近年、グローバル化や新技術の発展により、近年は工場のデジタル化が進んでいます。AIやloTを始めとしたIT技術を導入する企業も増えてきており、今後はさらに、IT技術の導入が加速していくでしょう。
MESも、そんな工場のデジタル化を支えるIT技術の1つです。製造を支援するシステムであり、多くの製造業から注目と期待がされています。
MESとはどのようなシステムなのか。導入によるメリットや生産管理システムとの違いなどを紹介します。
MESとは?
MES(Manufacturing Execution System)とは、「製造実行システム」のことです。各生産ラインと連携することで状況を把握し、状況に合わせた適切な指示や分析、管理などを実行します。
日常生活にIT技術を普及させるDX(デジタルトランスフォーメーション)や、工場の自動化を目指すスマートファクトリーなど、近年は第四次産業革命を意識した取り組みが、世界各地で行われています。
MESも、そんなデジタル社会に必要な技術であり、今後の製造業において注目がされています。
MESAが定義した11の機能(MESA-11 Model)
アメリカのMES推進団体である「MESA」は、1997年に発表した「MESA-11 Model」内において、11の項目をMESの機能として定義しています。
# | 機能 | 内容 |
---|---|---|
1 | 生産資源の配分 | 工具や作業者などを配分と、状況を監視 |
2 | 仕様・文書管理 | 生産に関係する必要文書の作成・管理 |
3 | 保守・保全管理 | 保全活動の計画と実行 |
4 | 品質管理 | 収集した品質データから品質確認 |
5 | 作業のスケジューリング | 生産計画やシフトを決める |
6 | 製造指示 | 作業スケジュールに基づき、作業者に指示を出す |
7 | 作業者管理 | 作業者の状況を管理し、作業を割り当てる |
8 | データ収集 | 稼働状況や作業情報などの生産状況を収集 |
9 | プロセス管理 | 生産状況の管理と、問題発生時の警告 |
10 | 製品の追跡と製品体系の管理 | 仕掛品の追跡と後工程の管理 |
11 | 実績の分析 | 収集した情報から生産状況の分析と、結果の出力 |
大まかにですが、1〜4までが設備や製品などの「モノに対する管理」、5〜7までが「人に対する管理」、8〜11までが「全体の流れの管理」となります。
計11項目から製造現場を管理し、製造の見える化や作業の効率化などを目指します。
ただ、必ず11項目を導入する必要はありません。企業や向上によって生産スタイルは異なりますので、自社の状況に合わせて組み合わせることが大切です。
MESはなぜ必要なのか
MESが必要とされる理由は、時代に合わせた生産を実現するためです。
近年、日本はグローバル化の影響によって、大量生産から多品種少量生産へと時代が変化しています。ニーズの多様化が進むことで、ニーズに合わせた生産が求められているのです。
ですが、いざ多品種少量生産に切り替えるにしても、簡単にはいきません。導入のコストや知識の心配もありますが、生産ラインに合わせた新しいシフトを決める必要があるからです。
さらに、一度決めたら終わりではなく、生産ごとにシフトの変更も必要となります。必要とはいえ、人間の力だけでは容易ではなく、すべてを調整するのは困難を極めるでしょう。
そのため、人間の代わりに調整するシステムとして、MESの導入が求められます。loTによる情報収集やAIによる分析など、人間の力だけでは困難なことも、IT技術でなら難しくはありません。
作業のスケジューリングを決めるのはもちろん、品質管理やプロセス管理などによって生産のムダを削減します。それにより、作業効率の改善や生産性の向上が期待できるのです。
さらに、作業のムダを省けば、作業員の負担が軽減されます。安全性も向上することで、より働きやすい環境が作れるでしょう。
製造業がMESを導入する3つのメリット
MESを導入すると、製造業はどのように変わるのか。導入によるメリットをいくつか紹介します。
生産のムダ削減・業務効率化
1つ目のメリットは、生産のムダを削減し、業務の効率化が期待できることです。リアルタイムに製造を管理し、ムダを省いた新しい工程やシフトを立案します。
作業効率が改善すれば、納期が短くなり製造コストも削減されます。製造業において最も重要なのは「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」からなるQCDといわれており、MESによってコストと納期を大きく向上させられるのです。
また、収集したデータから、設備のトラブルも予測できます。事前に対処できれば、設備停止による「生産できないムダ」を防ぐことも可能です。さらに、設備の不調を改善することで不良品の発生を防ぎ、品質の向上にも貢献できるでしょう。
トレーサビリティの確保
2つ目のメリットは、製品の流れを追跡しやすいことです。全体の流れを把握できるため、何か問題が生じた場合は、工程を遡って原因究明ができます。
また、流れに沿うことで、ボトルネックや設備不調などの問題個所も発見可能です。シフトの変更や工程の入替を行うことで、生産のムダを削減することにつながります。
技能伝承・属人化解消
3つ目のメリットは、熟練作業員の技術を継承できることです。MESによって記録したデータを活用することで、熟練作業員のノウハウをマニュアル化して、工場全体に共有することができます。
新人もすぐに即戦力とすることができ、教育にかける時間やコストを削減可能です。
また、技術のマニュアル化に伴い、属人化も防げます。作業員全員が同じ作業が行えるため、シフトの交代も難しくはありません。
近年は少子化の影響により、人手不足が深刻化しています。新人がいないのはもちろんですが、十分に教育する時間も取れず、技術継承が難しい状態です。
人手不足による技術継承の問題を解決するためにも、MESの導入が望まれます。
他にも、同じ部署内(チーム内)だけではなく、他部署との連携も可能にします。MESを共有することにより、突発的な仕様書の変更にも迅速に対応できるでしょう。
MES領域のKPI国際基準:ISO22400
ISO22400とは、MES領域の標準指標を国際標準化した基準を指します。日本以外にもアメリカ、ドイツ、中国、フランスなどが活動に参加し、国や企業などで統一されていなかった指標を、統一化する目的があります。
統一化を目指す理由は、他企業の製造評価を参考に、製造業界全体をレベルアップするためです。生産効率の良い企業の評価を参考にすることで、自社の改善点が見つかり、作業効率や生産効率を向上させることができます。
ただ、そのためには評価の規格を揃えないといけません。評価が企業や国ごとにバラバラでは、参考にしても同じ結果は出せないでしょう。
ISO22400による評価基準はで定義されているMES領域のKPIは、「生産性」「品質」「環境」「能力」「在庫管理」「保全」の計6部門からなる生産性指標に分類され、さらに、各部門を項目ごとに分け、計34項目によって評価します。
評価指標を揃えれば、自社と他者を比較しやすくなります。ISO22400を導入するすべての企業が、互いに参考にして競争し合うことで、より良い製造環境が実現できるでしょう。
モノづくりのIoT化やDX※が進む中、「ISO22400」という言葉を記事や書籍などで聞いたことはあるけどよくわからないという方も多いのではないでしょうか。 本記事ではISO22400とは何なのか?概要を説明し、導入のメリット[…]
MESとERPの違い
管理システムには、他にもERPと呼ばれる管理システムがあります。MESとはどのように異なるのでしょうか?
ERPとは?
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、統合基幹業務システムのことです。企業の根幹となる「会計業務」「人事業務」「生産業務」「物流業務」「販売業務」などを統合したシステムであり、情報を一元管理し参照しやすくすることで、リアルタイムな経営戦略を可能にします。
今までは、各部門で別々に管理されていましたが、近年の多品種少生産時代において、それでは情報共有が遅く、折角の機会を逃してしまいます。
臨機応変に対応するためにはリアルタイムによる情報管理が必要であり、すべての業務を一元管理するERPシステムが、今後の製造業界において重要になっていきます。
ERPとの違い
MESとの違いは、管理する範囲の違いです。ERPは、会計や人事などの「業務管理」に関する管理なのに対して、MESは設備やシフトなどの「製造管理」を対象とします。
ERPは経営層への支援システムに対して、MESは実行層への支援システムともいえるでしょう。
それぞれ対象とする範囲は異なるため、状況に合わせて導入と運用を使い分ける必要があります。
MESと生産管理システムの違い
ERP以外にも、管理システムには生産管理システムが存在します。その名の通り生産に関する管理システムですが、製造実行システムであるMESとは、何が違うのでしょうか?
生産管理システムとは?
生産管理システムとは、生産工程全体を管理するシステムのことです。製造に関係する内容だけではなく、納期、在庫、品質、コストなど、生産に関わる全ての内容を管理します。
生産管理は、大企業(大工場)になればなるほど管理が難しいです。管理する情報量が多いのはもちろん、それに伴い、人的ミスも生じやすくなります。
さらに、管理が複雑であることから作業の煩雑化や属人化にもなりやすいです。万が一管理者が欠けてしまうと、代わりの者がいないことで、工場全体が機能停止してしまいます。
ですが、生産管理システムに一任すれば、人間が管理する問題からは解放されます。AIによって管理するため、人的ミスの心配はありません。マニュアルの作成などによって、属人化も防げます。
なにより、作業時間を短縮できるのが大きいです。入力や計算に時間を取られる必要がなく、その空いた時間を作業に活かせるでしょう。
作業効率の向上を実現するためにも、生産管理システムの導入が重要になってきます。
製造において、管理はとても重要です。在庫や顧客などの情報管理だけではなく、作業工程の管理、品質の管理、リスク管理など、様々な部分で管理を必要とします。また、管理以外にも原価計算や資材の発注などの細かい作業もあり、決して「ただ作って売[…]
生産管理システムとの違い
ERPと同様に、MESとの違いは、管理する範囲にあります。生産管理システムは、在庫管理や納品管理も含めた生産に関することすべてが対象であり、設備やシフトなどの製造に特化したMESとは範囲が異なります。
生産管理システムにも製造管理が備わっていますが、MESの方がより詳しく、現場に近い管理システムといえます。
大まかな認識としては、ERP内に生産管理システムが含まれ、生産管理システム内にMESが含まれると思ってもらえればいいでしょう。
まとめ:生産管理と生産設備の中間の情報を管理するシステム
MESとは、製造をサポートし、効率化を目指すシステムです。作業工程の管理以外にも、人や設備なども管理し、最適な配置や手順を指示します。
MESを導入することで、作業効率の改善や生産性の向上が期待できます。他にも、問題の究明による品質向上や、属人化の防止による人手不足の解消なども期待でき、より良い製造環境が作れるでしょう。
多品種少生産の時代において、柔軟に対応できることはとても重要です。機会を逃さないためにも、IT技術によるサポートが重要になってきます。
管理システムには、他にもERPや生産管理システムなどもあります。それぞれを使い分けることで、時代に合わせた生産を目指してください。