製造業が注目したいITトレンド IoB (Internet of Bodies/Internet of Behavior)

IoBとは?より働きやすい製造現場の実現や効率的な仕事の実現を期待できるIT技術

製造業が注目したいITトレンド~ IoB~

皆さんは「IoB」という言葉をご存知でしょうか?似た言葉として、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)という言葉を耳にしたことがあると思います。

しかし「IoB」という言葉はまだ聞き馴染みのない方も多いのではないでしょうか?「IoB」は、IT分野の調査を行なうアメリカのガートナー社によって選出された2021年の9つの戦略的テクノロジーのトップトレンドとし挙げられているIT技術です。

まだまだ聞き馴染みのない言葉ではありますが、「行動のインターネット」「挙動のインターネット」などと呼ばれて、今後の技術革新に注目を集めています。

まだまだ発展途上の技術で、メリットもあればデメリットもありますが、注目を集める技術「IoB」についての解説をしていきます。

IoB(Internet of Bodies/Internet of Behavior)とは?

IoB(Internet of Bodies/Internet of Behavior)とは?

IoTが「モノとインターネットを繋ぐ技術」であるのに対して、IoB(Internet of Bodies/Internet of Behavior)は「人間の身体とインターネットを繋ぐ技術」のことを指します。

IoBの「B」は「Bodies(身体)」と「Behavior(行動)」の2つの意味を持ちます。IoBを活用することで、人間の動作や行動をデジタルデータとして追跡することが可能になります。

ヘルスケアの分野での活用が期待されていて、分かりやすい例としてはデバイスを人体に装着することで、心拍数や運動量、体温などを計測するといった活用方法が挙げられます。ペースメーカーなどを体内に埋め込むこともIoBの例と言えるでしょう。

上記のような「Bodies(身体)」に分類されるような身体的な収集されるデータを「身体データ」とすると、もう一方の「Behavior(行動)」の方で収集されるデータは「行動データ」と言えます。

  • 行動範囲などの位置情報
  • 1日の運動情報
  • Webサイトの閲覧履歴
  • ECサイトでの購入履歴

行動データの例として上記のようなものが挙げられます。

コロナ禍において、よく見られるようになったカメラを用いた体温測定感染経路を辿るための位置情報の追跡などもIoBの例です。

IoBが注目される理由

ではIoBが注目される背景として、どのようなものがあるのか見ていきましょう。

ガートナー社によるトップトレンドとしての選出

冒頭でもご紹介した通り、アメリカのガートナー社による発表「ガートナー2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」で取り上げられたことも注目を浴びる大きな要因となりました。

参考サイト内でも「振る舞いのインターネット」として紹介され、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで閉鎖されていた工場に戻った従業員をモニタリング(定期的に手を洗っているかどうか、マスクを付けるなどのルールを守っているか、違反者にはスピーカーで警告するなど)する事例としてセンサーやRFIDタグを使ったIoBの活用事例が紹介されています。

こうした行動のデータを収集したり、利用することで行動を促す技術であることが、今後の製造業を始めとしたさまざまな業界での活用を期待させています。

参考サイト
ガートナー2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド

製品の提供方法が多品種少量生産へシフト

ガートナー社による発表も注目される大きな要因となったと言えますが、ユーザや市場の変化も関係していると言えます。

製品の提供方法・生産方法として、従来の「大量生産(小品種の大量生産)」による生産から「多品種少量生産」へシフトしています。

これはインダストリー4.0 やコネクテッド・インダストリーズなどによるDX推進などのIT技術の革新や顧客ニーズの多様化による生産方式の変遷などが理由として挙げられます。

その結果、IoTやAI、ビッグデータ、スマートデバイスの導入など、デジタル技術が発展していき、IoBも同様に活用の機会が増えてきていることが理由の一つといえます。

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製品のライフサイクルの短縮化

顧客ニーズの多様化にも影響がありますが、製品のライフサイクルの短縮化もIoB活用を推進する理由となっています。

IoBの技術は人(顧客)の行動をデータとして収集・利用ができる技術のため、より顧客ニーズに寄り添った情報を集めることが可能となります。

そうした中で、顧客の行動や心理状態などを細かくデータとして分析していくことで、製品やサービスの開発・改善もより短いサイクルで変化することが求められます。

IoB技術の活用は、市場や顧客の状況・状態をより正確に把握し、顧客の購買行動や嗜好の変化にも対応ができるといえることも注目される理由の一つです。

IoBの3つのフェーズ

では、そんなIoBは具体的に導入されていくのでしょうか?

IoBには3つの段階があると言われています。IoBの3つのフェーズについてご紹介していきます。

  1. ウェアラブル(定量化)
  2. 体内化
  3. ウェットウェア

第1フェーズ:ウェアラブル(定量化)

1つめの「ウェアラブル(定量化)」は、IoBデバイスを身に着けて身体データを収集・計測する段階のことを指します。

定量化とは、簡単にいうと「ものごとを数値で表すこと」です。

例えば体調管理・健康管理の一環で「起床時に検温した体温」を記録するとします。情報を数値化せず、体温が「高い/低い」もしくは「平熱」「高熱」だけ記録を付けると、実際には体温が何度あったのか分かりません。また「起床した時刻(検温時刻)」についても、いつなのか分からないため、極端な話ではお昼に起きて検温したのかもしれません。

こうした情報を定量化することで「体温」以外にも「生活リズム(起床時刻)」なども分かり、「情報を可視化」することが可能になります。

このフェーズのIoBデバイスとして、身近なものでいうとスマートウォッチなどが挙げられます。個人の身体データを数値化して、可視化された情報を活用する段階です。ガートナーの活用事例にも挙げられている通り、世界中ですでに実用化されているといえます。

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第2フェーズ:体内化

2つめの段階「体内化」は、文字通りIoBデバイスを体内に埋め込んで利用する段階のことを指します。ウェアラブル・デバイスなど、IoBデバイスを「身に着ける」第1フェーズ「ウェアラブル」の段階を経て、体内へIoBデバイスを埋め込む段階です。

体内に埋め込むという言葉だけを読み取ると、なんだか怖いイメージを持ってしまいますが、医療機器のペースメーカーなどもこの段階のIoBデバイスの一つといえます。

少し前では、仮想通貨ビットコインを体内のデジタルウォレット(NFCチップ)に保管する方法も話題になっていました。

第2フェーズまでは、現時点でも例として挙げれば出てくる段階にはあります。

第3フェーズ:ウェットウェア

3つめの段階「ウェットウェア」は一番聞き馴染みがなく、よく分からないと思いますが、脳に直接IoBデバイスを埋め込んで利用する段階のことを指します。

「ウェットウェア」という言葉は「ソフトウェア、ハードウェアおよび生物学の混合物」のことを言うそうです。

まだこの段階には到達していないそうですが、研究は進められています。

脳にIoBデバイスを埋め込んだりすると、SF映画の世界が実現するようになるかもしれません。スマホが体内に入り、脳と繋がることでまるでテレパシーのように電話をかけあうことも出来るようになるかもしれません。

「脳に直接」と聞くと、怖さもある技術ですが、体調管理・健康管理に加え、精神管理といったことも出来るようになり、脳の疾患や精神的な疾患などの予防になったりもするのかもしれません。

製造業におけるIoTとIoBの活用

IoT(Internet of Things)の活用は製造業においても、IoTを導入することで室内の温度調整の自動化や人員・機械の稼働管理などの人の手では難しかった管理を自動的に行なうなど、生産性の向上させるための活用の場が多くなってきました。

IoBの技術にはセキュリティ上の問題や人体への影響などの安全性にまだまだ課題が残っている技術ですが、一方で飛躍的に成長する技術であるとも言われています。

製造業においてIoTの技術は「製造機器の情報」を収集・活用することで生産性の向上が期待できると言えます。IoBの技術になることで「人間の情報(身体・行動)」を収集・活用することで、より働きやすい環境や効率的な仕事の構築などを実現する手助けになり、IoT以上の効果が得られるかもしれません。

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IoBの推進を阻む3つの課題

IoBは製造業が注目したい次世代のITトレンドではありますが、技術の推進を阻む3つの課題があります。これらについても今回はご説明しておきます。

  • デバイスのメンテナンスの必要性
  • セキュリティやプライバシーの担保
  • サイバー攻撃への対策

デバイスのメンテナンスの必要性

IoBの第1フェーズ:ウェアラブル(定量化)の段階からデバイスが必要となりますが、必要とされるデバイスはメンテナンスを実施していく必要が出てきます。一定のウェアラブルデバイスについては交換などの融通が利きますが、それ以外のデバイスについてはまだまだ検討が必要な部分が多く見受けられます。

例えば、第2フェーズ:体内化になると、体内内臓型のデバイスを導入していくことになります。このデバイスが故障すると一度取り出してメンテナンスする必要が出てきます。ものによっては取り出さずともメンテナンスできるようにもなるかもしれませんが、主には取り出す必要が出てくるでしょう。

デバイスのメンテナンスの際には身体に負荷がかかってしまいます。デバイスの装着だけではなく、デバイスの取り出しに関する負担があるのです。

IoBを促進させるだけならそこまで問題にはならないかもしれませんが、メンテナンスにあたり課題が残ることで推進スピードはやや遅れてしまうかもしれません。

セキュリティやプライバシーの担保

IoBを普及させるにあたり、プライバシーやセキュリティの担保は大きなポイントとなります。身体と一体化するようなものなので、個人情報を多く取り扱います。そのため、扱う情報にはプライバシーやセキュリティが担保されなければIoBの普及・推進は難しくなってしまいます。

日本のみならず、世界的にみても様々な情報が個人情報として扱われています。IoBの技術で扱う身体情報や行動情報はまさに個人情報といえるでしょう。そのためIoBで集める情報は厳重に管理しなければなりません。

現状、多くのデバイスでプライバシーやセキュリティの向上が進められており、情報などは保護できるようになってきているのです。

とはいえ、IoB全体の状況で見ると、まだまだプライバシーやセキュリティの保護には不安を感じる部分があります。これが払拭できるまではどうしても足かせとなってしまいかねません。

サイバー攻撃への対策

IoT、IoBともに、利用するデバイスをインターネットに接続します。セキュリティやプライバシーの保護とも関連することではありますが、インターネットに接続されている以上、サイバー攻撃への対策は必須となってきます。

今日ではセキュリティ対策の専門会社などは数多く存在していますが、サイバー攻撃はゼロになりません。セキュリティ対策の専門会社がサイバー攻撃の対応を日々行なっていてもです。日々対策を講じていても専門会社とサイバー攻撃者のイタチごっこが続いているのが実状です。
これに関しては今後も続くと考えられるため、サイバー攻撃がIoBを推進/普及するうえでの障壁となってしまう可能性が高くなります。

IoBのように身体に大きく影響を与えるものは、万が一に備えて可能な限りの対応をしていく必要があります。個人情報を抜き取られることがないようにする必要があるし、意図しない動作が発生しないように対策をしなければなりません。

ただ、現状として様々な観点からサイバー攻撃への対応が行なわれ、可能な限り攻撃されないようなデバイスの開発が進められてもいる状況です。そのため、IoBの推進にあたっての課題ではありますが、いずれは安心して利用できるデバイスが提供されるで未来も近いかもしれません。

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まとめ:IoBは発展途上中の技術

IoB(Internet of Bodies/Internet of Behavior)とIoT(Internet of Things)の違いは、端的に言うとインターネットと繋ぐ対象に違いがあり、IoTが「モノとインターネットを繋ぐ技術」であるのに対し、IoBは「人間の身体とインターネットを繋ぐ技術」のことをいいます。

IoBの技術にはセキュリティの問題や人体への影響などの安全性の面で課題があり、まだまだ発展途上中の技術であることが分かります。製造業においては、製造機器などの情報を収集し、そのデータを活用することで生産性の向上が期待できると言えます。

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