不安定で不確実といわれる近年(VUCA時代)。情勢の変化などからニーズも多様化し、顧客ニーズを読むのが難しくなっています。ニーズの把握が遅いことから市場への参入も遅くなり、「販売が上手くいかない」と嘆く企業も少なくはないでしょう。
そんな中、製造業界で話題となっているのがPLMについてです。生産管理におけるライフサイクルを管理するシステムであり、情報を可視化することで生産の効率化を図ります。
ほかにも、品質の向上やコスト削減にも効果があるなどして、多くの企業がPLMについて注目しています。
PLMとはどのようなシステムのことを指すのか。ライフサイクルの意味やシステムの特徴について紹介します。
生産管理におけるライフサイクルとは?
ライフサイクルとは、一連の周期(サイクル)を示す言葉です。主に生物についてのサイクルを示し、誕生から死亡までの流れ(生活環)を、円環状の図で表します。
また、製品開発においても、ライフサイクルが使われることがあります。製品の企画を誕生、破棄するのを死亡として捉え、無機物ではありますが、製品の一生(プロダクトライフサイクル)として表すのです。
このように、ライフサイクルには対象に対してのすべての情報が含まれています。生産管理において、製品の情報をすべて知ることはとても重要です。効率的な一元管理をするためにも、ライフサイクルによる考えは必要とされます。
製品開発におけるライフサイクルの段階
製品開発におけるライフサイクルでは、生産におけるすべてのフェーズを段階で示します。企画から始まり製品が完成するまではもちろん、製品が顧客に届くまでも生産管理として扱います。
さらに、製品開発にトラブルが生じないよう「メンテナンス」をすることや、不良品が生じた場合には「廃棄・リサイクル」が必要になるなども、生産管理における一環といえるでしょう。
具体的な段階を表すなら、「企画」「設計」「開発」「調達」「生産準備・生産」「市場投入」「販売」「メンテナンス」「廃棄・リサイクル」あたりが、製品開発におけるライフサイクルに含まれます。
製品ライフサイクル管理(PLM)とは?
製品ライフサイクル管理(PLM:Product Lifecycle Management)とは、生産管理においてのライフサイクルを示す言葉です。ライフサイクルには生物や人の一生を意味する場合もあり、言葉だけでは何を対象にしているのかがわかりません。
そのため、生産管理や製造管理に対してのライフサイクルであることを示す言葉として、製品ライフサイクル管理が使われています。
PLMが求められる背景
PLMが求められる背景には、工場のデジタル化への取り組みが影響しています。近年はデジタル化への取り組みが世界的に推奨されており、取り組みの一環として、AIやloTなどのデジタル技術を活用したPLMが求められているわけです。
IT技術を普及させることで生活や仕事が楽になるDX(Digital Transformation)を始め、第四次産業革命に向けた取り組みは年々進められています。デジタル技術を導入する企業も増えてきており、アナログ作業のままでは時代に取り残されてしまうでしょう。
競合企業との販売競争に負けないためにも、時代に合わせた生産体制が必要です。
PLMが重視される理由
近年においてPLMが重視される理由には、QCDへの意識改革が挙げられます。
QCDとは、「品質:Quality」「コスト:Cost」「納期:Delivery」からなる3要素を合わせた言葉です。それぞれの要素が顧客からの信頼や企業負担に影響することから、生産において最も重要とされています。
近年は、グローバル化によって、さまざまな企業が市場に参入してきています。海外企業も多く参入しており、市場が盛り上がっているといえるでしょう。
ですが、同時に販売競争が激しいことも意味します。自社製品を顧客に選んでもらうためには、品質やコストなどの見直しが必要なのです。
また、市場ニーズが多様化しているのも、重視されている理由の一つです。世界情勢の変化やグローバル化によって新しいモノが参入してくることで、顧客の求めるモノは年々変わってきています。
昔のように同じモノを作っても売れるとは限らず、製品を売るためには、顧客ニーズに合わせた販売戦略が必要となります。
ただ、顧客ニーズに合わせて生産を変えるのは難しいです。アナログ作業では時間がかかり、市場参入のタイミングを逃してしまいます。
そのため、迅速に情報収集し、効率よく生産計画を立てられるようにするためにも、PLMが必要とされているわけです。
PLMとPDMの違い
PLMに似た仕組みとして、PDM(Product Data Management)といったモノがあります。日本語では「製品情報管理システム」といった意味となり、CAD(設計ソフト)やBOM(部品管理表)などのデータを一元管理します。
PLMとの違いは、管理範囲の違いです。PLMは生産におけるすべてに対して、PDMは企画だけを対象とします。
名称自体は似ているものの、対象となる範囲は大きく異なります。PDMでは生産すべてを管理できませんので注意してください。
製造業がPLMへ取り組むメリット
PLMに取り組むメリットは、リードタイムの短縮につながることです。情報を一元管理することで、情報共有を迅速に行えます。情報の差異がなくなるのはもちろん、情報を待つ必要もなくなるため、素早く開発や生産に取り組めるでしょう。
また、PLMによる情報共有は、品質の向上やコスト削減も可能にします。過去のデータと比較することで、改善点が見つかるからです。問題や不良品が生じた際も、生産の動線を追うことで、効率よく対応ができるでしょう。
PLMの導入によって情報共有がスムーズとなり、その結果QCDの向上が期待できます。
PLMシステムとは?
PLMシステムとは、PLMを補佐するための管理システムのことです。QCDの向上を目指すうえで、PLMはとても重要な要素です。
ですが、生産管理は規模が大きく、到底個人で管理しきれるものではありません。そのため、効率的に管理するためのサポートシステムが必要となります。
PLMシステムの主な4つの機能
PLMシステムは、主に「変更管理」「権限管理」「構成管理」「追跡性・関連管理」からなる4つの機能によって構成されます。
変更管理は、設計などに変更が加えられた際、瞬時に変更内容を切り替える機能です。情報の更新が遅れると、情報共有に問題が生じてしまいます。そのような事態を防ぐためにも、迅速かつ適切に管理する必要があります。
権限管理は、情報へのアクセス権限を変更する機能です。閲覧者や管理者を明確に管理し、悪意ある利用やトラブルなどを防ぐ意味があります。
構成管理は、製品や工程などを比較するための機能です。元の製品と派生製品を比較するなどをして、品質の向上や問題点などを明確に示します。
追跡性・関連管理は、製品情報の追跡(トレーサビリティ)をする機能です。管理において問題が生じた際など、因果関係を追跡し要因を特定することができます。
変更管理は情報の更新、権限管理は使用者の制限、構成管理は生産の比較、追跡性・関連管理は原因究明に活用され、以上の機能によって、より正確なPLMを可能にします。
PLMシステムのプロセスごとの機能
PLMシステムによってどのような管理が行われるのか。具体的に各プロセスを確認してみましょう。
- 企画:ポートフォリオの管理、予算管理
- 設計:CADデータの管理、部品表(BOM)の管理
- 開発:変更履歴管理、原価管理、時間管理
- 調達:取引先情報の管理、購買品の管理、見積管理
- 生産:工程表の管理、時間管理、製造データの管理
- 市場投入:顧客情報の管理、販売コストの管理、販売数の管理
- メンテナンス:部品管理、保守・修理管理
- 破棄:発生数の管理、排出量の管理、対応方法の管理
紹介したプロセスは、あくまで一例です。ほかにもさまざまな管理を可能とします。
大まかなイメージになりますが、生産におけるすべての数字や情報を、PLMシステムによって管理できると思っていいでしょう。
PLMシステムを導入することで得られる効果
PLMシステムを導入することで、以下のような効果が期待できます。メリットの項目でも軽く触れましたが、改めて確認してみましょう。
品質向上
一つ目は、品質の向上です。PLMシステムの導入によって過去の生産データと比較し、問題点や改善点を見つけやすくします。
また、一元管理によって情報が可視化されることで、情報連絡による遅延や混乱も減らすことが可能です。「情報更新の遅さによって、営業部門と製造部門で情報が異なる」といった心配がなくなり、製造のミスを減らすことができます。
ほかにも、不良品が発生した際は製品情報の追跡をすることで迅速に対応できるなど、不良品の削減によって、品質を安定させられます。
業務効率化
二つ目は、業務の効率化です。情報を一元管理することで、情報共有がスムーズとなります。生産計画に変更が生じた際も、端末からすぐに確認し生産に反映できます。
また、すべての情報がデジタル管理によって行われるため、ペーパーレスも推進できます。作成する手間や管理の手間を削減できるだけではなく、コスト削減にもつながるでしょう。
ほかにも、開発データをフィードバックすることで、設計変更による後戻り時間を減らせるなどの使い方もできます。
コスト削減
三つ目は、コストの削減です。ペーパーレスによるコスト削減はもちろん、過去のデータから改善することで、生産コストを抑えることができます。
また、原因究明によって不良品の発生を減らせれば、それだけでコスト削減にもなります。不良品に使われたコストだけではなく、保管や廃棄のコストも減らせ、実質的な生産コストの削減になるのです。
ほかにも、作業効率が向上すれば残業も減らせ人件費の削減になるなど、さまざまな形でコスト削減に貢献してくれます。
変化への対応
四つ目は、変化への対応です。「重視される理由」の項目でも触れましたが、近年は市場ニーズの変化が激しく、アナログでの対応は容易ではありません。変動するニーズに対応するためには、PLMによる業務の効率化が必要不可欠といえるでしょう。
まとめ:PLMはプロダクトライフサイクルを適切に管理するために重要
PLMは、製品ライフサイクル管理のことです。企画から廃棄までの一連の流れを管理することであり、情報共有をするうえで欠かせないモノといえます。
近年は、ニーズの多様化によって製造現場も変化しつつあります。変化し続けるニーズに対応するためには従来の少品種大量生産では間に合わず、代わりに細かく対応できる多品種少量生産が求められているのです。
多品種少量生産を実現するためには、迅速な情報共有が必要となります。情報共有によるリードタイムの短縮を目指すためにも、PLMシステムの導入について検討してみてください。