生産状況を示す設備稼働率。現在の製造環境は効率的かを示す値であり、製造業において重要な指標にもなります。
総合設備効率は、そんな設備稼働率を知るための指標の一つです。国際的な標準指数である「ISO22400」の評価基準でもあり、今後の有用性も期待できます。
設備総合効率とはどのような指標なのか。指標の求め方と合わせて紹介します。
総合設備効率とは?
総合設備効率(Overall Equipment Effectiveness / 以下:OEE)とは、生産管理における稼働率や生産性を評価するための指標のことです。稼働率、性能、品質を算出し、その結果をすべて掛けることで、設備効率を評価します。大まかにまとめると、「効率的に良品を作れているか」の評価といえるでしょう
OEEを算出することで、現状における生産効率を、客観的に評価することができます。また、OEEの結果から、生産ラインにおけるムダやロスを見直す切っ掛けにもなります。
総合設備効率を構成する要素
OEEは、「時間稼働率」 × 「性能稼働率」 × 「良品率」で計算することが可能です。では、それぞれの率はどのように求めればいいのでしょうか?
以下の条件で計算してみましょう。
- 勤務時間(スケジュール):8時間(8時間 × 60分 = 480分)
- 休憩時間(計画停止時間):1時間(1時間 × 60分 = 60分)
- 時間外の停止(予定外の停止時間):1時間(1時間 × 60分 = 60分)
- 一つ作る予定の時間(基準サイクルタイム):2分
- 実際の一つ作る時間(実サイクルタイム):3分
- 製品数(加工数量):60個
- 不良品数:5個
時間稼働率
時間稼働率は、予定した稼働時間に対する実際の稼働時間の割合です。
- 時間稼働率 = 稼働時間 / 負荷時間
- 負荷時間 = スケジュール – 計画停止時間
- 稼働時間 = 負荷時間 – 予定外の停止時間
負荷時間を算出
負荷時間=スケジュール – 計画停止時間なので、条件から見てみると一日8時間のスケジュールと休憩時間の1時間が関係します。
勤務時間の8時間:480分から休憩時間の1時間:60分引いて、負荷時間は7時間:420分(480分 – 60分)となります。
稼働時間を算出
稼働時間=負荷時間 – 予定外の停止時間なので、条件から見てみると予定外の停止時間(時間外停止)の1時間と先ほど算出した負荷時間が関係します。
1時間:60分の時間外停止(予定外の停止時間)を行なっていますので、稼働時間は6時間:360分(420分 – 60分)になります。
時間稼働率を算出
以上を踏まえ計算すると、時間稼働率=稼働時間 / 負荷時間 =「6時間:360分(稼働時間) / 7時間:420分(負荷時間)」となり、時間稼働率は約86%(0.857)となるわけです。
改善できる部分もありますが、数値としてみれば、中々の好調といえるでしょう。
性能稼働率
性能稼働率は、生産時間に対する実際の生産数の割合です。
- 性能稼働率 = 正味稼動率 × 速度稼働率
- 正味稼動率 = 加工数量 × 基準サイクルタイム / 稼働時間
- 速度稼働率 = 基準サイクルタイム / 実サイクルタイム
正味稼働率を算出
正味稼動率=加工数量 × 基準サイクルタイム / 稼働時間なので、条件から見てみると加工数量の60個と基準サイクルタイムの2分、そして時間稼働率算出の際に算出した稼働時間6時間:360分が関係します。
加工数量は60個であり、基準サイクルタイムは2分です。そして稼働時間は6時間:360分のため、正味稼働率は「60個(加工数量) × 2分(基準サイクルタイム) / 360分(稼働時間)」= 120 / 360 = 33%(0.333)となります。
速度稼働率を算出
速度稼働率 = 基準サイクルタイム / 実サイクルタイムなので、条件から見ると基準サイクルタイムの2分と実サイクルタイムの3分が関係します。
基準サイクルタイムの2分に対して、実サイクルタイムは3分であるため、速度稼働率は「2分(基準サイクルタイム) / 3分(実サイクルタイム)」 = 67%(0.666)です。
性能稼働率を算出
以上を踏まえて計算すると、性能稼働率 = 正味稼動率 × 速度稼働率=「33%(正味稼動率) × 67%(速度稼働率)」となり、性能稼働率は約22%(0.2211)となるわけです。
数値でみると、性能稼働率は非常に悪かったといえるでしょう。
良品率
良品率は、生産数に対する良品の割合です。
- 良品率 = 良品数 / 加工数量
- 良品数 = 加工数量 – 不良品数
良品数を算出
良品数 = 加工数量 – 不良品数なので、条件から見てみると、加工数量の60個と不良品数の5個が関係します。
加工数量は60個であり、不良品数は5個のため、良品数は55個(60個 – 5個)になります。
良品率を算出
以上を踏まえて計算すると良品率 = 良品数 / 加工数量=「55個(良品数) / 60個(加工数量)」となり、良品率は約92%(0.916)となるわけです。
数値でみると不良品数は少なく、良品率は優れているといえます。
総合設備効率:OEE を算出する
そして、OEEはこれまで算出した要素である「時間稼働率」「性能稼働率」「良品率」を掛けて、「86%(時間稼働率) × 22%(性能稼働率) × 92%(良品率)」= 約17%(0.174)がOEEとなるわけです。
100%を目指して改善していくOEEの実際のところも目標値は85%以上(時間稼働率90%以上、性能稼働率95%以上、良品率99%以上)として改善していくようです。今回の例の数値で見るとOEEはかなり低く、何らかの対策が求められます。
ちなみに製造業の一般工場の平均値は30%~60%程度で低水準にとどまっていると言われています。
ISO22400における総合設備効率
ISO22400とは、製造実行システム(以下:MES)を国際基準としてまとめた標準のことです。日本以外にも、ドイツ、フランス、アメリカ、中国などが、ISO22400に準じています。
ISO22400では、MESを「生産性」「品質」「能力」「環境」「在庫」「保全」の計6領域に分けており、それぞれの領域で重要業績評価指標(以下:KPI)を定義しています。「生産性」なら負荷効率、「品質」なら設備保全といったように、計34項目の評価基準が設けられているのです。
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OEEも、生産性の領域に属するKPIの1つであり、同じISO22400を基準とする企業と比較することが可能です。
他社と比べて自社の設備効率を比較することで、改善可能かどうかが見えてきます。自社よりも効率が良い企業を参考(ベンチマーキング)にすれば、より自社の設備効率も向上するでしょう。
他にも、企業間の新規取引や、設備や工程を客観的に判断できるなど、様々な場面での評価基準に活用できます。
ただ、ISO22400による比較は、あくまでも他企業が採用している場合に限ります。日本国内でも採用している企業は多いですが、すべての製造企業が採用しているわけではありません。
さらに、「品質」や「能力」領域だけを活用するといったように、計34項目をすべて活用しない場合もあります。OEEは知名度が高く、基本として評価する企業は多いですが注意が必要です。
とはいえ、AIやloTの導入によるスマートファクトリーやデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む近年。将来的に多くの企業がISO22400を参考にすると考えられます。OEEと合わせて、ISO22400にも注目することをおすすめします。
2つの重要指標:OEEとTEEP
前述で紹介したOEE(総合設備効率)のほかに、設備の生産性の効率を示す際には設備機器総合有効生産(以下:TEEP)にも注目することが大切です。
設備機器総合有効生産(TEEP)
TEEPは暦上での時間効率を示すものであり、24時間365日で考えた場合の生産効率を表します。OEEとTEEPは、理想的な効率と実際の効率の比較を示すことになるわけです。
TEEPの計算式は、OEEを暦上の時間で換算することで求められます。
- 設備機器総合有効生産(TEEP) = ローディング × 総合設備効率(OEE)
- ローディング = 実働時間 / 実時間
ローディングを算出
ローディングとは、暦上の時間のうち実際に設備が稼働する予定のスケジュール上の時間の割合のことで、TEEP算出の指標のひとつです。
例えば、工場の稼働が週5日、8時間稼働するとします。一週間の実時間は、週7日 × 24時間ですので、ローディング = 実働時間 / 実時間 =「(5日 × 8時間)/(7日 × 24時間)」となり、ローディングは約24%(0.238)となります。
TEEPを算出
設備機器総合有効生産(TEEP) = ローディング × 総合設備効率(OEE)のため、OEEを85%と仮定すると、「24% × 85%」となり、20.4%(0.204)がTEEPの値となるわけです。
OEE的には85%と中々の設備稼働率といえますが、TEEP的にはかなり低く、時間的に見れば、まだ生産率を上げることは十分可能です。よりTEEPの向上を検討する場合は、シフト制の導入による365日運用や、AIなどを活用した製造の無人化などが考えられます。
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TEEPとOEEを構成する4つの下位指標
TEEPとOEEの計算には、それぞれ「ローディング」「性能」「稼働率(可動率)」「品質(良品率)」からなる、4つの下位指標が必要です。
TEEPとOEEによる2つの重要指標と、その計算に使われる4つの下位指標の関係は、合わせて覚えておくと良いでしょう。
総合設備効率に関連する7つの設備ロス
最後に、OEEを低下させる原因となる、7つの設備ロスについての紹介です。OEEの低下、すなわち生産性が低下する理由には、主に7つの要素があると考えられています。
- 故障
- 段取り・調整
- 刃具交換
- 立上がり
- 空転・チョコ停
- 速度低下
- 不良・手直し
「故障」「段取り・調整」「刃具交換」「立上がり」「空転・チョコ停」は稼働時間に、「速度低下」は正味稼動率に、「不良・手直し」は良品率にそれぞれ影響し、総合的にOEEを低下させます。
生産効率を向上させるためには、設備の遅れや停止を防ぐことが大切であり、7つの設備ロスを意識することで、OEEの向上につなげられるでしょう。
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AIやloTなどを活用した生産管理システムなら生産情報も見える化され、速度低下や不良が生じる原因もすぐにわかるでしょう。
他にも、掃除や整頓を始めとした5Sを実施することも大切です。それぞれの対策を検討し、設備ロスを防いで行きましょう。
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まとめ:効率良く設備を稼働させるための重要な指標
OEEを活用することで、設備の生産状況を数値として表すことができます。生産効率は生産の様子を見てわかるものではありませんが、数値化することで、誰でも分かるようになります。
また、OEEは国際的基準であるISO22400の一要素であり、同じ基準を活用する企業・設備と比較が可能です。より評価値が高いOEEを参考にすることで、自社の生産性の向上につながるでしょう。
もちろん、7つの設備ロスを意識することも大切です。OEEが低い原因が分からなくても、7つの設備ロスを一つずつ対応することで、自然とOEEが向上します。
OEEや下位指標の計算は難しいですが、ぜひ自社の設備も計算し、生産率の目安にしてみてください。