製造業において、ヒューマンエラー対策はとても重要です。生産能率に影響するだけではなく、労働災害にも発展することから、防ぐべき要因の一つとして考えられています。
しかし、作業者に注意を促しても、完全にヒューマンエラーをなくすことは難しいです。その理由は、ヒューマンエラーの原因に「意図しない要因」が含まれているからです。
ヒューマンエラーを完全に防ぐためには、意図する要因と意図しない要因について理解し、それぞれで対策を取る必要があるでしょう。
製造現場ではどのようなヒューマンエラーが生じるのか。意図的なものと意図しないものについて紹介します。
ヒューマンエラー(人為的ミス)とは?
ヒューマンエラーとは、人が原因で生じる問題のことです。操作ミスや注意散漫といった、作業者の過失によって生じるトラブルを、総じてヒューマンエラーと呼びます。
製造業におけるヒューマンエラーと労働災害
ヒューマンエラーは、ただ作業でトラブルが生じるだけではなく、状況によっては労働災害にもつながってしまいます。
厚生労働省が発表した「令和5年の労働災害発生状況」によると、労働災害による死亡者数は755人になるそうです。休業4日以上の死傷者数は135,371人に上り、3年連続で増加しています。
人によっては「たかがこのくらいの作業ミスで」と軽く思うかもしれませんが、冗談では済まされない事態が毎年起きているのです。
製造業は、特に労働災害が生じやすい職業です。被害者はもちろん加害者にならないためにも、充分に注意したうえで作業を行う必要があります。
ポカミスによる不良品・損失
製造業では、ヒューマンエラーのことをポカミスと呼ぶこともあります。ちょっとした見落としや手落ちによる作業ミスであり、一見すると生産に影響がなさそうに思えるでしょう。
しかし、ポカミスでも不良品の排出や作業のやり直しにつながることがあります。さらに、ポカミスが多ければ、その被害はポカミスの数だけ大きくなります。
その結果、納期に間に合わなくなったり、低品質であることからクレームを入れられたりなど、信用を損ねるトラブルに発展するでしょう。
不良品の排出や損失はもちろんですが、信用の低下は企業にとって大きな痛手となります。積み重ねて大きなトラブルにしないためにも、ポカミスを発生させないための工夫が必要です。
製造業でよく起こる意図的なヒューマンエラー
製造業では、主に以下のような理由でヒューマンエラーが生じます。
- 手抜きや慢心によるもの
- 判断ミスに起因するもの
手抜きや慢心によるもの
手抜きや慢心によるヒューマンエラーは、作業の慣れによって生じます。「いつもと同じだから」と流れ作業で行ってしまい、その結果、確認を怠りヒューマンエラーが発生します。
特にベテラン作業員が起こしやすいトラブルであり、技術と経験があるからこそ「自分がトラブルを起こすはずがない」と慢心している人も多いです。
また、面倒な手順だと、自己流で作業内容を変更する人もいます。自己流は安全性や再現性を欠いたものが多く、本来の手順と比べ、ヒューマンエラーによるリスクが高まるでしょう。
判断ミスに起因するもの
判断ミスに起因するヒューマンエラーは、自己判断によって生じます。トラブルが生じても「これくらいなら問題ない」と勝手に判断してしまい、その結果、問題が大きくなることでヒューマンエラーが発生します。
特に新人作業員が起こしやすいトラブルであり、報告・連絡・相談ができていないことが原因といえるでしょう。
また、ベテラン作業員であっても、自分の経験を信じてしまい、勝手に判断したことでトラブルとなるケースも多いです。
製造業でよく起こる意図しないヒューマンエラー
ヒューマンエラーは、本人の意図がなくても、以下のような理由から生じる場合があります。
ヒューマンエラーを防ぐためには、本人が意図しない原因についても理解しておく必要があるでしょう。
- 情報の伝達や連携不足によるもの
- 知識・スキル・経験不足によるもの
- 作業負荷・疲労によるもの
- 思い込みや確認不足によるもの
- 作業環境の悪さによるもの
情報の伝達や連携不足によるもの
情報伝達ができていないと、ヒューマンエラーは発生します。作業内容に変更があっても、その内容が作業者に伝わらずに、変更前の内容で作業をすることでトラブルとなるからです。
また、情報は届いていても、正しく伝わっていない場合もあります。伝言ゲームでよく見かけるように、人づてに伝えることで、最終的には別の内容となってしまうでしょう。その結果、誤った作業をしてしまい、トラブルを発生させてしまいます。
本人の意図がなくても、連携不足な環境が原因で、ヒューマンエラーは発生してしまうのです。
知識・スキル・経験不足によるもの
知識や技術が不足していると、ヒューマンエラーは発生します。できないこと・慣れていないことを無理に行うことで、トラブルとなるからです。
一見すると意図的なヒューマンエラーに思えますが、そもそも、教育体制に問題がある場合もあります。充分な教育や訓練ができていないことで、未熟なまま現場に参入するケースも珍しくはありません。
また、ベテラン作業員であっても、知識不足でミスをする場合もあります。特に近年はデジタル化への移行が進んでおり、デジタル機器の使い方を学ぶベテラン作業員も多いです。
知識や技術不足によるトラブルを防ぐためには、充分に教育や訓練が行える環境を整える必要があります。
作業負荷・疲労によるもの
作業負荷が大きいと、ヒューマンエラーは発生します。疲労によって作業が雑になることで、トラブルとなるからです。
また、疲労はパフォーマンスの低下にもつながります。作業能率が低下することで、生産性も悪くなるでしょう。
無理に作業を進めても、リスクが高まるだけで良い結果にはなりません。適度な休憩はもちろん、精神的な負担とならない職場環境の形成や納期設定を行う必要があります。
思い込みや確認不足によるもの
作業員が思い込みをしていると、ヒューマンエラーは発生します。間違っていることを正しいと思い込んでしまい、そのまま作業を行うことでトラブルとなるからです。
思い込みによるミスの問題点は、間違っている自覚が本人にはないことです。そのため、トラブルが発生しないと、間違いには気が付かないでしょう。
間違いに気が付かせるためには、作業の確認を取ることが大切です。他の人が注意することで、間違いに気が付くことができます。
定期的に見回りをしたり二人以上で作業させるなど、互いに確認し合える環境を整えることが重要といえるでしょう。
作業環境の悪さによるもの
作業環境が悪くても、ヒューマンエラーは発生します。転倒や衝突などの労災リスクが高まり、そのまま作業を行うことでトラブルとなってしまいます。
主な例としては、床が濡れていることによる転倒、視界不良による衝突事故、過積載による落下などが挙げられます。
安全性が確保されていないと、作業員は安全に作業ができません。精神的に負担となり、疲労によるミスを誘発させてしまいます。
また、作業環境の悪さは、生産効率も低下させます。物の配置が悪ければ準備するのに手間取りますし、物が散らばっていれば作業動線を悪くするでしょう。
ほかにも、暗いことで手元が見えずに操作ミス、パネルが汚れていることで確認間違い、整備不良による機械の故障など、さまざまなトラブルの可能性があります。
適切な環境で作業するためにも、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を徹底することが大切です。
ヒューマンエラーが発生する5つの要因
ヒューマンエラーの背後要因を調べるSHELLモデルによると、ヒューマンエラーが発生する要因は、大きく5つに分けて考えられます。
- ソフトウェア:手順書や指示書などの仕組みが原因の要因
- ハードウェア:設備や機械などが原因の要因
- 環境:空調や照明などの作業現場が原因の要因
- 当事者:作業者が原因の要因
- 当事者以外:自分以外の人が原因の要因
例えば、情報の伝達によるヒューマンエラーは、「ソフトウェア」に分類できます。情報伝達の仕組みができていないことで、トラブルが生じるからです。
また、作業負荷によるヒューマンエラーは、「ソフトウェア」と「環境」に分類できるでしょう。シフトに問題があるのはもちろん、働きにくい環境も、作業者に負担を強いてしまいます。
ほかにも、意図的なヒューマンエラーのほとんどは「当事者」に分類できるなど、フレームワークに当てはめて考えることで、ヒューマンエラーが生じる理由を追求し、解決策を模索できます。
製造業でよく起こるヒューマンエラーの原因
製造業ではどのようなヒューマンエラーが生じるのか、それぞれの原因について、改めてまとめて見ましょう。
意図して起こるヒューマンエラーの原因
意図して起こるヒューマンエラーの原因は、主に心の緩みが挙げられます。「大丈夫だろう」「面倒くさい」「自分ならできる」といった慣れによる慢心が、トラブルを発生させます。
また、自己認識ができていないことも、原因の一つです。知識や技術的に不十分なのに、根拠もなく自己判断してしまうことで、トラブルを発生させてしまうでしょう。
どちらの原因も、本人の意識による問題といえます。仕事に対する作業員の意識改革はもちろん、現場の風通しを良くすることで、確認や質問がしやすい環境を作ってみてください。
意図していないヒューマンエラーの原因
意図していないヒューマンエラーの原因は、主に生産環境にあります。連絡がしづらい状態や教育ができていないなど、生産体制に問題があることで、トラブルが発生しやすくなります。
また、労働環境も原因の一つです。長時間勤務や納期の短縮など、心身に負担となることで披露してしまい、疲れから作業をミスしやすくなります。
ほかにも、作業場が汚い、工場が暑いといった、環境そのものが原因となる場合もあるでしょう。
ヒューマンエラーを防ぐためには、作業者だけに目を向けるのではなく、生産体制や生産環境にも目を向けるようにしてください。
ヒューマンエラーをなくすためにできること
ヒューマンエラーをなくすためにも、以下の手順を意識するようにしてみてください。
- 情報収集
- 原因分析
- 対策の実施
- 周知・徹底
情報収集
まず始めに、ヒューマンエラーの内容を明確にしてください。どのような状況でどのようなトラブルが生じたかがわからないと、対策のしようがありません。
トラブルの内容や状況以外にも、時間、作業者、場所、行った対処内容など、細かく情報を収集してください。しっかりと情報収集をすることで、対策ができるだけではなく、次回に生かせる資料として残すことができます。
また、実際に起きたトラブルだけではなく、ヒヤリハットについても行ってみてください。事前に対策が取れれば、労働災害や不良品の発生などを未然に防げます。
原因分析
情報収集ができたら、トラブルの原因を分析します。トラブルの内容を基に、「なぜ起きたのか」を明確にしてください。そして、原因を明確にしたのちに、解決策を提案していきましょう。
もし、すでに対策が行われていた場合は、その対策が不十分である証拠です。すでにあるルールやマニュアルを見直し、新しく修正を行ってください。写真や動画を活用すると、より対策がわかりやすくなります。
また、原因がわからない場合は、さらなる情報収集を行います。一度起きたトラブルは、再度生じる可能性があるトラブルです。絶対に放置はせず、原因がわかるまで追求してください。
対策の実施
エラー対策が決まったら、実際に対策を実施します。「作業前に声をかける」「色分けして管理をする」といった、すぐに実施できる内容から始めて見てください。
また、実際に試してみた結果、思ったような効果が出ない場合もあります。効果が期待できないと判断したら、別の対策も試してみましょう。
周知・徹底
対策の効果が実感できたら、内容を全従業員に通達します。口頭で伝えるだけではなく、掲示板やメールでの伝達など、複数の方法で行うと周知を徹底できます。
マニュアルの整備や定期的な現場のチェックなど、対策ができている環境作りも大切です。
また、「ヒューマンエラー対策の重要性」についても、可能なら周知しましょう。ただ変更案を厳守させても、必要性や重要性がわかっていないと対策を疎かにしてしまいます。
ヒューマンエラーを防ぐためには、従業員一人ひとりが、意識して対策に取り組むことが重要といえます。
人が作業をするうえで、避けては通れないのがヒューマンエラーです。「人間はミスをする生き物」であり、それは仕方がないことと言えるでしょう。 ですが、だからといってミスを容認するわけにはいきません。ミスの内容によっては怪我や死亡事[…]
まとめ:製造業においてヒューマンエラー対策は必須
ヒューマンエラーが生じる原因には、大きく「意図的な原因」と「意図しない原因」の2つがあります。
「意図的な原因」は、主に作業者の心理的な部分が問題です。怠けたい気持ちや慢心する気持ちが作業を雑にしてしまい、その結果、作業ミスをしてしまいます。
「意図しない原因」は、主に環境による部分が大きいです。連携不足や重労働など、快適に作業ができないことで作業ミスをしてしまいます。
ヒューマンエラーをなくすためには、作業者への意識改革はもちろん、働きやすい環境作りや、ヒューマンエラーに気が付くための仕組みを作る必要があるでしょう。
生産管理システムを始め、工場のデジタル化によってもヒューマンエラーを減らすことが可能です。今後は工場のDXが推奨されていますので、まだの企業は、ぜひ工場のデジタル化を進めてみてください。