
近年、人手不足や業務効率化の課題を背景に、RPA(Robotic Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)に注目が集まっています。本記事では、RPAの基本から導入メリット、他システムとの違い、導入の流れまでをわかりやすく解説します。
RPA(Robotic Process Automation)とは

RPA(アールピーエー)とは、「Robotics Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の略で、「ロボットによる業務内容の自動化」を意味する言葉です。人間がパソコン上で日常的に作業していた業務をロボット(ソフトウェア)が代行し、自動で作業してもらいます。
例えば、作業後の数値をパソコンに入力して提出する作業があるとします。入力項目が数個程度なら簡単にできますが、それが数百個もあると入力が大変です。ですが、RPAを導入することで、人間の代わりに機械が数値を入力してくれます。結果として入力の手間がなくなり、作業負担が軽減されるわけです。
また、自動化によって人的ミスも減らせます。他にも、入力時間の短縮により他の作業が行なえるなどのメリットもあり、作業効率の向上が期待できるでしょう。
ロボット(ソフトウェア)が働くことから、仮想知的労働者(デジタルレイバー)とも表現します。人材不足を解消する技術でもあり、様々な企業が注目しているのです。
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RPAの特徴
RPAは、特に製造業では、間接業務の効率化やバックオフィスの省力化を目的に導入が進んでいます。ここでは、RPAが持つ代表的な特徴を整理します。
ルールベースの定型業務を自動化できる
RPAは「決まった手順で処理できる業務」を得意とします。
たとえば以下のような“人が判断しなくても進められる処理”を自動化できます。
- 日次・月次のデータ転記作業
- 受発注情報のシステム登録
- 送り状番号の照合
- 販売管理システムからのデータ抽出
製造業に多い、Excel ↔ 生産管理システムの繰り返し入力といった作業で特に効果を発揮します。
既存システムをそのまま使える
RPAは画面操作を“人の代わりに実行”するため、システム改修が不要です。連携APIのない古いシステムでも、画面を開いてクリック・入力といった動作を再現できます。
そのため、
- レガシーシステムが残っている
- システム刷新の予算がない
- 現場側で小規模に効率化したい
といった企業でも導入しやすいのが特徴です。
24時間稼働でき、作業品質が安定する
RPAは疲れないため、深夜・休日でも安定して同じ品質で動作します。処理スピードも一定で、人為的なミスを大幅に減らせます。
特に製造業では、「日中は生産にリソースを割き、夜間にRPAがバックオフィス処理を進める」といった運用がよく採用されています。
小さく始めてスケールしやすい
RPAは、1つの作業を自動化する“小規模導入”から始められます。その後、自動化範囲を徐々に広げることで社内全体の生産性向上につなげられます。
例として以下のような流れもあります。
- まず「データ転記」だけ自動化
- 次に「報告書作成」を自動化
- 最終的に「受発注業務」全体まで拡大
段階的に改善を進められるため、投資判断もしやすいのがメリットです。
AIとの組み合わせで高度化できる
近年は、RPAにAI(画像認識・自然言語処理など)を組み合わせた「AI-OCR」「IDP」「IPA(インテリジェントプロセスオートメーション)」への進化も進んでいます。
- 手書き帳票の読み取り
- 検査画像の分類
- 半構造化データの仕分け
といった、従来はRPA単独で自動化できなかった業務にも対応できるようになっています。
類似する用語との違い
RPA以外にも、似たような用語があります。RPAとどのように異なるのか、確認してみてください。
bot(ボット)との違い
botとは、同じ作業を繰り返す作業プログラムのことです。事前に決められた動作をプログラミングすることで、同じ作業を延々と繰り返してくれます。
RPAとbotはどちらも「作業を繰り返す」システムですが、自由度が異なります。RPAは記録した内容に沿って繰り返すのに対して、botはプログラミングされた内容しかできません。botで別の作業をしたい場合は、プログラムから書き換える必要があります。
botは導入してすぐに使えるメリットがありますが、別の作業はできず、内容を書き換えるにしても、知識のあるエンジニアが必要というわけです。
AI(人工知能)との違い
AIとは、学習した内容をもとに、機械自らが考えるシステムのことです。人工知能とも呼ばれ、機械に判断能力を与えることで完全自律化を実現させます。
RPAも仮想知的労働者と表現されますが、記録された作業を実行しているだけで、正確に言えば機械自らが考えて作業しているわけではありません。一方でAIは機械自らが判断し、人間が指示せずとも最適な作業を実行してくれます。
ただ、AIは膨大な学習が必要であり、それに伴う費用も膨大となります。操作を記憶させればすぐに使えるRPAの方が、即戦力として導入しやすいといえるでしょう。
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Excelマクロとの違い
Excelマクロとは、マイクロソフト社が販売するExcelソフト内で、複数の操作を自動で行なうための機能です。金額を入力することで売上データを自動で集計したり、入力データを自動でグラフ化などができます。
Excelマクロも、基本的にはRPAと同じです。VBAによって設定した作業を自動で行ないます。ですが、Excelマクロで自動化をするにはVBA(プログラミング言語)について理解が必要です。
他にも、大量のデータ処理では処理速度が低下する、動作範囲はExcel内のみといったデメリットもあります。
一方で、RPAにはプログラミングの知識は不要です。大量のデータを処理しても遅くはなりません。他のシステムとも連携できるなど、Excelマクロよりも広く活用できます。
製造業におけるRPA活用のメリット
RPAを活用するとどのようなメリットがあるのか。製造業の観点から見てみましょう。
定型業務を自動化・効率化できる
RPA導入の主なメリットは、業務を自動化できることにあります。データ収集やデータ入力などの定型業務も、RPAによって自動的に処理・対応できるのです。
RPAによる処理の方が早いのはもちろん、人的ミスも減らせるなど、作業の効率化が期待できるでしょう。
主に、事務作業で使われやすいですが、現場作業でも入力や管理業務は多いです。事務作業を自動化することで、他の作業に専念できます。
異常検知を自動化できる
RPAの導入は、異常検知も自動化できます。作業中は常に監視がされており、異常があればすぐに連絡や対処がされるでしょう。
また、品質の異常も検知できるため、不良品が混ざる心配もありません。品質を一定に保ち、会社の信用を守ることにもつながります。
異常を確認するためには人の目が必要ですが、常に張り付いて確認するわけにはいきません。センサーを設置しても、定期的に確認が必要であり、作業効率を悪くします。
RPAは、そんな効率の悪さを改善し、作業効率の向上や人的コストを抑えられると期待されています。
人件費の削減につながる
RPAを導入すると、人件費を安くできます。RPAによって自動化され、人的コストを抑えられるからです。少人数でも現場が回せるのはもちろん、作業効率の向上によって残業(残業代)の削減にもつながります。
また、少人数で回せるため、人材不足の解消にもなります。近年は、少子化などの影響により、人材不足に困る企業も少なくはありません。従業員が確保できないことから業務の縮小を余儀なくされる場合もあります。
ですが、足りない人材はRPAで補え、業務が縮小する心配もありません。むしろ、人件費削減によって財政に余裕が生まれ、それによって新ビジネスの開拓や設備投資が実施できます。
RPAの導入により、将来的な企業の成長も期待できるでしょう。
社員の労働生産性の向上
業務の自動化は、社員の労働生産性を向上させます。単純作業をRPAに任せることで、開発や研究といった、人の手が必要な製造業務に注力できるからです。
人は、単純な作業だけだと労働意欲が減衰します。集中力も切れやすく、人的ミスも生じやすくなるでしょう。
ですが、創造性や発想が求められる仕事なら、集中力も切れにくいです。むしろ「仕事をしている」と実感でき、モチベーションの向上が期待できます。
単純な作業はRPAが、複雑な作業は人が作業をそれぞれ担当することにより、社員のモチベーションを高め、労働生産性の向上が期待できます。
製造業におけるRPA導入の注意点
RPAを導入する際は、始めに動作を定義する必要があります。RPAは、botのように動作が決まっておらず、AIのように自動で学習し作業ができるわけではありません。作業するためには人間側の指示が必要です。
そのため、RPAに指示を出す運用管理者が必要となります。現場でRPAを管理する人はもちろん、設定の変更やトラブルが生じた際に対応ができるIT部門の設立も望まれます。
また、RPAの動作中は、RPA以外の端末操作が使えません。RPAの動作にリソースが使われるため、他の操作ができないからです。
もちろん、他の端末なら操作できますが、一つの作業に二つの端末を使うようでは効率的とは言えないでしょう。
RPAを活用する際は、RPAが端末を占領しても問題がないよう、RPAのみで完結する仕組みを作る必要もあります。
製造業でのRPA導入までの流れ
実際にRPAを導入するまでの流れを紹介します。導入を検討する際は参考にしてみてください。
導入目的の明確化
まずは、導入する目的を明確にすることから始めます。「効率的になるらしいから」「最先端の技術だから」といった不明確な理由だと、導入しても上手く使いこなせません。
あまり効率化されないだけではなく、導入費用や導入による人員配置などによって、「導入しない方がよかった」と後悔する可能性もあります。
「どの部分が非効率的なのか」「どのように変えると効率が上がるのか」など、課題を洗い出し、必要性と使い方を決めておく必要があるでしょう。
また、RPA商品には様々な種類があります。導入のコストはもちろん、操作性やサポート体制など、商品ごとにそれぞれ異なります。いろいろな種類を比較し、自社に合い、導入の負担が少ないRPAを選びましょう。
事前検証・シミュレーション
導入するRPAを決めたら、次は作業工程のシミュレーションです。導入して本当に課題の解決になるのかを検証してみます。
もちろん、実際に始めてみないと分からない部分も多いですが、少し考えて分かるような問題があるようでは、適切な導入ができているとは言えません。
RPA導入による生産能率の割合やランニングコストなどを検証し、導入による影響を事前に調べておきましょう。
PoC(概念実証)
PoC(Proof of Concept)とは、新しい動作を試し検証する工程のことです。大まかに言えば試験導入のことであり、実際に運用をしてみて、使いやすさや流れなどを検証します。
大まかではありますが、事前検証はデータによる検証。Pocは動作の検証と思ってもらえれば良いでしょう。
また、動作検証だけではなく、リスクやトラブルについても検証します。PoCは、導入前の最終確認でもありますので、どんな些細なことでも、しっかり検証するようにしてください。
注意点としては、PoCができないRPAも存在することです。事前検証のみで判断する方法もありますが、それだと導入後のリスクも大きく、あまりおすすめはできません。可能なら、試験導入できるRPAを選ぶことをおすすめします。
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RPAの導入・構築
PoCも検証したら、いよいよ本格的なRPAの導入です。実際に自動化するシステム(流れ)を記憶させ、動作を確認します。
動作確認のポイントは、簡単な動作から始めることです。PoCで動作確認をしたとはいえ、実際の運用とは異なります。実際に運用してみた結果、トラブルが生じることも珍しくはありません。
もし、初めからすべてRPA化してしまうと、トラブルによってすべての作業工程がストップしてしまいます。深刻な会社へのダメージとなりますので、まずは簡単なことで使い方に慣れ、段々と作業工程に組み込んで行くことが大切です。
また、導入して終わりではなく、ブラッシュアップも行ないます。実用化していく中で、問題点や改善点などを検証・分析し、より使いやすいよう改善をしていきましょう。
まとめ:業界の課題でもある人材不足を助けるRPA
RPAの導入は、作業工程を自動化し、作業効率を向上させます。単純作業に人材を割くことがなくなり、人材が必要とする工程に注力できるようになるのです。
また、近年製造業界で課題となっている人材不足も解消します。少人数での作業も可能となり、会社全体の負担が軽減されるでしょう。
「RPAを導入さえすれば会社の利益になる」といった簡単なものではありませんが、人材不足を始め、さまざまな課題が解決できます。
デジタル化社会への適用として、ぜひRPAの導入を検討してみてください。そして、今後のIT技術の発展にも注目していきましょう。






