近年、需要が広まるOODAループ。デジタル化社会による影響により、様々な業界で注目されるようになりました。
以前はPDCAサイクルを始めとした各サイクルを用いていた企業も、インターネットの普及によって高速化された情報の変化には、対応が難しくなっています。
今後のデジタル化社会への適応として、情報の変化にも対応できる、新しいサイクルが求められます。
OODAループとはどのような意思決定モデルなのか。OODAループを構成する4つの要素や、PDCAサイクルとの違いなどを紹介します。
OODAループとは?
OODAループとは、繰り返し作業するための行動プロセスのことです。4つの工程からプロセスが構成されており、段階を踏まえて実施することで、目標を達成しやすくさせます。
元々は、アメリカの軍事戦略家であるジョン・ボイド氏が考え出したプロセスであり、米軍の意思決定プロセスとして活用されていました。それぞれの内容は以下の内容であり、実施することで、自発的な行動力を育て、臨機応変な対応や意思表明ができるようになります。
- Observe:観察、情報収集
- Orient:状況、方向性判断
- Decide:意思決定
- Act:行動、実行
自発的な行動力や判断力は、軍だけではなく社会でも必要なことです。よく自分から仕事をしない人のことを「指示待ち人間」と表現しますが、自分で考えて行動できないと、いつまで経っても成長できません。
作業率や生産性の向上を目指すためには、環境を整えるだけではなく、従業員1人ひとりのレベルアップも必要といえるでしょう。
OODAループの4つの要素
OODAは、それぞれどのような意味があるのか。4つの要素を段階的に紹介します。
Observe:観察、情報収集
まず初めは、物事の観察です。売上、製造状況、環境、人の配置など、あらゆる状況を観察し、情報収集に努めます。
情報が不十分だと、後のステップで考察が上手くいかず、ループが失敗する可能性が高まります。ある程度は方向性を絞って情報収集する必要はありますが、可能なら情報の取捨選択はせず、幅広く集めるようにしましょう。
Orient:状況、方向性判断
情報収集をしたら、今後どのようにするか方向性を判断します。集めた情報が多いほど選択肢が広げられ、できる戦略や目指すべき目的も分かってくるでしょう。
情報はあっても、固定概念があると視野が狭まり良い案が浮かんできません。様々な角度から考えてみることが大切です。
Decide:意思決定
目指す方向性が決まったら、実現に向けた内容を考えます。どのように実行するかはもちろん、必要な資源やコスト、注意事項など具体的なプランを考えてください。
もし、計画を考えるうえで情報や判断が足りないようなら「Observe」「Orient」に戻って改めてプロセスを再開します。「分からないからできない」ことがないようにしてください。
また、プランは複数考えます。考えたプランは必ず実行するわけではありません。複数ある選択肢の中から、より現実的で効果的なプランを選びましょう。
Act:行動、実行
プランが決まったら、行動に移します。情報や状況は常に更新されており、実行が遅れるとそれだけ前提条件である情報も古くなります。状況が変わると、折角計画したプランも使えなくなってしまうため、なるべくすぐに実行するようにしましょう。
また、目標の達成に問題が生じるようなら、改めて「Observe」からやり直します。1週目の内容や結果を基にしつつ、新しいプランを計画してください。
もちろん、目標を達成した場合も、さらなる成長や発展をさせるため、1週目の情報を参考に新しい目標を目指してみてください。
OODAループとPDCAサイクルの違いとは
PDCAサイクルとは、「Plan:計画」「Do:実行」「Check:評価」「Act:改善」からなる、達成サイクルのことです。物事を計画し実行、結果を評価したのち改善案を考えていきます。
PDCAサイクルも成長と発展を促すサイクルであることから、本質的にはOODAループと同じといえるでしょう。
ただ、PDCAサイクルは改善点を見つけるため、必ず最後までサイクルを回す必要があります。始めに計画を立ててからサイクルを回すことで、実行途中で挫折してしまうことも珍しくはありません。(挫折も1つの結果であり、挫折した内容を評価して改善を行う)
一方OODAループは、計画(意思決定)の前に事前段階を挟みます。計画に行き詰ったら前段階に戻って情報収集や考察しなおすのもOODAループの特徴であり、改善点を見つけるためループを最後まで回す必要はありません。
そのことから、OODAループの方が実行までの自由度が高く、変化に対応しやすいといえるでしょう。
また、OODAループは実行までの速度も重視します。そのため、PDCAサイクルよりも、状況が変化しやすい新規事業の立上げなどに向いています。
もちろん、PDCAサイクルが完全に劣っているわけではありません。PDCAサイクルは「既に実行されている工程を、より効率的に回すための改善」に優れています。
OODAループは「迅速な目標の決定」、PDCAサイクルは「長期的な改善」に秀でており、目的に合わせて使い分けることが大切です。
OODAループを生産現場で活用するためのポイント
OODAループを実際に活用するためには、個人の理解だけではなく、組織全体での理解が必要です。製造はチームで行うものであり、個人だけが意識しても、スムーズに実行へ移すことはできません。
OODAループを活用するためには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか?
組織全体で理念・目標を共有する
1つ目のポイントは、理念や目的を組織全体で共有することです。目標を全員が把握することにより、行動の必要性を理解できます。いくら必要なことでも、意味が分からない指示では、人はやる気を出せません。1人ひとりが「必要」だと理解することで、より効果を発揮します。
また、人数が多ければ、できることも広がります。情報収集はもちろん、目標の決定や実行案を考えるのも、1人で考えるより、様々な案が得られるでしょう。
判断基準を明確にする
2つ目のポイントは、判断基準を明確にすることです。内容が曖昧なままだと、どのように行動すれば良いのかよく分かりません。全力で取り組むことができないことから、充分な成果を挙げられないだけではなく、迷いによって事故やトラブルの原因にもなるでしょう。
OODAループを実行した後は、リーダーとなる者が明確な目標や方針を定義し、ミーティングを通じて明確に伝える必要があります。
また、変更がある場合も同様です。OODAループでは、プランに問題があれば前段階に戻って計画を練り直すことがよくあります。細かいことでも変更した際は連絡をし、チームや組織全体との認識のズレをなくすようにしてください。
大胆にメンバーに任せる
3つ目のポイントは、時にはメンバーに任せてしまうことです。規模が大きい製造では、1人ですべてを把握するのは難しくなります。トラブルが急に生じても、すぐには対応ができず被害が拡大してしまいます。
ですが、各工程ごとにチームリーダーを決め権限を委譲しておけば、チームリーダーがすぐに対応可能です。代わりに対処してもらえれば別の作業にも集中ができ、作業効率も上がるでしょう。
また、権限委譲は部下を育てる意味でも効果的です。上司がすべて決めるような状態では、いつまで経っても「指示待ち人間」のままとなります。
OODAループは、実践するうえで、自発的な行動力や判断力を育てることができます。将来のリーダー候補を育てるためにも、OODAループを実践させてみてください。
もちろん、完全に任せきりにするのではなく、必要に応じて指示や指摘も行います。アドバイスや間違いを正す意味もありますが、なにより、全体の生産状況を把握するため、定期的な確認が必要だからです。
迅速な目標設定にOODAループを活用するだけではなく、部下の育成目的でも、OODAループを活用してみてください。
製造業でのOODAループ活用例
実際のOODAループを活用した具体例を見てみましょう。
まずは、「Observe(情報取集)」からです。製品の需要、在庫数、受注状況、生産状況などを調べ、現状を把握します。
次に「Orient(状況)」についてです。需要が高まることで1000個の依頼(受注状況)がされているが、在庫数が足りず、生産状況も遅いことから、間に合いそうもないことが発覚します。何かしらの対策を取らないと、納品に間に合わないでしょう。
次に「Decide(意思決定)」についてです。生産スピードが間に合わないことから、24時間の交代シフトを提案します。作業員も優先的に配置換えをし、生産性を高めるよう計画を練るのです。
最後が「Act(実行)」についてです。時間が惜しいため、すぐに計画案を実行に移します。
以上が、製造現場で活用した場合の例となります。
もし、「Decide(意思決定)」の段階で生産が間に合いそうになければ、「Orient(状況)」の段階に戻って「自社だけでは間に合わない」と定義しなおし、再度「Decide(意思決定)」の項目で「外注も行う」ことも追加します。自社生産と外注を行えば、納品が間に合い、目標が達成されるでしょう。
また、再受注されたら、「Orient(状況)」の段階に戻って再検討します。前回のプランを踏まえつつ、問題ないようなら次の段階へ、問題があるようなら、その都度「Orient(状況)」の段階に戻って検討をしてください。
OODAループと同様に注目されている4つの業務改善手法
OODAループ以外にも同様にPDCAサイクルのデメリットを補填した業務改善手法が注目されています。その中から4つの改善手法をご紹介します。
PDSAサイクル
PDCAサイクルとは一文字違いの「PDSAサイクル」ですが、大きな違いは「C:Check」の代わりに充てられている「S:Study」です。
- Plan:計画
- Do:実行
- Study:研究、学習
- Act:改善
実はあまり知られていないサイクルですが、PDCAサイクルの進化系でPDCAサイクルの提唱者であるデミング博士が晩年にCheck(評価)だけでは不十分で、Study(研究・学習)がなければいけないと主張したことで新たな概念として生まれたサイクルです。
Checkだけでは計画に対する進捗状況の評価に留まってしまうため、出てくる改善策が対処療法的になってしまいがちなので、代わりにStudyとして計画の進捗確認に留まらず、計画を阻んでいる原因を突き止めることのできるPDSAサイクルで、新しいアイデアにも目を向けられるものとなっています。
ただし、PDSAサイクルはPDCAサイクル同様に「1サイクルに時間がかかる」問題は同様に発生します。
PDRサイクル
PDRサイクルとは、計画を立てないでとりあえずやってみるからスタートする業務改善手法です。
- Prep:準備
- Do:実行
- Review:評価
PDCAサイクルより1サイクルを回す要素が1つ少なく、準備をしたらすぐにサイクルを回すこともあり、早く簡単に「仮説検証」を行なうことができます。
Review(評価)の段階で第三者の客観的な意見を取り入れて改善を図るため、PDCAサイクルのデメリットを補填したフレームワークと言えますが、一方でサイクルを早く回せることで改善を繰り返すことが多くなるため、新しいアイデアが生まれにくいというデメリットは挙げられます。
STPDサイクル
STPDサイクルとは、計画を立てる前に「現状把握」をしっかり行なうことで目標と現状のギャップを抑えることを重視した業務改善手法です。
- See:観察
- Think:考察
- Plan:計画
- Do:実行
ソニー株式会社の常務取締役を務めた小林茂氏が提唱した考え方で、目標と現状の差を「See:観察」「Think:考察」の段階で計画前に分析することで、最初の目標を高く設定しすぎるという失敗を少なくできる手法です。高すぎる目標設定によるギャップは計画進行の妨げになる可能性が高い問題です。
「See:観察」「Think:考察」を「Plan:計画」の前に実施することで、先入観や根拠のない仮説などの抽象的な判断ではなく、数値や結果などの事実を「観察」して「考察」した上で「計画」することを重視しているため、現実的かつ効率的に目標と現状とのズレを少なくして取り組むことができるといえます。
DCAPサイクル
DCAPサイクルとは、行動による情報収集をもとに次の計画を立てるサイクルでPDCAサイクルの順番を変えた業務改善手法です。
- Do:実行
- Check:評価
- Action:改善
- Plan:計画
「Do:実行」からスタートすることで「考えるよりもまず行動する」ということを重視したフレームワークになっていて、計画を練ってから動くPDCAサイクルと違ってまず行動することで市場ニーズや競合他社の動向を把握してから改善するための計画を立てることになります。順番を変更しただけのサイクルにはなりますが、変化のスピードに対応するには、実際に行動してみて現場を知ることの方が、慎重に戦略を立てて実行に移すよりも適していると考えられています。
ただし、PDSAサイクルと同様に「1サイクルに時間がかかる」問題を解決できるものではないことには注意が必要です。
まとめ:今後の製造業に必要なフレームワーク
OODAループは、目標を定義・実行するために効果的なプロセスです。段階を踏んで実施することにより、目的と行動方針を明確にして取り組むことができます。
また、実行に移す際の問題点や改善点も見つけやすく、実行前に修正もできます。OODAループを活用することで、効率的に行動が進められるでしょう。
「4ステップに分けて考える」と聞くと複雑そうに思えますが、まとめると「必要な情報を収集し、実行案を考える」だけです。複数のプランを考える必要はありますが、しっかり情報収集をすれば難しくはありません。もちろん、他の人に相談したり、他の事例を参考にするのも良いでしょう。
近年は、工場のデジタル化によって、リアルタイムで情報収集も容易になりました。それに伴い、情報の更新も早く、もたもたしていると他企業に追い越されてしまいます。
「数多くの情報を参考に、迅速に行動を決める」OODAループの仕組みは、デジタル社会に適したやり方です。今後必要になる可能性もでてきますので、ぜひ活用してみてください。