製造業でよく用いられる言葉に「ポカミス」があります。この記事では、ポカミスの発生原因とその対策について解説します。
ポカミスとは?
ヒューマンエラー(人的ミス)によって思いがけずミスを犯してしまうこと(うっかりミスなど)です。思いがけず発生してしまうポカミスは、その突発性や頻度などもあり、認識・対策しづらいことがあります。
製造業においては人だけが原因とは限らず、人が操作する「機械設備」や「作業環境」など様々な要因がこのポカミスを誘発してしまう場合もあります。
ポカミスによって、時には製品の不良発生に繋がり、その結果クレームの発生原因にもなり得ます。
そのため、なぜそのミスが発生するのかという原因を知ること、そのミスをいかにして抑えるかの対策を考えることは重要な要素と言えます。
ポカミスが発生する原因
ポカミスが発生する原因には様々な要因があり、単なるうっかりミスが原因ということも多くあります。
製造業においては、操作する機械の不調や製造工程における作業手順の不備などがミスを誘発しやすい構造になってしまっている場合も見受けられます。
人によるミス(ヒューマンエラー)
ポカミス発生で多いパターンは人的ミス、つまりヒューマンエラーです。ヒューマンエラーによるポカミスは、下記のように分類されていることが多くみられます。
- ついつい・うっかり型
- 記憶エラー:覚えられない、正しく続けれれない、思い出せない
- 認知エラー:見逃す・聞き逃す、見間違える・聞き間違える、認識を間違える
- 判断エラー:今、どんな状況か、次に何をすればよいのか判断を間違える
- 行動エラー:方法、手順を間違える
- あえて型:決まり事を守らない、横着、手抜きをする
一見「発生し得ないだろう」と思いがちなものですが、うっかりミスやヒヤリハット(ハインリッヒの法則)は思いがけずどうしても発生してしまうことがあります。
製造業において、ヒューマンエラーがきっかけで生じるトラブルは様々です。例として以下のようなものが挙げられます。
- 伝票や作業指示書の見間違い
- 部材の選択間違い、数量違い
- 出荷先間違い
製造設備や作業環境によるミス
人によるミス(ヒューマンエラー)のポカミスがある一方で、製造設備や作業環境によって誘発されるポカミスも存在します。
製造設備や作業環境によって誘発されるポカミスの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 製造設備によるポカミスの例
- 2つある機械のボタンが判別しにくいため、押し間違えた
- 複雑な機械操作が覚えらえれない
- 作業環境によるポカミスの例
- 現場が暗くて手元が見えづらく操作を間違える
- 工場の室温に暑くて集中できず、判断を誤ってしまった
- 設備や道具の配置が不適切
製造設備によるポカミスは、設備自体の扱いの難しさや複雑な操作方法が求められる機械などが要因となることが多くあります。また、作業環境によるポカミスは作業者の集中力や体力の低下などによりミスを誘発することが多くあります。
製造現場のポカミス対策3ステップ
ポカミス対策は、一般的に「ポカヨケ」と呼ばれていて、トヨタ生産方式の基本概念の一つとして、日本国外でも「poka-yoke」として使われている言葉となっています。
ポカヨケは、工場などの製造ラインに設置される作業ミスを防止する仕組・装置のこと。
製造現場においてポカミスの発生を防止するためには、以下の3ステップが大切と言われています。
- ポカミス原因の解明
- 作業状況の明確化
- ルールの周知・徹底
1.ポカミスの原因を徹底的に解明
まずはポカミスの原因を徹底的に解明することが大切です。
原因を解明すると、その原因に対する適切な対策を考えるための要素となり、同じミスの再発防止にもなります。
ポカミスの原因を分析する際には、ヒューマンエラー(作業者のうっかりミスや機械の操作間違いなど)ばかりに注意が向いてしまう傾向にあります。どちらかと言えば、ヒューマンエラーの原因は見つけやすく、対策も立てやすいため、簡単に片付いたと原因の究明を終えてしまうことがよくあります。
しかし、上記の原因でも挙げられている通り、ポカミスが多発してしまう要因として、ヒューマンエラーのみではなく、設備や作業環境についても原因が無いか確認することが重要となります。
2.作業手順や方法の明確化
次に作業の手順や方法を明確化することも大切です。
製造の過程は、作業マニュアル、安全確認手順、品質検査基準などのさまざまなルールやガイドラインが定められているものです。しかし、作業をこなしていく中で、いつの間にか自分が簡単な方法で済ましてしまうということがよくあります。この簡単な方法が実際に効率化出来ている方法なら問題ないですが、必要な手順を飛ばしてしまったり、どんぶり勘定での確認で終えてしまったりして、いつの間にか間違った方法が定着してしまうことがあると思います。
また、熟練工だけが対応しているような複雑かつ高度な作業などの場合は、熟練工の感覚や経験といったマニュアルや手順では伝えきれない暗黙知があり、作業手順や方法を明確化しきれないということもよくあります。
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3.ルールや作業方法の周知・徹底
次にポカミスを防止する方法として、ルールや作業方法の周知・徹底が重要となります。
作業手順や方法は、前のステップで明確化する以外にも、日々より効率的な方法にアップデートされているはずです。実作業者が業務を遂行する中で、より効率的な方法を発見したり、ミスの再発防止やより分かりやすい作業手順に改善する場合など、より良い形に変わっていきます。ちょっとした改善での小さな変更だけではなく、例えば新しい製造設備が導入されたことによってガラッと作業手順が大きく変わってしまうこともあり得ます。どのような変更があるにせよ、変更点があった場合は現場の作業者全員に対して周知をすることが必要となります。もし周知がされていないと、変更に気付かず手順を見ずに作業を行なってしまったり、作業工数の見積が狂ってしまったりして、やり直しや間違いなどによるロスが発生することになります。
また、作業方法を徹底することも重要です。ポカミスの再発防止の改善策として新たな作業手順を定めたとしても、それを実際に作業者が実行しなければ意味がありません。現場の作業者たちは、日々の現場作業で忙しくしているため、作業手順が新しくなっていたとしてもついつい慣れている方法を優先してしまうものです。そのため周知するだけではなく、管理者や現場の上司が作業をチェックするなどして、作業内容の管理を徹底することが重要です。
具体的なポカミス対策(ポカヨケ)
上記で挙げた対策の他にも具体的な対策として以下のようなものが挙げられます。
指差呼称の実施
厚生労働省が運営する「職場のあんぜんサイト」でも危険予知活動の一環として安全衛生上のキーワードとして取り上げられています。同サイトに掲載されている厚生労働省の調べによれば、1994年に財団法人(現、公益財団法人)鉄道総合技術研究所による効果検定実験で以下のような結果があったと記述されています。
- 指差しと呼称をともに行なわなかった場合:2.38%
- 呼称のみを行なった場合:1.0%
- 指差しだけを行なった場合:0.75%
- 指差しと呼称をともに行なった場合:0.38%
それぞれのやり方で操作ボタンの押し間違いがどれだけ発生したかを実験し、指差しと呼称を「ともに行なわなかった場合」と「ともに行なった場合」では約6倍の差があるという結果があり、ポカミスの軽減に非常に有効な具体的手段と言えます。
チェックリストの作成・ダブルチェックの採用
チェックリストの作成はポカミス防止の効果だけではなく、実施すべき作業内容の整理と明確化をする上でも非常に有効な手段と言えます。例えば、作業内容を整理して明確化することで、ムダだった作業を見つける場合もあります。
ダブルチェックは一見すると、1人で実施していた作業を2人で実施するので作業コストが2倍になってしまうということから、実施していない場合で敬遠されがちな手段です。すべての作業に対して2人体制とすると確かに2倍の作業コストがかかってしまいますが、例えばやり直しになると倍以上の作業コストが発生してしまう作業や止まってしまうと大幅なロスに繋がってしまう製造ラインなどで採用すると結果的に不良の低減や作業効率の向上が見込めると言えます。指差呼称と合わせるとより高い効果でのポカミス防止も期待できます。
また、急ぎの対応や忙しいときは特に慣れている作業でもポカミスをしてしまうことがよくあります。このような場合でも、チェックリストやダブルチェックがあれば、より高い確率で作業の抜けを未然に防ぐことができるため、ポカミス防止の効果が期待できると言えます。
作業を止めて見直しをかける
環境などによる要因で集中力が切れていたり、疲労がたまっている状態や急ぎの作業で焦っている時などは、正しい判断ができずについつい作成したチェックリストを飛ばしてしまったり、ダブルチェックをしなかったりしてしまう場合があります。このような場合は、一旦作業を止めて休憩を挟んで間を置いてからチェックリストを確認することも大切です。
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まとめ
ポカミスはヒューマンエラー(人的ミス)や作業方法・操作などの人が要因になるものから、機械設備、工場・施設などの作業環境などが要因になるものまでさまざまな原因によって発生し得るものです。
そのため、ポカミスを分析するためには原因を解明し、現在の作業状況を明確化し、作業方法やルールを周知して作業者に徹底することが重要となります。