モノ同士をネットワークでつなげるIoT技術。近年はIoT社会ともいわれており、スマートフォンや冷蔵庫など、さまざまな物がIoTによってつながるようになりました。
しかし、IoT技術が普及することで、扱うデータが膨大になりつつあります。扱うデータが多いと処理に時間がかかってしまい、結果として、ネットワークの動作が遅くなってしまいます。
エッジコンピューティングは、そのような膨大なデータ管理を解決する方法として、注目されるデジタル技術です。エッジコンピューティングによって扱うデータを加工・整理し、効率良くデータ処理が行えるようになります。
エッジコンピューティングとはどのようなシステムなのか。注目される理由や製造業での活用例などを紹介します。
エッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングとは、データを集約する前にデータを整理するシステムのことです。
デバイスからのデータをそのままクラウドサーバで受け取るのではなく、IoTデバイスや専用のサーバといった領域で一度受け取り、データ加工や分析をしたのちに、改めてクラウドサーバに送信します。
今までは、どのようなデータであっても、すべてそのままの状態でクラウドサーバにデータを送信していました。膨大なデータ処理を可能とするネットワークだからこそ、データをそのまま送っても処理できていたのです。
しかし、近年はIoTの導入などによって、扱うデータ量が膨大になりつつあります。いくら処理能力が高いネットワークでも処理能力には限界があり、膨大なデータを扱うには時間がかかってしまいます。
そのことから、ネットワークの負荷を減らす方法として、一度データ整理をしてからサーバで受け取る、エッジコンピューティングが注目されるようになりました。データを整理し不要なデータを減らせば、その分、扱うデータ量が減りデータ処理が早くなります。
デジタル技術の発展により、今後も扱うデータ量は増え続ける一方です。リアルタイムな情報処理を可能にするためにも、さまざまな業界がエッジコンピューティングを必要としています。
クラウドコンピューティングとの違い
エッジコンピューティングが注目される理由には、以下のような現状が関係しています。
5G時代における大きな役割
エッジコンピューティングが注目される理由として、「5G」の影響が大きいです。5Gによる膨大なデータ通信に対応するため、エッジ処理によるデータ整理が必要となります。
5Gとは、2020年からサービスが始まった、最先端のデータ通信技術です。「高速」「大容量」「多数同時接続」をウリにしており、従来の4Gよりも、高精度な通信を可能にします。
しかし、5Gによる通信は、データ量が多すぎることからクラウドサーバに負荷がかかってしまいます。ビッグデータをすべてクラウド上で処理するのは、あまり効率的ではありません。
5Gはもちろん、今後も6Gや7Gとデータ通信技術は進化し続けると予想できます。膨大なデータをリアルタイムで処理するためにも、エッジコンピューティングによる対策が期待されています。
重要度を増すデータセキュリティ対策
エッジコンピューティングの導入は、セキュリティ対策にもなります。エッジ処理によってマルウェアを処理できれば、情報流出などを防ぐことが可能です。
2024年に株式会社「KADOKAWA」が大規模サイバー攻撃を受けたように、サイバー被害は近年増加傾向にあります。世界的にデジタル化が推奨されており、今後もサイバー攻撃による被害は増す一方といえるでしょう。
データ流出は、自社の信用を失う原因となります。不要なデータをクラウドサーバに侵入させないためにも、エッジコンピューティングによる効果が期待されています。
エッジコンピューティングのメリット
エッジコンピューティングを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
ローレイテンシー(低レイテンシ)の実現
ローレイテンシーとは、「待ち時間が短い」ことを意味する言葉です。データを加工することでデータ量が減り、データ処理が少なくなることから、通信速度が向上します。
工場では、作業の遅延を出さないよう、リアルタイムでの監視を必要とします。ほかにも、ロボットの操作やセンサーによる検査など、通信速度が重要になる場面は少なくありません。
生産性や安全性などを高めるためにも、ローレイテンシーの実現が望まれます。
ネットワークの負荷を軽減
不要なデータを削除すれば、ネットワークの負荷が軽減されます。負荷が軽減されることで通信速度が向上するだけではなく、データ管理も楽になるでしょう。
また、負荷が重いと、通信状態が不安定になるデメリットもあります。データの破損やネットワークダウンといったトラブルを防ぐためにも、ネットワークの負荷はできるだけ軽減するようにしてください。
データ漏えいのリスクを低減
「取り巻く現状」の見出しでも触れたように、エッジコンピューティングはセキュリティ対策にもなります。
もちろん、「エッジコンピューティングを導入すれば絶対に安全」とはいえませんが、導入によって情報漏洩のリスクを大幅に軽減可能です。
ファイアウォールの設定やUSBの持ち出し禁止など、ほかのセキュリティ対策と合わせることで、より強固なセキュリティ対策となります。
業務と従業員の生産性向上
通信速度が向上すれば、リアルタイムに生産ラインを管理できます。トラブルの早期発見やボトルネックの解消が可能となり、生産性の向上につながるのです。
また、業務の効率化や安全性の向上により、従業員のモチベーションも上がります。働きやすい環境になることで、離職率も低下するでしょう。
エッジコンピューティングの導入により、業務と従業員の両方に影響を与え生産性を向上させます。
エッジコンピューティングの課題
通信速度とセキュリティを向上させるエッジコンピューティングですが、残念なことに、導入にはいくつかの課題があります。
エッジコンピューティングの設備導入コストがかかる
一つ目は、導入には設備コストが必要なことです。エッジコンピューティングにはエッジ処理をするためのサーバが必要であり、機器やシステムを新しく導入する必要があります。
ほかにも、メンテナンス費用などのランニングコストも必要だったりと、導入には充分な予算を必要とします。
エッジ端末のセキュリティの脆弱性リスク
二つ目は、エッジ端末にもセキュリティ対策が必要なことです。エッジ端末のセキュリティ対策が不十分だと、エッジ端末がサイバー攻撃の対象となってしまいます。
データ加工をする都合上、エッジ端末には重要なデータが集まってきます。エッジ端末をハッキングすれば、加工前のデータをいくらでも見れてしまうでしょう。
データ加工をするだけの場であることから、エッジ端末のセキュリティ対策は忘れがちです。エッジ端末がサイバー攻撃の対象とならないよう、エッジ端末にもセキュリティ対策を行ってください。
管理が複雑になりがち
三つ目は、エッジ端末の導入によって、管理が複雑になることです。新しいサーバやシステムの導入により、新しい管理体制が必要となります。
エッジ処理装置数の増加やデータの複数分散など、エッジコンピューティングの導入によって、さまざまな管理が必要です。
管理をわかりやすくするためにも、管理ソフトを導入し一元管理するなどの対策が必要になるでしょう。
データ欠損リスク
四つ目は、データが欠損するリスクがあることです。データ加工によって、本来なら必要なデータを、不要なデータとして処理してしまうことがあります。
もちろん、データ欠損は滅多にあるわけではありませんが、欠損する可能性があることを理解しておく必要があります。
データが欠損すると困るようなときは、クラウドコンピューティングでデータを送るなどの対応をしてください。
エッジコンピューティングの製造業での活用例
製造業において、エッジコンピューティングは以下のように活用されています。
プレディクティブメンテナンス
プレディクティブメンテナンスとは、センサーからの情報を基にAIが判断し、潜在的な故障を見つけ対処するメンテナンスのことです。
リアルタイムな管理によってわずかな変化も見逃さず、集約されたデータから異常の可能性を分析します。
プレディクティブメンテナンスの実現には、リアルタイムを可能とする通信環境だけではなく、分析・処理するための能力も必要です。
エッジ処理によって扱うデータ量が軽くなり、検出速度や分析精度が向上します。
製造ラインの改善
エッジコンピューティングは、製造ラインの改善にも役立ちます。集約したデータを基に、問題となる個所が見つかるからです。緊急性の高い問題をエッジ処理することで、効率的にラインを改善できます。
また、生産ラインのリアルタイム性も保たれ、トラブルが生じた際への対応も迅速に行えます。
エッジ処理によってラインを止めることなく、安定した生産を可能にします。
製造現場の効率化と最適化
エッジコンピューティングによって、製造現場の効率化と最適化も実施できます。集約したデータを分析しフィードバックすることで、不要となる部分が見えてきます。
また、効率が良くなれば、コストダウンにもつながります。ほかにも、各工程ごとに品質をリアルタイムでチェックすれば、徹底した品質管理も可能です。
品質の安定化、コスト削減、生産速度の向上により、QCD(品質・コスト・納期)を意識した生産ができるでしょう。
エッジコンピューティングの将来の展望と課題
エッジコンピューティングは、今後必ず必要となる技術です。IoT技術が普及し膨大になりつつあるデータを扱うためには、不要なデータを減らすエッジ処理が重要になってきます。
AIと組み合わせることでより緻密で迅速な対応ができるなど、今後さまざまな業界や分野で、エッジコンピューティングが活用されていくことが予想されるでしょう。
しかし、エッジコンピューティングは課題も多く、導入には懸念があります。特に問題なのが複雑になる管理への対応についてです。新しい仕組みへ対応するためには、業務の変更や社員教育など、さまざまなことが必要となります。
ほかにも、セキュリティやデータ欠損といった問題もあり、すべての業界で移行するのは難しいです。
今後の展望としては、さまざまな用途への活用とともに、用途へ合わせた技術進化が求められます。
また、エッジコンピューティングの進化だけではなく、利用者の進化も必要です。いくら優れた技術であっても、使いこなせなければ意味がありません。
次世代の技術に合わせられるよう、技術教育や効率良く活用できるための環境づくりが、利用者への今後の課題といえるでしょう。
まとめ:製造現場のIoT化は実環境に適した調査検証から始めよう
製造現場のIoT化は、生産効率を改善し生産性を高めるため必要です。近年はグローバル化の影響によって顧客ニーズが変化しやすく、ニーズに対応するため、IoTによる管理体制が重要になってきます。
そして、膨大なデータを扱うためにも、エッジコンピューティングの導入が望まれるでしょう。
しかし、エッジコンピューティングには課題も多く、とりあえず導入すればいいわけではありません。
エッジコンピューティングを効率的に活用するためにも、まずは製造現場を調査し、導入できる環境か調べることから始めてみてください。
導入が難しい場合でも、将来を見据え、段々とデジタル化へと移行していきましょう。