近年、注目される企業のIT化。国からもDXを始めとした政策が提唱されており、第四次産業革命を目指した試みが推奨されています。
製造業でもそれは同じであり、多くの企業・工場がIT化に乗り出しています。すでにIT化が進み、自動化がされている企業も珍しくはありません。
とはいえ、未だIT化に乗り出さない企業も多いです。物理的に難しい企業もありますが、そもそも必要とされる理由が分からなければ、IT化へと乗り気にならないでしょう。
IT化は、今後なぜ必要とされるのか。必要とされる理由や製造業界で話題となったITトレンドについて紹介します。
国内製造業のIT化・DXの現状
正直な話、国内製造業におけるIT化・DXの現状は、あまり良くありません。総務省が2021年に発表した「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」によると、約6割の企業がIT化やDXへの取り組みを「実施していない、今後も予定なし」と答えています。
規模別に見ると、大企業では約4割、中小企業では約7割の企業が答えており、中小企業によるIT化やDXが深刻といえます。
IT化やDXが深刻な理由としては、費用の問題が挙げられます。技術の種類にもよりますが、導入には数千万〜数億円かかる場合もあり、資産に余裕のない企業は、導入したくてもできない状態です。
また、生産環境が変わるのを嫌う企業も少なくありません。導入によって便利にはなりますが、操作を覚えたり手順を変えたりなど、現場が混乱する原因にもなります。もちろん、慣れるまでの期間ではありますが、生産性が低下するリスクを冒すようなら、「従来通りのままが良い」と思ってしまうでしょう。
他にも、人材不足による影響もあります。新しい技術を導入するには知識が必要ですが、人材不足であることから、教育に回す人手がありません。人材を割くことは生産性の低下につながり、満足に教育ができない状態です。
以上のような理由から、国内製造業のIT化・DXは芳しくなく、世界的に見ると日本のIT化・DXは遅れているといわれています。
IT化とDX
そもそも、IT化とDXとはどのようなものなのでしょうか?
IT化とは?
ITとは、「Information Technology」の略語であり、コンピュータとネットワーク技術の総称を意味します。
IT化とは、IT技術を日常や社会へ取り入れることです。パソコンやエアコンの導入などもIT化の一端であり、IT技術によって、生活をより便利にしてくれます。
他にも、作業用ロボットを導入することで作業時間の短縮や品質の安定化。それに伴う、作業員の安全性向上や手間の削減などにつながり、製造業はもちろん、様々な企業・業界がIT化に注目しています。
DXとは?
DXとは、「Digital Transformation」の略語であり、IT技術の導入によって、企業の仕組みを変革させる意味があります。
元々は、2004年にスウェーデンで提唱された概念ですが、2018年に、経済産業省から「DXレポート」「DX推進ガイドライン」が発表され、日本でもDXに取り組むようになりました。
ドイツのインダストリー4.0を始め、日本を含め世界では、IT技術を取り入れた第四次産業革命への取り組みが進められています。
DXとIT化の違いとは?
DXとIT化の違いは、「目的」と「手段」の違いです。IT化は「IT技術の導入」に対して、DXは「IT化によって便利になった社会」を意味しています。
「集計ソフトの導入」することがIT化であり、それによって業務形態が変わることを、DXと思ってもらえれば良いでしょう。
社会や企業のDXを目指すためにも、IT化の試みが必要になってきます。
製造業でIT化が求められる5つの理由
IT化が進むことで、製造業はどのように変わるのか。求められる主な理由を5つほど紹介します。
- 生産性の向上
- 製造リソースの削減
- 社内情報の活用による製品の高付加価値化
- 業務の標準化と技術継承の助長
- 市場競争力の向上につながる
生産性の向上
1つ目は、生産性の向上です。機械によるサポートが加わることで、作業の短縮や生産数を増やすことができます。
代表的なIT技術としては、生産管理システムが挙げられます。生産工程すべてを管理することで、生産工程を改善し、作業効率を向上させられるでしょう。
また、ボトルネックによる作業の遅延や、故障などによる不良品の発生にも迅速に対応できます。納期の遅れや品質の低下は、企業の信用を失うあってはならない要素です。生産性の向上目的はもちろん、企業の信用を守る意味でもIT技術の導入は必要になってきます。
他にも、自動化やセンサーなどによって、24時間の生産も可能にします。空いた人手は別の作業に尽力ができ、より多くの生産を可能にするのです。
製造リソースの削減
2つ目は、製造リソースの削減です。製造リソースとは、資源や仕掛品など、生産に必要となるモノのことを指します。生産管理システムなどによって管理することで、在庫量を把握し、ムダに消費するのを防げます。
また、製造リソースには人材も含まれます。近年は少子高齢化の影響により、人手不足が続いています。それにより、満足に人材の配置ができず、やむなく設備を止める場合も珍しくはありません。
ですが、人材を効率よく配置できれば、人材不足による問題は解消されます。生産性の向上はもちろん、交代要員が確保できることで、有給消費などもしやすくなるでしょう。
自動車で有名な「トヨタ自動車株式会社」では、トヨタ生産方式とよばれる7つのムダを紹介しています。IT化によって様々なムダをなくすことが、生産性を良くする方法として企業に求められています。
「ムダを省く」というのは、企業の運営においてとても重要なことです。コストの削減につながるのはもちろん、仕事内容の見直しにもつながり、より効率的な業務内容にすることができます。 製造現場でもそれは同じであり、作業の効率化によって[…]
社内情報の活用による製品の高付加価値化
3つ目は、製品の高付加価値化です。他の部門と連携することで、新しいアイデアが見つかります。
例えば、営業部門との連携です。売れ筋などの情報を参考にすることで、求められている機能が分かり、それに対応した製品を開発できます。
他にも、他部門のノウハウを活かすことで品質の向上や製品の改良にもつなげられ、より良い製品が作れるようになるでしょう。
他部門や他支部と連携するためにも、IT技術の導入が望まれています。
業務の標準化と技術継承の助長
4つ目は、標準化の試みと技術継承の助長です。技術をトレースしてマニュアル化することで、誰でも同じように熟練の技術を学べるようになります。
近年、製造業における問題として、人手不足が原因の「技術継承の困難」が挙げられています。熟練の技術を伝えたくても、伝えるべき新人がいないからです。たとえ新人がいたとしても、教育に回す人手が足りないことから、満足に指導することもできません。
その結果、高齢技術者が退職してしまうと、熟練の技術が失われると危惧されています。
ですが、技術をマニュアル化すれば、人手を割くことなく技術継承が行なえます。センサーを活用すれば、五感を頼りにする「言葉や数値にしづらい感覚」をまとめることも可能です。
さらに、VRやAR技術を活用することで、より実践に合わせた経験を積むこともできます。新人1人で学習することも不可能ではなくなり、生産性の低下を防げるでしょう。
また、新人がいない場合でも、AIに学習させることができます。AIによって学習された作業用ロボットを導入することで、人手不足の解消にもなるのです。
IT技術を活用することにより、熟練作業者の技術をそのままマニュアル化することで、他の作業員へと広めることができます。
市場競争力の向上につながる
5つ目は、市場競争力の向上につながることです。IT技術によって品質が向上することにより、自社の製品をブランド化できます。
また、近年はニーズの多様化によって、市場が変動しやすいともいわれています。利益を上げるためには、変動をいち早く察し、迅速に行動しなければなりません。
そのためにも、loTを始めとした、インターネット技術の導入が必要となります。情報を集め、分析し、行動することにより、他のライバル企業に先んじて市場に繰り出すことができるでしょう。
とはいえ、世界的にもIT化は進んでおり、情報収集は他の企業も行なっていることです。逆にいえば、IT化をせずにいると、IT化が進んだ他社に出し抜かれることも意味します。
ライバル企業に競り勝つためにも、IT化による市場競争力の向上は必要不可欠です。
2022年注目された製造業ITトレンド
IT技術といっても、具体的に思いつかない人もいると思います。IT技術にはどのようなモノがあるのか。2022年に注目されたITトレンドをいくつか紹介します。
- RPA
- メタバース
- IoB
- 電子インボイス
- HRテック
- ワークフローシステム
RPA
RPAとは、「Robotic Process Automation」の略語であり、ロボットによる業務の自動化を意味します。
DXが目指す試みの一つであり、製造ロボットの導入によって、人手が必要ない自動生産を目指すのです。
人が作業する手間が削減されるのはもちろん、それにより、人的ミスも減らせます。
他にも、「重量物の運搬」といった人ではできない作業を可能にしたり、「汚染室での作業」といった作業員の安全性を考えた運用も可能となるでしょう。
製造業以外にも、介護現場や災害現場など、様々な企業・業種でRPAが注目されています。
近年、新しい製造現場の形として、RPAに注目する企業が増えてきています。導入による作業の効率化はもちろん、人材不足の解消にもなることから、導入を検討する企業も少なくありません。 RPAとはどのようなシステムなのか。他の類似シス[…]
メタバース
メタバースとは、インターネット上の仮想空間を指す言葉です。元々はSF小説などで使われていた言葉ですが、技術の発展により現実世界でも使われるようになりました。
仮想世界では、現実世界同様に様々な事が可能です。製品や企業のモデリングを仮想世界で行なうことで、現実世界と同じように商品説明や企業説明が行えます。
さらに、作成したモデリングを活用して、製品開発を進めることもできます。現実世界だと改善するごとに製造が必要になりますが、3Dモデリングなら、簡単に修正可能です。
他にも、仮想オフィスといったものもあり、自宅に居ながら仮想世界の会社へ「出社」することもできます。仕事内容にもよりますが、クラウドサービスも活用することで、今までと変わることなく、仕事が進められるでしょう。
2019年から問題となった新型コロナウイルスの影響により、多くの企業がメタバースに注目しています。
「メタバース」について聞いたことがありますか?SFに登場する代名詞の一つであり、仮想世界といった意味があります。現実世界とは別の電子世界があるのは、とても夢がある話といえるでしょう。 そんなメタバースですが、近年では現実の出来[…]
IoB
IoBとは、「Internet of Bodies」の略語であり、「身体のインターネット」を意味します。センサーを身体に取り付けることで、血圧や心拍といった生体情報を管理できるようにするのです。
また、IoBには「Internet of Behavior」といった意味も含まれます。こちらは「行動のインターネット」といった意味があり、動きの情報を管理・分析することで、作業効率の改善や安全性の向上に活かすことができます。
「人は宝」といわれるように、企業にとって人材はとても大切です。人材を使い捨てる企業では、技術が育たず衰退してしまうでしょう。
作業員のことを考えるためにも、健康チェックはもちろん、安全性の向上や負担の削減など、loBによって管理する必要があります。
皆さんは「IoB」という言葉をご存知でしょうか?似た言葉として、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)という言葉を耳にしたことがあると思います。 しかし「IoB」という言葉はまだ聞き馴染みのない方[…]
電子インボイス
電子インボイスとは、請求書などを電子データにまとめ、管理する事を指します。電子データとして管理することで、書類の紛失や記入・計算ミスを減少させる試みがあります。さらに、管理や記入も楽になることで、作業時間の短縮や作業員の負担の削減にもつながるでしょう。
主に、事務や経理で注目されるITトレンドですが、現場責任者にも関係してきます。電子管理により、管理がしやすくなるからです。記入による作業時間も短縮され、空いた時間を別の作業に回せます。
インボイス制度が2023年10月1日に開始されるのもあって、注目する企業も少なくはありません。
HRテック
HRテックとは、「Human Resource」と「Technology」を組み合わせた略語であり、「テクノロジー(AI)を活用して人事管理を行なう」ことを意味します。
AIが人事を管理することで、公平かつ効率的に人を評価できます。人が人を評価すると、どうしても印象や感情などが混じってしまいますが、AIなら私情を挟みません。過去の勤務体系や実績などから、公平に評価します。
また、人が管理する手間も省けます。勤怠や人材配置など、従業員が多ければ多いほど、管理に手間と時間がかかります。場合によっては数日〜数週間かかる場合もあり、他の業務に差支えが出るでしょう。
ですが、Aiに管理を任せれば、時間はかかりません。入力や計算する手間も省け、その分の時間を他のことに使えます。
他にも、自社に適した人材を転職エージェントなどから探してきたり、逆に応募してきた人材をSNSなどから評価したりもできます。
もちろん、AIの評価だけで即判断するわけにはいきませんが、面接対象者を絞ることで、面接の手間を省き、自社にとって本当に必要な人材のみを採用できるでしょう。
少子高齢化が進む近年。人口の低下と合わせて労働者の減少も問題となっています。働き手が少ないことが社員への負担にもなり、将来を心配する企業も少なくはありません。 そんな中、人材不足解決の足掛かりとして、HRテックが注目されていま[…]
ワークフローシステム
ワークフローシステム、業務の流れを電子化するシステムのことです。プロジェクトの流れを電子化し確認することで、問題点の確認や人材配置などを、効率よく行なえます。工程の修正も簡単に行え、スムーズに準備が進められるでしょう。
また、ワークフローシステムを導入すれば、承認印の確認も楽になります。今までは1人ずつ承認印を貰う必要がありましたが、承認をインターネット経由で行なえば、1人ずつ確認に行く必要はありません。貰う場所も気にする必要がなく、外出先からも承認印が貰えます。
新型コロナウイルスの影響で在宅ワークが増えていることもあり、自宅からでも承認ができるワークフローシステムが注目されているのです。
まとめ:製造業の課題をIT化で解決していく
製造業でIT化が必要とされる理由は、生産性の向上と人材不足の解消を目指すためです。人手不足の影響によって万全な体制で生産ができず、その結果、作業員への負担や生産性の低下を招いてしまいます。
現在は問題なくても、10年後20年後にどうなるかは分かりません。技術継承が上手くいかない事から、倒産する可能性もあります。
そのような事態を招かないためにも、製造業のIT化は必須といえます。IT化が進むことで人手不足が解消され、生産性の向上にもつながるでしょう。
IT化の流れは世界各国で取り組まれており、いつまでも昔のままではいられません。すぐには無理な場合でも、少しずつIT化へと取り組むことで、DX化を目指してください。