人が作業をするうえで、避けては通れないのがヒューマンエラーです。「人間はミスをする生き物」であり、それは仕方がないことと言えるでしょう。
ですが、だからといってミスを容認するわけにはいきません。ミスの内容によっては怪我や死亡事故にもつながるため、事前に対策を取る必要があります。
ヒューマンエラーの対策に必要なこととは。ヒューマンエラーとなる原因と合わせて紹介します。
ヒューマンエラーとは?
ヒューマンエラーとは、人間の行動が原因の失敗や事故のことです。確認ミス、操作ミス、入力ミスなどによって、意図しない問題が生じてしまいます。
ミスは誰にでも生じることであり、誰もが一度は経験したことがあるでしょう。そして、ミスを挽回するために、様々な対応をしてきたと思います。
もちろん、製造業でもそれは間違っていませんが、製造業の場合、一度のミスが大規模な事故につながる場合があります。機械の故障だけならまだしも、機械に巻き込まれて怪我人がでる場合もあり、決して軽視できるものではありません。高額な機械の故障や賠償金が原因で、倒産する可能性も十分にありえるのです。
そのため、製造業ではヒューマンエラー対策がとても重要になってきます。会社と従業員を守るためにも、徹底したヒューマンエラー対策が求められるでしょう。
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製造業で発生するヒューマンエラーのよくある原因
ヒューマンエラーを減らすためにも、まずは原因を知ることが大切です。ヒューマンエラーは、なぜ生じてしまうのでしょうか?
- 記憶違い(覚えられない・思い出せない)
- 認識違い(見逃す・聞き逃す)
- 情報伝達ミス
- 会社・現場などの作業環境
- 作業者の経験不足
- 慢心や思い込み
- 横着や手抜き
記憶違い(覚えられない・思い出せない)
原因の一つ目は、記憶違いによるヒューマンエラーです。操作を覚えていないことから間違った操作をしてしまい、そのままトラブルの原因となります。
人の短期記憶は数十秒から数十分と言われており、覚えたと思っても、意外に覚えていないものです。忘れるのは仕方がありませんが、そのまま操作を続けるのはいただけません。
必ず確認をしなおし、可能ならメモを取って忘れないようにしましょう。
認識違い(見逃す・聞き逃す)
原因の二つ目は、認識違いによるヒューマンエラーです。間違った方法を覚えてしまい、そのまま操作をすることで、トラブルの原因となります。
記憶違いによるヒューマンエラーと似ていますが、こちらは覚えていることが問題です。実際にトラブルが生じるまでは間違っていることに気がつかず、必ずと言っていいほど、いつかはトラブルを引き起こします。
間違いで覚える主な原因は、見逃しや聞き逃しです。逃した部分を自分の中で補完してしまい、その結果、認識違いとなります。
ボーっとしていたり別のことを考えていると、見逃しや聞き逃しが発生しやすくなります。説明を聞く際は集中し、説明を聞いた後は、認識が間違っていないか聞き返して確認をとるようにしましょう。
情報伝達ミス
原因の三つ目は、情報伝達によるヒューマンエラーです。「知っていると思った」「言われてないから変更なしだと思った」など、「放送・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)」ができていないことからトラブルへとつながります。
また、自分は連絡したつもりでも、人づてに連絡をすることで、間違って伝わる場合もあります。伝言ゲームと同じであり、伝えていくうちに細部が変わってしまうのです。
連絡事項がある場合は、たとえ相手が知ってそうなことでも、自分でしっかり伝えるようにすることも大切です。
会社・現場などの作業環境
原因の四つ目は、情報伝達によるヒューマンエラーです。「作業場が暗くて操作を間違えた」「パネルが汚れていて見間違えた」など、環境が悪いことで、間接的にヒューマンエラーが生じることもあります。
「SHELモデル」と呼ばれる「本人を中心としたエラーとなる要因」の一つにも選ばれており、作業環境が原因のミスは、比較的多いことが分かります。
ある意味「本人は悪くない」とも言えますが、そもそも、そのような環境で仕事することが問題です。
整理整頓や掃除はもちろん、暗い場所にはライトの増加、滑りやすい場所には滑り止めの設置など、仕事をしやすい環境を作ることが大切になります。
作業者の経験不足
原因の五つ目は、慣れていないことによるヒューマンエラーです。経験が浅いことで操作を間違ってしまい、それによってトラブルが生じます。
これは、記憶違いや認識違いにも当てはまることであり、うろ覚えによって生じることでもあります。
新人時代は、誰もが必ず通る道です。たとえ単純な作業であっても、必ず熟練者と一緒になって作業をするが重要になります。
慢心や思い込み
原因の六つ目は、慢心や思い込みによるヒューマンエラーです。「簡単な作業だから」「いつも通りの作業だから」と慢心してしまい、それによってトラブルが生じます。
また、慣れているからこそ、間違った思い込みも多いです。いつもと納期や数値が変更になっていても、「いつもと同じだろう」と確認をおろそかにしてしまいます。
新人の方がミスが多いように思えますが、新人時代はメモをしっかり取り確認しながら作業するため、思ったよりもミスは多くありません。むしろ、慣れているからこそ「自分が間違えるはずがない」と、予想外のミスをするものです。
「ヒューマンエラーは慣れてきた頃が一番危ない」ともよく言われています。諺にも「初心忘れるべからず」とあるように、いつまでも新人のつもりで、しっかり確認をしながら作業することを心掛けることが大事です。
横着や手抜き
原因の七つ目は、横着や手抜きによるヒューマンエラーです。楽をしたいがために手抜きとなり、それによってトラブルが生じます。
また、自己流による作業も原因の一つです。「効率的に作業をする」と言えば聞こえは良いですが、自己流も楽をするための横着に過ぎません。
マニュアルとは、正しい作業手順を示した見本であり、勝手に省略するのは問題があります。安全面を無視する結果にもなりますので、たとえ面倒でもマニュアルを守ることが大切です。
製造業におけるヒューマンエラー対策
では、ヒューマンエラーを予防するためにはどのような対策を取れば良いのか。ヒューマンエラーの原因を念頭におきながら考えてみましょう。
- 活発なコミュニケーションをとる
- 作業環境を整備する
- 作業者のスキルを向上させる
- KY活動を実施する
- 確認の習慣づけをする
- 業務をシンプルにする
- ヒューマンエラーの機会をなくす
活発なコミュニケーションをとる
一つ目のエラー対策は、従業員同士でコミュニケーションを取ることです。こまめに確認することで、ミスやトラブルを事前に防げるでしょう。たとえ本人が気が付いていないミスがあっても、連絡や確認をし合うことでミスが発覚することもあります。
また、コミュニケーションを取ることは、作業の見える化にもなります。情報共有をすることで、現在行なっている工程が分かるからです。作業内容によっては、アドバイスや注意喚起もしやすく、ヒューマンエラーやトラブルの予防につながるでしょう。
管理者側としても、従業員の話に耳を傾けることは大切です。異変の報告から、すぐに対策を取ることができます。
個人別のコミュニケーションはもちろん、朝礼やミーティングなどをこまめに行い、互いに連携し合うことがエラー対策として大切です。
作業環境を整備する
二つ目のエラー対策は、作業環境を整えることです。環境が原因でヒューマンエラーとなるため、整えることでエラー対策とします。
製造業の現場には、環境整備の合言葉として3S(5S)と呼ばれるものがあります。整理・整頓・清掃(清潔・躾)の頭文字からとった活動のことです。
掃除をすれば汚れで見間違う心配はありませんし、整理をすればつまずいて転ぶ心配もありません。作業がしやすいよう整頓することで、操作ミスをする心配もなくなるでしょう。さらに、清潔に保てば働きやすい環境が維持できます。
作業環境の整備は、エラー対策だけではなく、作業効率の向上やリスク管理にもつながります。率先して行うのはもちろん、全員に周知・教育をして、毎日心がけるようにしてください。
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作業者のスキルを向上させる
三つ目のエラー対策は、作業者の技術を高めることです。作業が上達し業務に慣れてくれば、自然とヒューマンエラーは減っていきます。自身で問題点にも気付くようになり、リスク管理の向上にもつながるでしょう。
作業者のスキルを向上させるためには、実際に練習させるのが一番です。正規品と同じ材料・工程で練習することで、作業内容を体で覚えることができます。
また、社内研修を実施するのも良いでしょう。外部から講師を招いたり、逆に実技研修に参加させたりなど、色々な方法があります。知識と技術が身につけば、ヒューマンエラーの心配もありません。
他にも、検定を設けて作業を制限するのも良いです。未熟な人に作業をさせなければ、能力が原因で、ヒューマンエラーになることもないでしょう。検定によって給料も変わるようなら、従業員のやる気も変わってきます。
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KY活動を実施する
四つ目のエラー対策は、作業前にリスク管理をすることです。KY活動とは危険予知活動のことであり、事前に危ない場所や行動を話し合い、その問題点に対して、対策や指導を行っていきます。
ヒューマンエラーと作業事故は、どちらも大体の原因は同じです。リスク管理がエラー対策にもなりますので、細かい点にも注意しながらKY活動に尽力してください。
また、管理者から言われたことだけをするのではなく、従業員自らもKY活動を意識してください。現場だからこそ気付くこともありますので、危険だと思ったことは、細かいことでも報告するようにしましょう。
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確認の習慣づけをする
五つ目のエラー対策は、確認を習慣づけることです。たとえ作業が間違っていたとしても、実行する前に気付けばトラブルにはなりません。作業の後に確認を必ず挟むことで、多くのヒューマンエラーを防ぐことができるでしょう。
また、確認は別の人がするようにします。作業者本人が確認も担当すると、「できている」といった思い込みから、問題点を見逃しやすくなるからです。中には、横着して確認を怠る人もおり、エラー対策としては不十分と言えます。
人材不足だと難しいとは思いますが、必ず、本人も含め二人以上のダブルチェックを義務付けるようにしてください。
他にも、作業場に注意の張り紙をするなど、トラブル自体を自覚させることも効果があります。「落石注意の看板があれば運転に気を付けるようになる」といったように、事前に警告していれば、トラブルを意識してくれます。
慣れてしまうと効果が薄くなりますが、少しでも、エラーを意識する切っ掛けを作りましょう。
業務をシンプルにする
六つ目のエラー対策は、作業内容を簡略化することです。作業工程が複雑だと、それだけ覚えることも多くなり、ヒューマンエラーの原因となります。作業効率的にも悪いため、余計な工程は削除し、分かりやすくシンプルになるようマニュアル化してください。
また、マニュアル化する理由には、指導内容の統一をする目的もあります。マニュアルが無い状態だと、それぞれが自己流で教育してしまい、決して「正しく指導ができている」とは言えません。
誰が見ても分かりやすく、そして教えやすいようにするためにも、作業工程のマニュアル化は必須といえるでしょう。
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ヒューマンエラーの機会をなくす
七つ目のエラー対策は、ヒューマンエラーの機会をなくすことです。そもそもの課題として、対策が初めからされていればエラーになる心配はありません。
例えば、作業機械にセンサーを導入し、整備中は動かないようにします。センサーが反応中は電源を入れても動かず、代わりにブザーが鳴って警告するようにすれば、トラブルになる心配もないでしょう。
他にも、登録した数値以外を入力するとエラーが表示される。二人以上の承認がないと操作できない。チェック項目を作り確認しながら作業するといったエラー対策もあります。場合によっては、業務内容を見直して、リスクのある工程自体を無くすことも大切です。
エラーを発生させない考えは「フールプルーフ」とも呼ばれ、日常生活でいえば、蓋が開いたままでは動かない洗濯機や、空焚きになると電源が止まる電気ケトルなどがこれに該当します。
ミーティングやKY活動をしっかり行い、問題となる箇所は事前に対策してしまいましょう。
まとめ:ヒューマンエラーの認識と意識が大事
ヒューマンエラーには様々な原因があり、記憶違い、伝達ミス、未熟、横着などが原因となることが多いです。エラーの対策をするためには、本人がヒューマンエラーについて自覚し、意識を変えていく必要があるでしょう。
また、外部からは、ヒューマンエラーにならない環境を作ることが望まれます。ホウ・レン・ソウを意識する、研修を行う、リスク対策を行う、作業工程を見直すなど、様々な方法が挙げられます。
製造業は、作業機械を使う都合上、ヒューマンエラーが大きな事故に繋がる可能性の高い業種です。ヒューマンエラーへの意識は、個人と企業のどちらにとっても必要となります。
しっかり対策を講じ、ヒューマンエラーが生じない職場作りを目指してください。