プロジェクトを進める際、重要になるのは計画書の作成です。計画書の有無によってプロジェクトの成功率が変わるといっても過言ではなく、しっかりとした計画書の作成が望まれます。
しかし、何事にも不測の事態はつきものであり、必ずしも計画通りに進むわけではありません。計画にないことが生じれば作業は中断してしまい、納期に間に合わなくなってしまうでしょう。
PDPC法は、そんな不測の事態に対応するためのフレームワークです。事前に不測の事態への対応策も用意しておくことで、スムーズに対処できるようにしておきます。
PDPC法とはどのようなフレームワークなのか。活用例や手順など、PDPC法について解説します。
新QC7つ道具の一つ「PDPC法」
PDPC法とは、どのようなフレームワークなのか。活用例と合わせて確認してみてください。
PDPC法とは?
PDPC法とは、想定される問題とその対処法をまとめたフレームワークのことです。作業全体の流れをフローチャートでまとめ、想定される問題を分岐点として別ルートに記載することで、問題が生じた際の対応を指示します。
どのような作業でも、不測の事態はつきものです。「意見がまとまらない」「分量の調整が合わない」「基準よりサイズが大きい」「機械がストップした」など、さまざまな問題が思いつくでしょう。
しかし、問題が生じるたびに対応に追われるのは時間のムダです。作業もストップしてしまい、納期に間に合わなくなってしまいます。
そのため、万が一のときを予測し、あらかじめ対策を講じておきます。それにより、問題が生じても作業を止めず、スムーズに対応ができるようにするわけです。
日本には「備えあれば憂いなし」といった言葉が存在します。スムーズに作業を進めるためにも、PDPC法によって備えておくことが大切です。
PDPC法の製造業での活用例
製造業では、主に危機管理に活用されます。問題が生じた際への対処法を事前に決めておくことで、被害を最小限に抑えるのです。
また、品質管理にも用いられます。あらかじめ問題点を予測しておくことで、実際に問題が生じる前に、改善策を準備できるでしょう。
ほかにも、図にまとめることから作業を説明する際にも役立ちます。言葉だけではわかりにくい流れも、図を見ながらなら理解しやすいです。
研究部門なら想定する問題を考慮したうえでの計画立案、営業部門なら顧客の対応に合わせた適切な対応がとれるなど、製造部門以外でもPDPC法は活用されています。
新QC7つ道具(N7)とは?
新QC7つ道具とは、言語データを整理し、問題解決を目指す7つのフレームワークのことです。図や表にまとめることで全体像を把握し、現状把握や新しい発見ができるようになります。
PDPC法も新QC7つ道具の一つであり、作業内容を図にまとめることで全体の流れを把握したり、障害の予測から業務内容の改善が可能です。
ほかにも、新QC7つ道具には6つのフレームワークが存在します。ほかのフレームワークはどのようなものがあるのか確認をしてみましょう。
PDPC法以外の新QC7つ道具
新QC7つ道具には、PDPC法以外にも以下のフレームワークがあります。
- 連関図法:要因を矢印で結ぶことで関連性を明確にする手法
- 親和図法:親和性のある言語データをまとめ、グループを作ることで問題解決を目指す手法
- 系統図法:テーマを構成する要因をツリー状に配置し、二次手段・三次手段と遡ることで必要な行動を明確にする手法
- マトリックス図法:2つの要素を行と列に記入し(表)、関連性を交点にまとめることで問題解決を目指す手法
- アローダイヤグラム法:作成手順を矢印で結び、全体の流れを管理する手法
- マトリックスデータ解析法:2つの要素を縦軸と横軸でまとめ(グラフ)、交点に印を付けていくことで特徴を分析する手法
製造業における管理の中で、特に重要視される品質管理(Quality Control:QC)。品質が低下した際には「QC7つ道具」と呼ばれる方法を活用し、問題解決に努めています。 そんな品質管理ですが、近年ではQC7つ道具に次ぐ[…]
特性要因図や親和図法との違い
特性要因図や親和図法も矢印で要因を結ぶフレームワークですが、PDPC法とは活用する目的が違います。
特性要因図はQC7つ道具の一つであり、問題点を洗い出すためのフレームワークです。結果(目標・テーマ)に対して「人」「設備」「方法」「材料」からなる要因を付け加えていくことで、結果に影響する対応すべき問題点を見つけ出します。
また、親和図法は新QC7つ道具の一つであり、散らばった要因をグループ化し整理することで、問題点を明らかにします。
一方で、PDPC法は問題解決を事前に用意することを目的とします。事前に対策がされていれば、問題が生じても慌てることなく対応ができるでしょう。
特性要因図は対処すべき問題点の特定、親和図法は要因をまとめることによる課題の決定、PDPC法は解決策の事前準備といったように、活用目的はそれぞれ異なります。
ほかのQC7つ道具や新QC7つ道具も、それぞれ違った目的があります。フレームワークを活用する際は、「何を知りたいのか」を明確にし、それに合わせたフレームワークを選ぶことが大切です。
PDPCの種類
PDPCには、「強制連結型PDPC」と「逐次展開型PDPC」の2つが存在します。
どちらもPDPCの分類ではありますが、それぞれ作りは異なり、活用目的も異なります。
それぞれどのような経路になるのか、確認してみましょう。
強制連結型PDPC
強制連結型は、不測の事態を考慮し打開策を考えるPDPCです。問題が生じる可能性がある部分でルートを分岐させ、分岐した先に問題を解決するための打開策を準備します。
また、強制連結型では、分岐したあとも設定したゴールを目指します。つまりは、一旦分岐したとしても、元の流れへと戻るよう対策をとるわけです。
対策をしたらすぐに元の流れに戻ることが多いですが、そのまま別ルートで続いていく場合もあります。それでも、最終的には設定したゴールへと帰結する点は変わりません。
強制連結型PDPCによって、問題をスムーズに解決し目的を達成できます。
逐次展開型PDPC
逐次展開型PDPCは、可能性を広げゴールを目指すPDPCです。分岐点ができたらルートを分岐させ、それぞれが別々にゴールを目指します。
例えば、「生産性を上げる」といったテーマがあるとします。その際、考えうる内容として「作業時間を増やす」「作業員を増やす」「機械を導入する」といった方法が挙げられるでしょう。
そのような場合は、「2交代制にする」「人員配置を変える」「加工機器を購入する」といったように、それぞれの案を考慮し、目標が達成できるかを検討するのです。
ただ、案を考察した結果、「人員が足りない」「別の部署が人手不足になる」「コストが足りない」といった理由から実行不可能となる場合もあります。
もちろん、そのような結果になっても間違いではなく、「その案では実行ができない」ことが分かります。
そして、すべての案を考慮していき、ゴールに到達できた案が、今後目指すべき対策案となるのです。
強制連結型は「対策を考える」PDPCですが、逐次展開型は「実行案を決める」PDPCです。
テーマによって使えるPDPC法は異なるため、どちらを使うべきかをしっかり判断してください。
PDPC法の具体的な手順
PDPC法は、主に以下の手順によって経路を作成します。
解決したい課題・メインテーマの設定
まず始めに、テーマを設定します。「作業工程の改善」や「新規事業に向けたフローチャートの作成」など、PDPC法を行う目的を明確にしてください。
テーマが定まっていないと、スタートとゴールを決定できません。テーマによって、強制連結型と逐次展開型のどちらを使うかも変わってきます。
また、テーマを明確にすることで、作図や話し合いで煮詰まった際に原点回帰しやすくなります。話が大きくなればなるほど脱線しやすくなるため、定期的にテーマを再確認することは大切です。
今回は、強制連結型PDPCの作成手順について説明していきます。
スタートの初期状態や現状・制約事項の明確化
テーマを決めたら、初期状態や現状をまとめてください。「作業人数」や「いつまでに完了するか」など、わかっている範囲の情報を列挙しておきます。
また、テーマについて制約事項がある場合は、合わせて明確にしておきます。せっかく作成したのに、制約によって実施できないようでは意味がありません。
条件や制限がある場合は、忘れないようまとめておいてください。
スタートとゴールの設定
各種事項を明確化したら、スタートとゴールを決定します。「作業工程の改善」をテーマとしているなら、スタートは「作業の準備」、ゴールは「製品の完成」になると思います。
PDPCでは上から下へと書いていくのが一般的ですので、スタートは上方に、ゴールは下方に置いてください。
PDPC法の作図において、スタートとゴールは太字の楕円で囲むとされています。よりわかりやすくするなら、色も変えるといいでしょう。
- スタート:太字の楕円
- ゴール:太字の楕円(太い二重の楕円)
大まかなルートを作成
スタートとゴールを設定したら、大まかにルートを作成していきます。「部品の準備」「部品を機械にセットする」「部品を加工する」「部品の組み立て」「納品する」といったように、一連の工程を書き出してください。
PDPCで直進するルートは、不測がない場合のルートです。そのため、このルートが最も理想的で最短ルートといえるでしょう。
PDPC法の作図において、実施事項は長方形で囲むとされています。よりわかりやすくするなら、色も変えてみてください。
- 実施事項:長方形
不測の事態ルートを追加
基本となるルートを作成したら、不測が生じた際のルートを追加していきます。
「加工した部品が規格と合っていなかった」といった事態が予測される場合は、「部品を加工する」実施事項のあとに「規格は合っているか」といった分岐点を追加しましょう。
また、「サイズは合っているか」「重さは合っているか」など、確認項目が複数ある場合は、分岐点を複数並べます。一つの分岐点からは一つのルートしか追加しませんので、不測の数だけ分岐点を増やしてください。
PDPC法の作図において、分岐事項は菱形で囲むとされています。矢印を引く際も、太字で書くと計画したルートと区別しやすいです。
- 分岐事項:菱形
不測の事態から理想的な計画に戻るルートを追加
不測が生じた際のルートを追加したら、不測が生じた際に、どのような対応をするかを記載します。
「加工した部品が規格と合っていなかった」場合には、「加工設定を見直す」といった対策が思いつくでしょう。
また、対処をしたあとは、元のルートへと戻ります。加工設定を見直しましたので、「部品を加工する」実施事項に矢印でつないでください。
また、今回は前工程に戻るルート追加を説明しましたが、次の工程に進むルート追加もあります。
「加工した部品が規格と合っていなかった」場合には「タグを付ける」といったように別のルートを用意し、次工程である「部品の組み立て」に矢印でつないでください。
すべての分岐ルートを作成したら、PDPC図の完成です。
PDPC法の作図において、実施事項は楕円で囲むとされています。元のルートへ戻る矢印も、わかりやすいよう太字で書くようにしてください。
- 対策事項:楕円
作成したPDPCを確認して仕上げる
最後は、完成したPDPCの見直しです。抜けや書き間違いなどがないか確認し、問題があるようなら修正をします。
また、体裁も意識してみてください。作成した図をもとに話し合いや作業を進めますので、わかりにくいと内容が伝わりません。
「矢印が交差していないか」「色分けはされているか」など、見やすくわかりやすいよう、調整してみてください。
PDPC法を作る際のポイント
順調に作業を進めるためにはPDPC法は欠かせませんが、初めてだと上手くいくか不安になると思います。
PDPC法を成功させるためにも、以下のポイントを意識しながら取り組んでみてください。
ポジティブに取り組む
PDPCを作る際は、ポジティブな気持ちで取り組むといいです。
PDPCはNGな場合の対策を考えるフレームワークであり、NGな可能性を挙げていくことで、今までの作業に不安を感じてしまうこともあります。
メンバーが不安にならないよう、リーダーは「失敗しないための確認」であることを理解し、明るい雰囲気になるよう話し合いを進めてください。
前提条件を決めておく
PDPCを作る際は、前提条件を決めておくといいです。
PDPCは不測の可能性を考慮しながら作成しますが、すべての可能性を考慮してしまうと、内容が膨らみ過ぎてしまいます。結果として全体像を分かりにくくし、目的や目標を見失ってしまうでしょう。
そのようなことがないよう、作成に前提条件を設け、内容が膨らみ過ぎないようにします。制限を設ければ可能性や対策に制限がかかり、内容が膨らみすぎません。
また、前提条件を決めることで、立案もしやすくなります。
PDPC法がまとまらないようなら、「低コスト」「製造部門だけで完結させる」などの前提条件を加え整理し直してみてください。
要素をリストアップしておく
PDPCを作る際は、要素を事前にリストアップしておくといいです。
PDPCは流れをフローチャートにして書き出しますが、作図と思い出すことを同時にすると、抜けが生じやすくなります。
フローチャートに抜けがあると、正しく作成ができず、対策も適切に行えません。
面倒かもしれませんが、まずは要素をリストアップし、リストアップした内容をもとに作図してください。
また、それぞれの要素を分類しておくと、より作図が進めやすくなります。特に、作図初心者だと要素の並べ方で失敗しがちです。どこに何を配置すればいいのかがわからず、作図が混沌としてしまいます。
リストアップといっしょに、要素がどの事項に当てはまるのかも判断してみてください。
補足説明を残しておく
PDPCを作る際は、補足説明も残しておくといいです。
PDPCの魅力は、全体像をフローチャートでスッキリまとめられることですが、フローチャートだけだと情報が不足しがちです。
あとで見直した際に内容が分かりにくく、せっかく記録として残しても、次回に活かすことが難しいです。
そのため、フローチャートだけではなく補足説明も残しておきます。そのようにすれば、あとで見返した際も内容がわかり、情報資産としての価値が高まります。
必要だと思うことは、すべてPDPCに付け加えてください。
とはいえ、補足説明のせいでわかりにくくなってしまっては意味がありません。ごちゃごちゃしてきたら内容を整理し、わかりやすいよう清書しましょう。
まとめ:PDPCは急がば回れの精神で作成して計画を開始しよう
PDPC法は、問題の対策を事前に決めるフレームワークです。予想される可能性を事前に警戒しておくことで、慌てることなく対応ができるようになります。
とはいえ、PDPC法で準備するのは「可能性に対する対応」であり、順調に作業が進めば準備も必要ありません。場合によっては、PDPC法がムダになる可能性すらあります。
それでも、万が一を考え準備しておくことはとても大切です。防災準備と同じで、準備しておくことが、いざというときに心の支えとなるでしょう。
日本には「急がば回れ」といった言葉があります。「遠回りであっても、堅実である方が結果的にうまくいきやすい」といった意味の言葉です。
作業を最後までやりきるためにも、ぜひPDPC法を活用して不測の事態に備えてください。