SWOT分析とは、「強み」「弱み」「機会」「脅威」から企業を評価する手法です。近年はニーズの多様化によってコアコンピタンス(自社の強み)の見極めが注目されており、そのコアコンピタンスを見つける方法として、SWOT分析が主に活用されています。
激動する市場環境に対応するためにも、今後はコアコンピタンス活用が重要になってくるでしょう。
とはいえ、SWOT分析の使い方がわからなければ、コアコンピタンスも見つかりません。コアコンピタンスを見つけるためには、SWOT分析について知る必要があります。
SWOT分析とはどのような手法なのか。コアコンピタンスについても紹介します。
SWOT分析とは何か?
SWOT分析とは、経営環境を整理し、経営戦略に活かすための手法です。自社を取り巻く内部環境と外部環境を、それぞれプラスの要素とマイナスの要素に分け、客観的に経営環境を評価します。
また、それぞれの項目は「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」に分類され、それぞれの頭文字を取って、SWOT分析と呼ばれています。
近年は、IT技術の発展や世界情勢の変化により、先行きが見えない時代(VUCA時代)です。顧客ニーズが変化しやすいことから市場競争も激しく、競合他社との競争に勝つためには、市場の変化に対応した経営戦略が求められます。
とはいえ、自社の現状がわからなければ経営方針も決められません。方向性が決まらないまま経営戦略を決めても、競合他社の二番煎じとなり、業績は伸び悩んでしまうでしょう。
市場競争に勝つためには、競合他社にはない自社の強みを活かすことが大切です。そして、自社の強みを理解し経営戦略に組み込むためにも、SWOT分析が必要になってきます。
SWOT分析の4つのコンセプト
SWOT分析は、「強み」「弱み」「機会」「脅威」の4項目から評価します。それぞれ、どのようなコンセプトがあるのか確認してみましょう。
- 内部環境 × プラス要因 =強み
- 内部環境 × マイナス要因=弱み
- 外部環境 × プラス要因 =機会
- 外部環境 × マイナス要因=脅威
強み(Strengths)とは
強みは、企業にとってプラスとなる内部環境のことです。具体的な例としては、特許製品やブランド名などが挙げられます。
「競合他社にはない」もしくは「競合他社よりも優れている」要素であり、組織の根幹を支える企業の特徴といえるでしょう。
経営戦略の根底となる要素であり、強みを活かした経営戦略を立てることで、市場競争において競合他社よりも有利になれます。
弱み(Weaknesses)とは
弱みは、企業にとってマイナスとなる内部環境のことです。具体的な例としては、従業員の高齢化や資産不足などが挙げられます。
「競合他社に負けている」もしくは「目標達成の障害」となる要素であり、企業にとって解決すべき問題点といえるでしょう。
市場競争に勝つためには、強みを活かすだけでは足りません。弱さがあると、その部分が足を引っ張り、事業展開の妨げとなってしまいます。強みを活かす経営戦略を立てると共に、弱みを克服するための改善策も必要です。
機会(Opportunities)とは
機会は、企業にとってプラスとなる外部環境のことです。具体的な例としては、補助制度の導入や外国人観光客の増加などが挙げられます。
「自社に対して有利に働く」社会情勢であり、機会に合わせて事業展開することで、より事業展開を後押ししてくれます。
当然ですが、社会情勢は一企業がどうにかできるものではありません。そのため、経営戦略を立てる際は、機会に合わせて組み立てる必要があります。
機会に対して自社の強みを当てはめることで、顧客ニーズに合わせた商品展開が可能となるでしょう。
脅威(Threats)とは
脅威とは、企業にとってマイナスとなる外部環境のことです。具体的な例としては、物価高騰による購買力低下や新規企業の参入などが挙げられます。
「自社に対して不利に働く」社会情勢であり、自社の事業展開の障害となる要素です。ただ、社会情勢は一企業がコントロールできるものではなく、障害だからといって障害を取り除くことは難しいです。
そのため、原材料見直しによるコスト削減やネット販売による事業展開といったような、障害に対しての対策をとることが求められます。
SWOT分析の使い方
SWOT分析はどのように活用すればいいのか。SWOT分析の使い方について説明します。
内部環境分析:強みと弱みを見つける
内部環境からは、企業の強さと弱さがわかります。強さは企業の魅力や特徴を示しており、企業にとって伸ばすべきポイントです。強さを中心において事業や教育を進めることで、競合他社にはない自社だけのオリジナル要素が際立ちます。
逆に、弱さは企業の弱点を示しており、企業にとって克服すべきポイントです。企業の問題点や課題でもあり、弱さに対して改善策を講じることで、効率よく業務改善が行えるでしょう。
外部環境分析:機会と脅威を探る
外部環境からは、自社に直面する機会と脅威がわかります。今後の経営戦略に大きく影響する要素であり、機会に合わせて計画を立てることで、ニーズに沿った事業展開が行えます。
逆に、脅威は事業の妨げとなる要素です。事業を成功させるためにも、経営戦略とともに脅威への対策も立てる必要があるでしょう。
また、内部環境と外部環境を合わせて考えるクロスSWOT分析といった方法もあります。外部環境に合わせて強みや弱みを当てはめることで、今の情勢に対して何が必要なのかが見えてくるでしょう。
製造業がコアコンピタンスを再認識する意味
そもそも、なぜ製造業はコアコンピタンスを再認識する必要があるのでしょうか?
自社の強みを理解し、弱みをアウトソーシング
コアコンピタンスの再認識が必要な理由は、自社の強みと弱みを理解するためです。効果的な経営戦略を立てるためには、自社の特徴について知っておく必要があります。
自社の特徴がわからないままでは、何を自社の「ウリ」にすればいいのかわかりません。なんとなくで選らんでしまうと、パッとしない戦略結果となるでしょう。
ビジネスを成功させるためにも、経営戦略の主軸となる企業の武器(強み)を知る必要があるのです。
また、「ウリ」にすべき強みが分かれば、それ以外をアウトソーシングする選択も選べます。人材不足を嘆くなか、人材リソースを均等に分けるのはもったいないです。事業の根幹となるコアコンピタンスに人材を集中させ、残りの業務をアウトソーシングさせれば効率よく業務が進められます。
「餅は餅屋」といった言葉があるように、苦手な業務は専門企業に任せる方が確実です。企業の弱みとなる部分ほどアウトソーシングし、自社リソースをコアコンピタンスに注力してください。
ほかにも、IT化によって弱みを解消する方法もあります。近年は製造業DXが推奨されており、IT化が進む工場や企業は少なくありません。「弱みをシステムによってカバーする」といった意味では、製造業DXなどのIT化もIT分野のアウトソーシングといえるでしょう。
製造業DXによる製造プロセスのサービス化
近年では、自社の強みをそのままサービス化する企業も増えてきています。技術やオペレーションが優れている場合、その製造プロセスを標準化・デジタル化し、ブラックボックス化したうえで他社へと提供するのです。
それにより、製造プロセスの使用料が発生し、提供した企業は定期的にサービス料を得ることができます。
ほかにも、製品利用料に対する従量課金型のサービスモデルや、独自で開発した検査システムのサービス化など、IT技術を活用したサービスモデルは増加傾向にあります。
近年は製造業DXが推奨されており、デジタルデータが主流となってきています。それに伴い、デジタルデータを活用した「体験」や「経験」の価値が見直されているわけです。
ノウハウのような形にしにくいコアコンピタンスも、製造業DXによってサービス化ができ、それに伴う新しい経営戦略が期待されています。
コアコンピタンス見極めのポイント
コアコンピタンスは、SWOT分析しただけで決まるものではありません。確かに、SWOT分析によって企業の強みは分かりますが、その企業の強みが「自社だけの強み」となるかは別問題だからです。
コアコンピタンスは自社の根幹ともなる強みのことであり、競合他社と同程度の強みでは、コアコンピタンスとは呼べないでしょう。
コアコンピタンスと呼べるかどうかを見極めるためには、以下の視点から見極めることが大切です。
模倣可能性(Imitability)
一つ目のポイントは、模倣の有無です。競合他社が模倣できない要素はコアコンピタンスと呼べます。
当然ですが、簡単に模倣されてしまっては、自社の優位性がなくなってしまいます。たとえ技術を秘匿したとしても、見て模倣されてはどうしようもありません。
自社の優位性を保つためには、仕組みが分かっても模倣できない、もしくは、見ただけでは仕組みが理解できない要素が必要です。
移動可能性(Transferability)
二つ目のポイントは、要素がほかのことに移動可能かどうかです。いわゆる汎用性のことであり、さまざまな分野に応用できる汎用性の高さもコアコンピタンスと呼べます。
「コアコンピタンスによって、新規事業でも安定した結果を出せる」となれば、それは自社の強みといって過言ではありません。激動する顧客ニーズにも対応しやすくなります。
もちろん、移動が難しい専門的な要素もダメなわけではありませんが、根幹に沿えることを考えるなら、汎用性が高い方が便利といえるでしょう。
代替可能性(Substitutability)
三つ目は、代替の有無です。ほかの製品や技術で代用できない要素も、コアコンピタンスと呼べます。
模倣可能性と同じで、要素が真似されたら優位性が保てません。たとえ別の方法であっても、結果が同じなら同じことです。
模倣できないのはもちろん、別の方法でも難しい要素が、コアコンピタンスとなります。
希少性(Scarcity)
四つ目は、希少性の有無です。自社しかない要素なら、コアコンピタンスと呼べます。
希少であることは、そのまま付加価値となります。有用性が高ければ希少価値は高まり、莫大な利益となるでしょう。市場環境も独占でき、一人勝ちの状態にできます。
希少性といえば宝石や金といった天然モノを連想しますが、希少性は作ることも可能です。模倣可能性や代替可能性が高い要素は、自社しかないことから自然と希少性も高まります。
コアコンピタンスを見極める際は、まず模倣可能性や代替可能性から評価してみてください。
耐久性(Durability)
五つ目は、持続可能性の有無です。長期にわたって優位性を保てる要素は、コアコンピタンスと呼べます。
ブランド名や技術のノウハウが良い例であり、月日が経っても強みは色褪せません。むしろ、長く続いているからこそ、さらなる強みとなってくれるでしょう。
「長く続く」ということは、長く成功していることを意味します。長年育てた要素は、コアコンピタンスと呼んでも過言ではありません。
コアコンピタンスを見つけ出す3つの手順
コアコンピタンスを決める際は、以下の手順に沿って探すと見つけやすいです。どれがコアコンピタンスか迷う人は、参考にしてみてください。
自社の強みを洗い出す
ステップ1は、自社の強みを洗い出すことから始めます。この段階では、まだ明確にコアコンピタンスを決めるわけではありません。あくまでも候補を洗い出すだけですので、SWOT分析などを用いてどんどん強みを挙げていってください。
また、強みは部署や部門ごとに異なります。立場によっても見え方が変わってくるでしょう。
そのため、コアコンピタンスを決める際は、複数人、可能ならさまざまな部署や立場の人を交えて話し合うことが大切です。
強みに対する評価を行なう
ステップ2は、洗い出した強みに対して評価を行います。評価基準は「顧客に何らかの利益をもたらす」「競合相手に真似されにくい」「複数の商品・市場に推進できる」ことの3つです。
コアコンピタンスと呼べる最低限の条件でもありますので、条件に当てはまらない強みは、残念ながらコアコンピタンスと呼べません。
洗い出した要素をリスト化し、一つずつ話し合って評価してください。
また、数値化できると比較しやすいです。競合他社と比較してどの程度の優位性が取れているかが一目でわかるため、評価しやすくなります。
難しいようなら無理に数値化する必要はありませんが、販売記録や顧客データなどを参考にして、数値化してみてください。
強みを絞り込む
ステップ3は、強みの絞り込みです。複数ある強みの中から、最も影響力が強いコアコンピタンスを決めてください。
強みが複数あると、経営戦略を決める際に迷ってしまいます。複数にアプローチした経営戦略はどっちつかずな戦略になりやすく、思ったような効果は期待できないでしょう。
自社リソースを集中させるためにも、経営戦略の中心となるコアコンピタンスを決める必要があります。
絞り込みには、「コアコンピタンス見極めのポイント」で挙げた5つの要素と照らし合わせていきます。一概にはいえませんが、要素との合致が多いほど、影響力の大きいコアコンピタンスといえるでしょう。
絞り込みが終わったら、絞り込んだコアコンピタンスを中心とした経営戦略を立ててください。
SWOT分析の具体的な進め方
最後に、SWOT分析の進め方について紹介します。
ステップ1:事前準備
まずは、事前準備から始めます。「分析対象は何か」「最終的な目標・目的は何か」「現在のニーズは何か」「競合他社はどこか」など、内部環境と外部環境を可能な限りまとめてください。
特に、「分析対象は何か」「最終的な目標・目的は何か」といった前提条件は、明確にしておかないと分析結果が変わってしまいます。同じ要因であっても、前提条件によって強みか弱みかで変わるからです。
分類のしやすさも違ってきますので、内容を具体的にまとめてください。
また、「GAP分析」や「3C分析」といったような、別の手法を活用するのもいいです。どちらも自社の強みや弱みを見つける手法であり、活用することで効率よく要素が見つかります。
ステップ2:強みの明確化
情報収集や定義決めが終わったら、次は強みを明確化していきましょう。事前準備でまとめた中から、自社にとっての強みを分類してください。
もちろん、進めていくうえで新しい強みが見つかれば、それも追加していきます。多角的な視点を持つためにも、チームで話し合いながら進めるといいです。
明確化した強みの例
- 歴史が長く知名度が高い
- IT化が進んでいる
- 流通も自社で行なっている
簡単な例として、自社とはどのような企業なのか、どのような特徴なのか、得意なことは何かなどを挙げてみましょう。
ステップ3:弱みの洗い出し
強みの次は、弱みを洗い出します。事前準備でまとめた中から、自社にとっての弱みを分類してください。
もし、弱みがわからない場合は、競合他社と比較してみるといいです。単純に、競合他社に負けている要素は、自社の弱みといえるでしょう。
ほかにも、クレームや普段の業務で困ったことなども弱みといえます。
洗い出した弱みの例
- 独自の流通ルートがない
- 工場が一つしかない
- 人手が足りない
簡単な例として、上記のように課題が挙げられる問題点や現場の困りごとなどを挙げてみましょう。
ステップ4:機会の見つけ方
弱みの次は、機会を見つけます。事前準備でまとめた中から、自社のメリットとなる外的要素を分類してください。
注意点としては、強みと混同しないことです。機会は外的要因であり、自社とは関係ない要素となります。市場や客層に関係あるものを機会としてまとめましょう。
見つけた機会の例
- 新型コロナウイルスの影響によりマスクの需要が高まっている
- 海外での需要が高まっている
- 同じ製品を作っている競合他社が少ない
簡単な例として、強みとは相対的に外部要因によって得られることや社外や海外などで起こり得る要素などを挙げてみましょう。
ステップ5:脅威の評価と対策
最後は、脅威を評価します。事前準備でまとめた中から、自社のデメリットとなる外的要素を分類してください。
機会と同様に、弱みと混同しないことが大切です。市場や客層に関係あるものをまとめてください。
評価した脅威の対策の例
- 新型コロナウイルスの影響により流通が途絶えている
- 有名企業が市場に参入した
- 円安であり輸入コストが上がっている
簡単な例として、弱みと対照的に外部要因によって発生する問題や社外、海外の事案が原因で起こり得る要素を挙げてみましょう。
また、評価とともに対策も立てておくといいです。いくら自社がコントロールできない要因といっても、「仕方がない」で諦めるわけにはいきません。できないならできないなりの対策が必要です。
強みと機会から経営戦略を、弱みと脅威から対策を立てることで、今後の経営方針が決定します。
まとめ:自社の強みや弱みなどを理解するためのフレームワーク
SWOT分析は、自社の強みや弱みなどを客観的に評価するためのフレームワークです。強みと弱み、機会と脅威をまとめて評価することができ、企業を取り巻く環境が一目でわかります。
市場競争に勝つためには、自社のコアコンピタンスを知ることがとても重要です。そして、コアコンピタンスを見つけるためにはSWOT分析が必要となってきます。
自社の現状を正しく理解するためにも、ぜひ一度SWOT分析を試してみてください。