改善策を実施する際、大切なのは実施する優先順位です。改善策はたくさんある方がいいですが、量が多すぎるとすべて実施するのは難しくなります。時間は有限であるため、より効率良く結果を出すためには、効果の高い改善策から順に選ぶ必要があります。
マトリックス図法は、そんな優先順位を決めるのに適したフレームワークです。2つの要素から評価することで、最も評価点の高い改善案を見つけることができます。
ほかにも、評価点から芳しくない要素や組み合わせを見つけたりなど、問題解決への糸口にもなるでしょう。
マトリックス図法とはどのようなフレームワークなのか。活用例や手順など、マトリックス図法について解説します。
新QC7つ道具の一つ「マトリックス図法」
マトリックス図法とはどのようなフレームワークなのか。活用例と合わせて確認してみてください。
マトリックス図法とは?
マトリックス図法とは、2つの要素から評価し、現状把握や課題の考察につなげるフレームワークのことです。2つの要素をそれぞれ行と列に配置し、交点に関連度合いの評価を記入していくことで、影響力を調べていきます。
問題解決を目指す際、話し合いによっていろいろな案を思いつくと思います。どの対策案も効果が期待され、すべて試してみたく思うでしょう。
ですが、すべての対策案を同時進行するのは現実的ではありません。コストや時間がかかるのはもちろん、実施者への負担が大きくなり、一つ一つの対策がおろそかになってしまいます。
一つずつ試していくにしても、対策案が多いと効率的とはいえないでしょう。
そのため、解決案を実施する際には、優先順位を決めることが大切です。効果的な対策案を優先的に行えれば、コスパ良く問題解決を目指すことができます。
マトリックス図法を活用すれば、問題と対策案を評価することが可能です。どの対策案が最も効果があるのかを調べることができ、それによって実施すべき優先順位を決められます。
ほかにも、要素を変えれば対策案の費用対効果を評価することも可能であり、マトリックス図法によって、それぞれの対策案を評価できるようになります。
マトリックス図法の製造業での活用例
マトリックス図法は、立案した対策案の評価をする際に活用されます。『マトリックス図法とは?』の見出しでも触れたように、挙げられた対策案を評価し、それによって優先順位などを決めていくのです。
また、品質改善目的でも活用できます。品質情報と⼯程管理の関係性を評価するなど、品質保証の強化につながるでしょう。
ほかにも、単純に影響力の視覚化目的で使用するのもいいです。視覚化すれば全体像を把握しやすくなり、認識を共有することで話し合いがしやすくなります。
問題解決に使われることが多いですが、ほかにもいろいろな要素の組み合わせで活用されています。
新QC7つ道具(N7)とは?
新QC7つ道具とは、言語データを図や表にまとめ、品質改善などの問題解決を目指す7つのフレームワークのことです。
従来のQC7つ道具は主に数値を当てはめて評価していましたが、新たな新QC7つ道具は数値の代わりに言語データを当てはめ評価します。それにより、QC7つ道具では難しかった要素も評価できるようになり、さまざまな問題を整理しまとめることができます。
マトリックス図法も新QC7つ道具の一つであり、2つの要素を評価する際に活用されています。
マトリックス図法以外の新QC7つ道具
新QC7つ道具には、系統図法以外にも以下のフレームワークがあります。
- 連関図法:要因を矢印で結ぶことで関連性を明確にする手法
- 親和図法:親和性のある言語データをまとめ、グループを作ることで問題解決を目指す手法
- 系統図法:テーマを構成する要因をツリー状に配置し、二次手段・三次手段と遡ることで必要な手段を明確にする手法
- アローダイヤグラム法:作成手順を矢印で結び、全体の流れを管理する手法
- PDPC法:工程ごとの手順と解決案を図式化し、矢印で結ぶことで目標達成を目指す手法
- マトリックスデータ解析法:2つの要素を縦軸と横軸でまとめ(グラフ)、交点に印を付けていくことで特徴を分析する手法
新QC7つ道具とひとまとめにされてはいますが、すべてを一度に使うことは滅多にありません。それぞれ使い方やわかる内容も異なるため、目的に合わせて使い分けることが大切です。
マトリックス図法と相性の良い系統図法
マトリックス図法は、新QC7つ道具の一つである系統図法と特に相性がいいです。系統図法で展開した手段にマトリックス図法を当てはめることで、導き出した手段を評価することができます。
たとえば、系統図法によって「マニュアルを導入する」「作業ロボットを導入する」「道具を使いやすいよう整理する」といった手段が出たとします。このままでは、どの手段が最も効果的かわかりません。
ですが、手段をマトリックス図法に当てはめ「コスト」「時間」「手間」などで評価すれば、どの手段が最も実現性が高いかが見えてきます。それにより、実施すべき優先度も決められるようになるでしょう。
それぞれ単体でも活用できますが、合わせて活用することで、よりスムーズに問題解決や課題の決定をすることができるようになります。
マトリックス図法の具体的な手順
マトリックス図法は、以下の手順で進めていきます。
目的・テーマを決定する
まず始めに、目的やテーマを決めます。「作業ミス改善の効果を知りたい」「生産効率を挙げたい」など、明確にしたい内容や、課題として挙げたいことを設定してください。
行と列に記入する要素を決定する
テーマが決まったら、次は行(横軸)と列(縦軸)に入れる要素を決めていきます。実施する人によって行と列の内容は異なりますが、行には課題を、列には関係する要因を当てはめることが多いです。
たとえば、「作業ミス改善の効果を知りたい」ことをテーマとした場合、行には「個数が異なる」「組み立てが順番通りではない」といった、作業ミスの内容を入れていきます。
一方で、列には「ダブルチェックをする」「技術講習を実施する」といった、対策方法を入れていくわけです。
ほかにも、「生産効率を挙げたい」をテーマとしたら、行には「作業手順を変える」「作業ロボットを導入する」などの実施する内容を、列には「コスト」「時間」などの効果を入れていきます。
マトリックスの型を選ぶ
記入する要素を決めたら、マトリックスの型を選びます。マトリックスの型は主に「L型」「T型」「Y型」「X型」の4つがあり、求める内容によって使い分けます。
L型は、最も標準的なマトリックス図です。一般的な表のように、横軸に縦軸を組み合わせて作成します。
T型は、3つの関係性を評価するマトリックス図です。横軸の項目を表の中心に合わせ、横軸の項目から左右に縦軸を広げていきます。左と右の組み合わせをセットで考えることで、メリットとデメリットを一度に評価したりなどができます。
Y型は、要因同士の組み合わせも評価するマトリックス図です。T型と形は似ていますが、Y型は左の縦軸と右の縦軸の組み合わせも評価します。
X型は、4つの関係性を評価するマトリックス図です。横軸の項目と縦軸の項目が十字になるよう表を作成します。大まかなイメージとしては、L型が4つ合わさったようなマトリックス図といえるでしょう。
ほかにも、Y型の交点を立方体で表した「C型」もあります。
大まかな選び方としては、どの組み合わせで評価したいかで選ぶといいです。
行と列に配置する評価項目を記入する
型を決めたら、行と列に要素を記入していきます。要素の順番は特に決まりはありません。欄が狭くて文字を省略する場合は、何の要素か一目でわかるよう省略してください。
交点に対して関係性や評価を書き込む
評価項目を記入したら、それぞれの関係性を評価していきます。主観や数値を参考にしながら決めてください。
また、個人で評価すると、評価内容が偏りがちになります。客観的に評価するためにも、立場が違う複数人で話し合いながら決めてください。
決まった評価は、数字や記号で書くのが一般的です。関係性が深ければ「10」や「◎」、関係性が低ければ「3」や「×」といったように、それぞれ記入していきます。
点数や評価をもとに判断・着眼点を得る
すべての組み合わせを評価したら、評価点を集計して着眼点を見つけます。着眼点とは、話し合うポイントとなる部分です。記号を採用している場合は、「◎は5点」「×は1点」といったように点数を決めて合計してください。
例えば、「個数が異なる:11点」「組み立てが順番通りではない:13点」「部品の取違が目立つ:3点」だったとします。この場合は、「部品の取違が目立つ」ことの点数が低いことが着眼点(気になる点)になるでしょう。
また、集計は行だけではなく、列でも評価すると違った意味も見えてきます。集計する際は、行と列の両方で行うといいです。
着眼点にするポイントは、主に突出した部分です。点数が高い場合はもちろん、点数が低い場合も着眼点にしてみてください。
結論を出して活用方法を決定する
着眼点を見つけたら、結論をまとめ実際に活かせるようにします。
着眼点が「部品の取違が目立つ:3点」だとしたら、評価点の少なさから、対策が不十分であることがわかります。より作業ミスを減らすためにも、部品の取り違えを防ぐための対策が必要です。
着眼点は、一つに絞る必要はありません。ほかにも気になる点があればチームで話し合い、今後の課題としてまとめてください。
マトリックス図法を作る際のポイント
マトリックス図法をより効果的に行うためにも、以下のポイントを意識して行ってみてください。
関係性のある要素を並べる
マトリックス図法を作成する際は、関係性のある要素を並べてください。当然ですが、関係性のない要素を並べても、評価することはできません。
もちろん、関係ない要素を並べたからといって問題になるわけではありません。ただ、関係性がないことから評価しても0点になるでしょう。
一目見て関係性がなさそうな場合は、評価ができませんので項目に入れないようにしてください。
客観的に評価できる要素で構成する
マトリックス図法を作成する際は、客観的に評価できる要素を入力してください。主観的な要素だと、主観的な評価になってしまいます。
立場が違えば評価も変わるため、主観的な評価だとほかに活かすことができません。解決案をチームや工場全体に浸透させるためにも、客観的に評価できるようにすることが大切です。
主観的な評価を避けるために複数人で評価する
マトリックス図法を作成する際は、複数人で話し合うようにしてください。一人で作成や評価をしてしまうと、主観が入ったマトリックス図になってしまいます。
さまざまな視点から分析するためにも、違った立場や部門の人を交えて評価するようにしてください。
系統図と組み合わせて活用する
マトリックス図法を作成する際は、系統図と組み合わせて活用するといいです。マトリックス図法と系統図はとても相性が良く、互いの長所を活かすことができます。
特に、マトリックス図法に慣れていないと、何を入力すればいいのか迷ってしまうでしょう。具体的な使い方もわからないと思います。
マトリックス図法が難しいと感じる人は、まずは系統図法で手段を揃えることから始めてみてください。
まとめ:不具合の発見や多元的な評価に使える思考整理のフレームワーク
マトリックス図法は、優先順位や影響力を調べるためのフレームワークです。2つの要素の関連性を評価することで、影響力の大きさが浮き彫りになってきます。
影響力が「ある」か「ない」かだけで判断してしまうと、それぞれの関係性が見えてきません。影響の大きさがわからないことで、非効率な選択をしてしまうでしょう。
状況を正しく判断し選択するためにも、対策案が複数ある場合はマトリックス図法を活用してみてください。