド管理を導入することで、初期費用はさらに高まるでしょう。
一方で、ファブレス経営なら工場設営の初期費用を必要としません。自社で行うことは企画や設計といったデスクワークが中心となりますので、自社拠点さえあれば経営ができてしまいます。
そのため、資本金が少ない新興企業であっても、アイデアさえあれば市場に参入することが可能です。
また、事業に失敗した場合も、ファブレス経営なら償却コストを削減できます。事業に失敗すると投資費用がムダになりますが、設備の購入が不要なファブレス経営なら、埋没費用も少なくできるでしょう。
新事業に挑戦しやすくなることが、ファブレス経営のメリットといえます。
製造コストを抑えられる
ファブレス経営なら、製造コストも抑えられます。委託先は自由に選べるため、製品や時期に合わせて、最適な企業に依頼できるからです。
例えば、海外企業への委託です。中国企業に委託をすれば、国内企業に依頼をするよりも安く製品が作れます。部品ごとに委託先を選ぶことで、さらなるコストダウンも期待できるでしょう。
ほかにも、委託先を複数に分けることで、委託先でトラブルが生じた際のスケジュール管理がしやすくなります。
市場の変化に柔軟に対応できる
ファブレス経営は、市場の変化にも対応がしやすいです。顧客需要が変わっても、変化に合わせて委託先を変えるだけで、柔軟に対応ができます。
仮に自社製造をしていた場合、市場が変化したら顧客需要に合わせて生産方針を変えなければなりません。少品種多量生産から多品種少量生産に変わることで、大幅な調整が必要になってくるでしょう。
しかし、ファブレス経営なら委託先を変えるだけで済みます。設備費用の心配はもちろん、人員配置や製造数の調整といったことも必要ありません。複数の委託先を抱えれば、市場の変化に合わせてスケジュール管理がしやすくなります。
ほかにも、自社で調整する部分が少ないことから、情報収集に時間を割きやすいです。ギリギリまで動向を見極めることで、需要に合った製品を提供しやすくなります。
ファブレス経営のデメリット
コストを抑え柔軟に対応できるファブレス経営ですが、製造を外部委託することで、以下のようなデメリットも抱えてしまいます。
機密漏洩のリスクがある
ファブレス経営は、自社製造よりも情報漏洩するリスクが高いです。委託するためには製品の作りや特徴を説明する必要があるため、委託先の企業から製品情報が漏れ出てしまいます。
製品情報が漏れてしまうと、コピー品が作られるリスクが高まります。場合によっては自社よりも先に販売をされてしまい、顧客をすべて取られてしまうでしょう。
情報漏洩を防ぐためには、信用ある企業を選ぶのはもちろん、契約書の締結などの対策を取る必要があります。
生産管理・品質管理をしづらい
ファブレス経営は、自社製造よりも製造管理がしにくいです。製造現場は委託先になるため、急なトラブルが生じてもすぐに対応ができません。
特に、日本と海外は考えが異なるため、海外に委託する場合は注意が必要です。日本では不良品となる傷や汚れも、海外では問題にしない場合がたくさんあります。
近年は、顧客の信用を得るため、品質が重要視されています。顧客ニーズを満たす製品を提供するためにも、視察や見本品の提出などの対策が必要になるでしょう。
生産過程でのノウハウを得づらい
ファブレス経営は、技術ノウハウを得づらいデメリットもあります。製造はすべて委託企業が行うため、自社で製造技術が育ちません。
また、製造のノウハウは、製造技術だけではなく企画や設計にも関係します。製造の様子がわからないと、製造を考慮したフィードバックができません。QCD(品質、コスト、納期)を向上させるには、製造現場を知る必要があります。
そのため、製造をただ丸投げするのではなく、自社もある程度は関わることが大切です。視察や研修などを行うことで、生産過程を知ることができます。
ほかにも、製品会議を行う際は委託先の企業も交えて行うなど、念密に連携することもファブレス経営では重要になってきます。
有名なファブレス企業の事例
ファブレス経営を行う企業といえば、iPhoneで有名な「Apple」や、デジタルゲームで有名な「任天堂」があります。どちらも多種多様な電子機器を扱っていますが、ファブレス経営で製造を委託することで、事業を広めることができています。
自社はブランド力を活かした企画や開発を主に行い、製造の多くは費用の安いアジア圏に委託しているわけです。
また、生活雑貨で有名な「無印良品」もファブレス企業の一つです。製造を委託しているからこそ、さまざまなジャンルの製品を自社ブランドとして提供できています。
ほかにも、IT機器企業として有名な「ELECOM」、スキャン機器で有名な「KEYENCE」など、IT企業を中心にさまざまな企業がファブレス経営を実施しています。
ファブレス経営を成功させるためのポイント
ファブレス経営は、なんとなくで行ってもうまくはいきません。ファブレス経営のデメリットによって事業が失敗に終わる可能性もあります。
ファブレス経営を成功させるためにも、以下のポイントを意識するようにしてください。
コアコンピタンスを磨き続ける
コアコンピタンスとは、「他社に真似できない核となる能力」のことです。唯一無二の特徴を磨き上げることで、ブランドとしての価値が生まれます。
ファブレス経営の特徴は、製造工程をすべて委託できることです。そのため、他の企業なら製造にかけるリソースを、すべて企画や販売戦略に費やすことができます。
ファブレス経営に限ったことではありませんが、ブランド力を高めることは、業界内で生き残るために必要なことです。事例で紹介した企業も、それぞれがそれぞれの強みを持っています。
製造技術で他社より有利になるのは難しいからこそ、唯一無二となるコアコンピタンスを磨き続けることが重要になるのです。
自社の強みを示すコアコンピタンス。強みとは企業の武器であり、市場競争に勝つために大切な要素といえます。 ですが、意外と自社の強みをわかっていない企業は少なくありません。強みと思っていた要素は競合企業も持っている要素だったり、逆[…]
パートナーシップを構築する
パートナーシップを構築することも、ファブレス経営では必要です。デメリットでも触れたように、生産管理がしづらいからこそ、しっかりとした意思疎通が重要になってきます。
企画側と製造側では、見えている部分や考えが異なります。相互誤認がある状態で生産を進めても、望む製品は作れません。
疑問や意見をしっかり話し合うことで、望んだ製品が作れるだけではなく、より良い製品にブラッシュアップすることが可能となるでしょう。
まとめ:ファブレス経営はフレキシブルでスピーディーな経営を実現
ファブレス経営は、新事業に挑戦しやすい経営形態です。最も規模が大きくなる製造工程を外部委託することで、製造にかかるリソースを大幅に抑えることができます。委託先を複数持てば柔軟に対応もしやすくなり、顧客ニーズに合わせて商品展開もしやすくなるでしょう。
とはいえ、重要な工程を外部委託することから、機密漏洩しやすいデメリットもあります。生産工程の管理も難しく、製造に関係するノウハウも育ちません。ファブレス経営を成功させるためには、しっかりとした信頼関係を築き、念密な情報交換をすることが大切です。
近年は、デジタル社会への移行が推奨されており、工場のデジタル化も進められています。しかし、実際には予算や人材、知識不足などの理由から、デジタル化へ踏み切れない企業は多いです。
経営資源が不足し市場競争に不安がある企業は、ぜひファブレス経営を検討し、経営資源を補ってみてください。