要素同士の相関性を調べる際、効果的なのがマトリックス図です。それぞれの要因を行と列に代入し、評価することで相関性が見えてきます。
しかし、評価項目が多いと全体像が把握しきれません。評価自体も難しくなり、データを活用しきれないでしょう。
マトリックスデータ解析法は、評価項目が多い時に役立つフレームワークです。複数の評価項目から新しい要因を算出し、評価項目をまとめることで、全体の評価をしやすくさせます。
マトリックスデータ解析法とはどのようなフレームワークなのか。活用例や手順など、マトリックスデータ解析法について解説します。
新QC7つ道具の一つ「マトリックスデータ解析法」
マトリックスデータ解析法とは、どのようなフレームワークなのか。活用例と合わせて確認してみてください。
マトリックスデータ解析法とは?
マトリックスデータ解析法とは、2種類の数値データを散布図にまとめ、そこから導き出される推移を、新しい評価項目とするフレームワークのことです。
一見しただけではわからない計測結果も、散布図にまとめると一定の傾向が見えてきます。その傾向を評価することで、新たな情報を見つけ出すのです。
例えば、各チームの製品生産率を評価するとします。その際、評価対象となるのは、各チームが使う生産機器です。使用するチームごとに、生産機器の使用年数と良品率を表にまとめていきます。
もちろん、そのままでも分析することはできますが、数値データのままでは分析がしにくいです。そこで、生産機器の使用年数と良品率を評価項目とし、各チームの成果を散布図にまとめていきます。
その結果、散布図の値は右肩下がりになっているのがわかり、関係性として「生産機器の年数が長いほど生産率は低下する」ことが導き出せるわけです。
紹介した例は、せいぜい10〜20程度の数値配列ですが、評価する内容によっては、数十から数百の数値配列を扱うこともあります。
マトリックス図に記された膨大なデータを整理するためにも、マトリックスデータ解析法は必要とされています。
マトリックスデータ解析法の製造業での活用例
製造業では、主に相関性を調べるために活用されます。要因同士の相関性をまとめて情報の整理をしたり、アプローチ先を特定し今後の方針としたりします。
また、製品開発でも活用可能です。検証データをもとに製品開発を進めることで、性能とコストが釣り合う、最適な設定が見つけられるでしょう。
ほかにも、他社商品との比較分析を行ったり、市場アンケートからニーズを把握して方向性を検討したりなど、情報データをまとめ結論を出す際に活用されています。
新QC7つ道具(N7)とは?
新QC7つ道具とは、情報データを図にまとめることで課題解決を目指すフレームワークのことです。
新QC7つ道具は主に言語データをもとに図を作成しますが、マトリックスデータ解析法だけは、唯一数値データをもとに作成します。
新QC7つ道具の特徴は、言語データを活用できることです。従来のQC7つ道具は数値を扱うことから活用できる範囲が限られていましたが、言語データを扱うことで活用範囲が幅広くなります。
そのため、新QC7つ道具は数値を扱わない業種でも、広く活用されています。
マトリックスデータ解析法以外にも6つのフレームワークが存在し、状況や目的に応じて使い分けることで、さまざまな問題解決に役立ちます。
マトリックスデータ解析法以外の新QC7つ道具
新QC7つ道具には、アローダイアグラム法以外にも以下のフレームワークがあります。
- 連関図法:要因を矢印で結ぶことで関連性を明確にする手法
- 親和図法:親和性のある言語データをまとめ、グループを作ることで問題解決を目指す手法
- 系統図法:テーマを構成する要因をツリー状に配置し、二次手段・三次手段と遡ることで必要な行動を明確にする手法
- マトリックス図法:2つの要素を行と列に記入し(表)、関連性を交点にまとめることで問題解決を目指す手法
- アローダイヤグラム法:作成手順を矢印で結び、全体の流れを管理する手法
- PDPC法:工程ごとの手順と解決案を図式化し、矢印で結ぶことで目標達成を目指す手法
マトリックスデータ解析法の具体的な手順
マトリックスデータ解析法は、主に以下の手順によって作成します。
また、マトリックスデータ解析法はツールを使っての分析が一般的です。紹介する内容は、「アナログで作業した場合の流れ」と思ってください。
解決したい課題・メインテーマを決定
まず始めに、実施する目的やテーマを決定します。目的があやふやなまま実施しても、分析結果を有効に活用できません。
「生産数向上のため、継続年数と生産率の関係を知りたい」など、全体のテーマを決めてください。
目的に合ったデータを必ず数値で収集
テーマを決めたら、目的に合ったデータを用意します。「継続年数と生産率の関係を知りたい」場合だと、各従業員別の「勤続年数」と「良品率」が挙げられるでしょう。
それぞれの従業員別に、勤続年数と一日における良品率を収集してください。
また、マトリックスデータ解析法では数値をもとに作成しますので、必ず数値で収集します。
もし、アンケート結果などの言語データを活用する場合は、数値に直して収集しましょう。
データをマトリックスに整理
データを集めたら、集めたデータをマトリックスに整理します。バラバラのデータを揃え、一目でわかりやすくする必要があります。
マトリックスとは、それぞれの要因を行と列でまとめ、交点に関連度合いを記入する図のことです。「従業員」を行に、「勤続年数」と「良品率」を列に代入して表を完成させてください。
データの標準化
マトリックス図(表)を完成させたら、データを標準化させます。データによっては、身長や体重といったように、単位が異なる場合もあります。そのままでは一つの散布図にまとめられませんので、データを標準化させて単位を揃えるのです。
標準化は、以下のような式で求められます。
データごとの相関分析
データを標準化させたら、データごとの相関関係を分析します。分析といっても難しく考える必要はなく、要素同士で関係性が大きいかを判断するだけです。
仮に「勤続年数」「良品率」「従業員の年齢」の要素があったとした場合、生産面において「勤続年数」と「良品率」は関係性が深いといえます。
また、相関係数は式で求められますが、本格的な統計学の分野となるためとても複雑です。
そのため、アナログでマトリックスデータ解析法を行う際は、主観で選んでしまってもいいでしょう。
固有値から取り上げる主成分を決定
相関分析を行ったら、散布図にまとめる主成分を選びます。「勤続年数」「良品率」「年齢」の要素があるとしたら、相関性の高い「勤続年数」と「良品率」を挙げてください。
そして、固有値である「勤続年数」と「良品率」から取り上げる内容が、新しい要因となる主成分となります。
因子負荷量から主成分の名前を決定
主成分を決定したら、主成分の名前を決めます。「主成分」の名称のままでは、要因の意味がわかりません。誰が見ても判断できるような、わかりやすい名前を付けてください。
因子負荷量とは、「得られた共通因子が分析に用いた変数に与える影響の強さを表す値」です。大まかに、「要因同士の関係性の強さを示す値」と思ってもらえればいいでしょう。
「勤続年数」と「良品率」からなる主成分だとしたら、「熟練度」や「経験値」などが挙げられます。
主成分得点の散布図を作成して結果を評価
主成分の名前まで決まったら、今までの要素を散布図にまとめ、結果を分析します。
相関関係が高い要素を選ぶと分布が一定の方向にまとまりますので、分布の中心に線を引き、変化の方向をわかりやすくしてください。
結論から言えば、「勤続年数」と「良品率」は右肩上がりになると思われ、分析することで「勤労年数が多いほど熟練度が増し、生産率が高くなる」ことがわかると思います。
そして、その結果をもとに、新しい施策を立案してください。
マトリックスデータ解析法のポイント
マトリックスデータ解析法をより効果的に行うためにも、以下のポイントを意識して行ってみてください。
サンプル数は変数の数よりも多くする
データを収集する際は、サンプル数を多く集めてください。サンプル数が少ないと散布図がスカスカになってしまい、正しい傾向や方向性が見えてきません。
データは多ければ多いほど正確性が増します。目標としては、変数(各要因)の3倍以上になるよう、サンプルを集めてみてください。(要因が3つなら、9つ以上のサンプルを目安にする)
主成分の意味づけが重要
主成分の名前は、意味がわかるものにしてください。とりあえずで名前を付けてしまうと、あとで分析した際に意味が通じず、評価がズレてしまいます。
マトリックスデータ解析法は、その難しさから管理ツールを使うことが多いです。しかし、管理ツールでまとめられるのは数値や散布図だけであり、主成分の意味づけはできません。
認識のズレを生じさせないためにも、しっかりとした意味づけをしてください。
収集するデータは数値化しやすくする
収集するデータは、数値化することを意識してください。言語データも数値化すればマトリックスデータ解析法に活用できますが、逆に言えば、数値化できなければ、いくら評価したくとも活用できません。
数値化する方法としては、5段階評価が挙げられます。アンケートする際は5段階評価で記載してもらえば、言語データも数値化可能です。
多少主観が入ってしまいますが、厳密なデータを取りたいわけでなければ、個人の主観が入っても問題はないでしょう。
既にある言語データを活用する際も、数字で評価しなおしてください。
まとめ:マトリックスデータ解析法で品質管理をより高度に実施
マトリックスデータ解析法は、要因をまとめ、全体像をわかりやすくできるフレームワークです。要因を整理することで、より高度に品質管理などができるようになります。
相関性のある要因から新しい要因を作成し、違った視点で評価してみてください。
とはいえ、マトリックスデータ解析法をアナログで行うのは難しいです。要因によっては標準化などの計算も必要で、初心者は手が出しにくいと思います。
新QC7つ道具をサポートするツールも存在しますので、実際に分析を行う際は、ツールの活用を検討してください。