DX(Digital Transformation)の推進により、近年はさまざまな可能性が期待されています。IoTを活用したスマートシステムも可能性の一端であり、IoTを導入した新製品開発に乗り出す企業も少なくありません。
ですが、新製品の開発は心配事も多いです。前例がない場合だと不確実な部分も多く、無事にプロジェクトが完遂するかわかりません。たとえ完遂しても、コストがかかり費用対効果が見込めないようでは、プロジェクトは失敗に終わってしまいます。
PoCは、そんなプロジェクトの不確実性を解消するための手法です。PoCによってプロジェクトを検証することで、さまざまな可能性を予測しリスクを回避できます。
PoCとはどのようなもののことを指すのか。製造業で必要とされる理由や進め方などを紹介します。
PoC(概念実証)とは何か?
PoC(Proof Of Concept)とは、概念実証や実証実験と呼ばれる手法のことです。PoCによって、製品の善し悪しが大きく変わるといっても過言ではありません。
PoCとは、どのようなものを指すのでしょうか?
PoCの基本定義と意味
PoCとは、本格的な生産開始前に行う検証のことです。プロジェクトの目的が本当に有効かどうかを、実験やモニター募集などで確認をします。
例えば、新しくリンゴを使ったスイーツを開発するとします。その場合、「リンゴが好きか」どうかをアンケートするのがPoCです。
もし、リンゴが好きな人が大多数ならリンゴを使ったスイーツは売れますし、逆にリンゴが嫌いな人が大多数ならスイーツを開発しても売れ行きは期待できないでしょう。
単純な例ではありますが、PoCを活用することで、プロジェクトの有効性を事前に知ることができるわけです。
ほかにも、プレゼンテーションで技術的に可能かどうかを証明したりなど、PoCによってプロジェクトに説得力を持たせることもできます。
ちなみに、PoCは試作品(プロトタイプ)とは異なります。試作品は試しに使ってみて問題点などを評価する物であることに対して、PoCはプロジェクトの有効性を検証するためのものです。目的はもちろん、実施段階もそれぞれ異なります。順番的には、PoCの後に作られるのが試作品です。
PoV(Proof of Value)との違い
PoV(Proof of Value)とは、PoCが成功した後に登場する概念であり、価値のある成果を確認することに焦点を当てています。
PoVでは、単に技術が動作するだけでなく、それがビジネスや利用者にとって本当に価値があるかどうかを示すことが重要です。
PoVはビジネスの立場から評価され、成功すればPoCの次の段階に進むことが期待されます。
PoB(Proof of Business)との比較
PoB(Proof of Business)とは、最終的なビジネス目標の達成を証明するための概念です。PoCとPoVが成功しても、それが実際のビジネスにどれだけ貢献するかが問われます。
PoBでは、収益性や市場への影響など、ビジネス全体の側面が注目されます。成功したPoBは、プロジェクトや製品が実際のビジネス価値を提供することを確認し、全体的な成功を確立します。
簡単にまとめると、PoCはアイデアの実装を確認し、PoVはそのアイデアが価値があることを示し、PoBは最終的なビジネス目標を達成することを証明します。これらの概念を正確に理解することは、プロジェクトや製品の成功に向けた重要なステップとなります。
製造業におけるPoCの重要性
PoCが活用される主な理由は、プロジェクトの失敗を防ぐためです。プロジェクトの有効性を事前に知っておけば、プロジェクトの実現性を高めることができます。
これは、製造業であっても同じことがいえます。事前に有効性や実現性がわかれば、安心して開発や製造に着手できるでしょう。
プロジェクトは、大規模になるほど予算と時間がかかるものです。折角リリースしても、その製品が売れなければ企業は大損をしてしまいます。社運をかけたような場合だと、プロジェクトの失敗によって倒産しかねません。
そのため、近年では製造業に限らず、ほとんどの企業でPoCが行われています。売れる商品やサービスを提供するためにも、PoCは欠かすことができません。
製造業でのPoCの目的
PoCを行う目的は、「PoCの重要性」でも触れたようにプロジェクトの有効性を確認するために行います。プロジェクトの失敗は企業にとって大きな損失となるため、未然に防がなければなりません。
また、プロジェクトをスムーズに進めるためにもPoCは必要です。開発や製造で不確実な部分があると、事態によっては作業が停止してしまいます。場合によっては計画すべてが破綻し、計画中止による損失も発生するでしょう。
そのような事態を防ぐためにも、PoCによってプロジェクトの流れを検証し、実現可能であるかや、不確実な部分を事前に発見する必要があるのです。
開発から販売までを含め、プロジェクト全体の実現性を高めるため、PoCは行われます。
製造業がPoCを行なうメリット
PoCを実施することで、以下のようなメリットが得られます。
リスクの低減
一つ目のメリットは、「PoCの重要性」や「目的」でも触れたリスク回避です。本格的な生産開始前に有効性や実現性を知ることができ、プロジェクトが失敗しにくくなります。
生産の安定性や危険性なども把握できるため、従業員の負担軽減にもつながるでしょう。
効果の予測と評価
二つ目のメリットは、実施した場合の効果予測ができることです。「実施することでどのようなメリットが生じるのか」などを、PoCを通じて事前に知ることができます。
仮に効果がそぐわなくても、PoCによる評価を踏まえて修正すれば良いだけです。PoC実施時は本格的な生産開始前ですので、いくらでも修正ができます。PoCの結果を評価し修正を繰り返すことで、より理想的な生産や販売戦略を実施できるでしょう。
また、製品のブラッシュアップが実現すれば、投資もされやすくなります。PoCによって有効性や実現性などが証明されますので、上司や投資家たちから高く評価されやすいです。
PoCの実施により、スムーズにプロジェクトを進められます。
費用対効果の検証
三つ目のメリットは、費用対効果を検証できることです。PoCによって有効性を知ることで、どの程度の利益があげられるかが予測できます。それにより、プロジェクト実施による費用対効果も予測でき、「プロジェクトは完遂したけど、結果が見合わず赤字となる」事態を防げます。
もちろん、費用対効果が見合わなければ計画の見直しです。コスト削減や付加価値の追加などが必要になるでしょう。
製品を生産し販売できることが、プロジェクトの成功ではありません。プロジェクトに対して結果がでて、初めて「プロジェクトが成功した」といえます。
そのためにも、PoCによって費用対効果を、事前に確認する必要があります。
PoCの実施フローとステップ
PoCの実施は、以下の手順によって進めていきます。各フェーズごとに、それぞれの内容を確認してみましょう。
PoCの目的設定
ステップ1は、目的の設定です。「どのようなデータを取りたいのか」「何のためにデータを取るのか」など、PoCを実施する理由を設定します。
PoCを進めていると、度重なる修正などで当初の目的を見失いがちです。目的があやふやなまま進めていっても、本当に欲しいデータは集まらないでしょう。方向性を見失わないためにも、PoCのゴールとなる目的をしっかり決めておく必要があります。
また、目標設定は、できるだけ具体的にしてください。内容が具体的な方が、方向修正する際の参考となります。
実施/検証内容の設定
ステップ2は、検証内容の設定です。必要なデータを取るためには「どのように調査するか」を決めていきます。
設定するポイントは、なるべく小規模にまとめることです。あれもこれもと条件を追加していくと、目的を見失いやすくなります。まずは必要最低限の設定をし、必要なら少しづつ追加して形にしてください。
また、ユーザー目線で考えることも大切です。製品を使うのはユーザーであり、最終的な評価はユーザーが行います。ユーザーに向けた製品を作るなら、ユーザーの目線や使用する環境に合わせる必要があるでしょう。
実施/検証内容の実証
ステップ3は、PoCの実施です。ステップ2で設定した内容を実際に試してみてください。従業員が実際に行うのはもちろん、モニターによって評価を集めることで、ユーザーのリアルな声を聞くことができます。
また、実施する際は、実際の状況を想定した環境を再現してください。ただ実施するよりも、再現した方がよりリアルなデータを取得できます。
データ収集と分析
ステップ4は、収集したデータの分析です。実際に使用する状況を再現し、実施した評価をまとめてください。
また、まとめたデータは表やグラフでまとめるとわかりやすいです。上司や投資家たちへの説明材料にもなりますので、そのことを意識してまとめましょう。
実証結果の評価、及び次フェーズに繋げる
ステップ5は、分析したデータの検証です。データから評価し、有効性や問題点など、本格的な生産開始に向けた評価を行います。
また、PoCを実施した結果、ほとんどの場合で問題点や課題が見つかります。当然ですが、問題点や課題が残ったままでは本格的に生産を開始することはできません。
今回の評価をもとに修正を加え、改めてPoCを実施してください。そして、何度も繰り返すことで問題点や課題をなくし、充分な結果を期待できると判断したら、試作品の生産を開始しましょう。
PoCにおける注意点
PoCを実施するうえで、以下の点に注意してください。
スモールスタートを心がけること
一つ目の注意点は、スモールスタートを心がけることです。「実施/検証内容の設定」でも触れましたが、規模が大きいと目的がブレやすくなります。
また、大規模だと準備に手間がかかってしまいます。PoCをするだけでコストもかかり、予算がなくなってしまうでしょう。評価も手間がかかることから、本格的な生産開始も遅くなります。
スムーズに進めるためにも、スモールスタートはもちろん、1つずつ達成するスモールステップを心がけてください。
目的に沿って検証の条件を決めること
二つ目の注意点は、目的に沿って条件を決めることです。どのような検証をしたいかを明確にし、それに向けた条件を整えてください。目的と合わない状況を作っても、意味のあるデータにはなりません。
ただ、いくら必要であっても、難しい条件もあります。無理をして難しい条件を揃えても、従業員への負担や費用が増すだけでしょう。
潤沢に進めるためにも、無理のない範囲で、目的に沿った条件を決めてください。
本番を想定して検証を行なうこと
三つ目の注意点は、本番を想定した検証を行うことです。実際に使う様子を意識することで、検証データが活きてきます。
実際に使用する環境とは異なる環境で実施しても、正確なデータを得ることはできません。実際の現場だからこそ生じるトラブルもあります。
よりリアルなデータを取るためにも、本番を意識した環境や流れを決めてください。
ただ、「目的に沿った条件設定」と同様に、想定内容によっては現場の負担となってしまいます。
状況が難しく準備に負担が生じるようなら、妥協も視野に入れてください。
また、システムによるサポートがあれば、デバイスへのデータ入力やプログラミングで楽ができます。現場で作業する際も、すぐに準備ができるでしょう。
PoCの規模が大きくなるようなら、システムの導入も検討するといいです。
「PoC疲れ」「PoC止まり」などに気を付けること
四つ目の注意点は、「PoC止まり」にしないことです。計画の修正を繰り返すことで「PoC疲れ」となり、PoCをすることが目的となってしまうこともあります。
当然ですが、PoCをしたからといって製品ができるわけではありません。PoCはあくまでも生産の前段階であり、PoCをした後も、まだプロジェクトは続いていきます。
実証実験である以上は妥協が許されませんが、それで「PoC疲れ」となるようでは問題があります。適宜休憩を挟むのはもちろん、迷走するようなら原点回帰することも大切です。
そして、「PoCは手段」であることを自覚し、「PoC止まり」にしないよう意識してください。
まとめ:製造業のPoCとは?IoT導入にも欠かせない実証/検証
PoCとは、プロジェクトの有効性や実現性を検証するためのものです。実証実験することにより、プロジェクトを始動した場合の結果を予測できます。
事前にプロジェクト結果を予測できれば、リスクの心配がありません。問題点や不確実な部分を修正することで、プロジェクトの成果をより期待できます。
ただし、PoCの予測は絶対ではありません。状況によって、予測とは異なる場合もあります。そのことに留意して活用してください。
近年は、全世界でDXが推進されており、IT技術を使った新しい可能性が実施されています。PoCによって、新事業にも挑戦しやすくなるでしょう。
リスクを減らし新しいことへ挑戦するためにも、PoCを活用してプロジェクトの効果を検証してみてください。