
変化の激しい現代に対応するには、現場での改善活動が欠かせません。その中でも注目されている手法が『AAR(After Action Review)』です。
AARは、そんな改善作業が必要な現場におすすめの評価方法です。出来事を振り返り評価することで、改善につなげることができます。
ほかにも、自問することで自主性なども育てられることから、多くの企業で注目されています。
AARとはどのような評価・改善方法なのか。AARのやり方や活用シーンなどを紹介します。
AAR(After Action Review)とは?

AARとは、行動を見直し改善を測る評価システムのことです。実施内容を検証し、良かった点や悪かった点などを自問したあと、その結果を基に改善策を講じて次回に活かすようにします。
元々は、アメリカ軍が訓練後のフィードバックで行なわれていたことが切っ掛けですが、仕事や私生活の出来事にも有効なことから、広く使われるようになりました。
AARの特徴としては、「失敗の責任を追求しない」点が挙げられます。従来の評価方法だと「ミスはマイナス点」で責任を追求される要素でしたが、AARの場合は「ミスは改善点」であり自身が成長する切っ掛けといった見方をします。
どちらも「ミスに対して改善を目指す」ことは同じですが、AARの方が重圧が少なく、ミスした人が恐縮しにくいことでメンタルやパフォーマンスを保てるといったメリットがあります。
ほかにも、従来の評価方法は「第三者からの指摘」に対して、AARは「自身の気が付き」である点も特徴的です。自分で考えることで理解が深まり、対策を進んで行なえるようになります。
時には第三者からの指摘も大切ですが、自身を成長させるためにも、まずは自分で考えることが大切です。
改善案を出せるだけではなく、積極性や合理性、責任感を育てる効果もAARに期待できます。
AARが製造現場で求められる理由
AARが製造現場で求められる理由として、若手を育成する目的が挙げられます。自ら考え改善案が出せるようにすることで、自発的に作業が行なえるようにします。
作業を改善するだけなら、上司や先輩が指示するだけで事足ります。経験者からの指示ですので、すぐに結果が得られるでしょう。
しかし、指示が当たり前になってしまうと、若手は自分で考えることができなくなります。自主性が低いことから、マニュアル通りにしか仕事ができない指示待ち人間になってしまうわけです。
また、指示待ち人間であることで、教育者としての能力も低下します。後輩ができても効率よく教えられず、結果として、後輩も同じ指示待ち人間となってしまうでしょう。
ほかにも、指示されたことしかできないため知識として根付かない、自分で考えて発言ができないことでコミュニケーションがうまくできず属人化しやすい、といったデメリットもあります。
人手不足が問題とされる製造業界において、必要なのは考えて行動ができる人材です。機械のように、決まったことしかできない人材ではありません。
業務改善を目指すだけではなく、ひいては、継続的な改善ができる人材を育てるためにも、AARが多くの現場で求められています。
AARの4つの質問と進め方
AARを実施する際、4つの自問に沿って進めていきます。それぞれの質問内容は以下の通りです。
- 何を目指していたか(計画・意図)
- 実際に何が起きたか(事実・数値)
- なぜそうなったか(原因・学び)
- 次はどうするか(具体アクション:誰が・いつまでに・どう測る)
何を目指していたか(目的・期待)
まずは、「何を目指していたか」を自問します。端的に説明すると「目的の再確認」です。
正しく評価するためには目標を明確にする必要があるため、改めて「どのような目的で行ない」「どのような結果を望んでいたのか」を再確認します。
必要なら目標や目的を書き出しておくと、目的を見失わずにプロジェクトを実行できます。気も引き締まるため、次回に向けて書き留めておくと良いです。
- 目的:
- 一週間で100個の生産を行なう
実際に何が起こったか(事実)
次は、「実際に何が起こったか」を自問します。端的に説明すると「出来事や結果の確認」です。
今回の出来事を評価するためにも、「実際に行なったこと」や「どのような結果になったのか」などを正確に洗い出してください。
例としては「想定よりも1日早く完了した」「組み立て作業中に指を怪我した」といった感じです。「成功した点」と「失敗した点」でわけて挙げることで、評価しやすくなります。
また、機械の故障などの予期せぬ事態もあれば、同じように挙げておきます。自分の行動を内容を問わず、すべての出来事を挙げていきましょう。
- 成功した点:想定よりも1日早く完了した
- 失敗した点:組み立て作業中に指を怪我した
- 予期せぬ出来事:機械トラブルで作業がストップした
なぜそうなったか(要因分析)
情報が出揃ったら、「なぜそうなったか」を自問します。端的に説明すると「原因の分析」です。失敗した点に対して、「なぜそうなったか」を考えてみてください。
また、原因を追求する方法として「なぜなぜ分析」があります。「なぜ」を繰り返すことで根本的な原因を追求するフレームワークのことであり、トヨタ自動車では、原因究明に「なぜなぜ分析」が使われています。
「指を怪我したのは安全対策を無視していたから」「安全対策を無視したのは時間を短縮するため」「時間短縮が必要なのは機械トラブルで作業ができなかったから」といったように、原因を追求することで、根本的な問題点が見つかります。
原因を一つだけ見つけて終わらせず、いろいろな視点から「なぜそうなったか」を考えてみましょう。
- 要因分析:
- 納期に間に合わせるため、安全対策をせずに作業をしていた
- 機械が止まったことで間に合わないと思った
次にどう活かすか(改善案)
最後は、「次にどう活かすか」を自問します。端的に説明すると「改善策の立案」です。「なぜそうなったか」で出た原因について、改善案を挙げてください。
「安全対策をせずに作業をしていた」ことに対しては「指差し確認をして安全対策を習慣化させる」。「間に合わないと思った」ことに対しては「予測した時点で上司や顧客に相談をする」といったような感じです。
注意点としては、実施が難しいことは挙げないことです。いくら効果的な改善案を思いついても、それが実施困難では意味がありません。コストや規模を踏まえつつ、現実的な立案をしましょう。
改善案ができたら実際に試し、問題がなさそうなら、普段の生活や業務に反映して同じミスを繰り返さないようにしてください。
また、改善案までできたら、AARの内容をレポートにまとめ、チームや部署で共有をすると良いです。内容を周知させることで、事前にミスを防ぐことができます。必要ならデータベースに記録を残し、今後の活動に役立ててください。
- 改善案:
- 指差し確認を習慣化させる
- 早めの判断で相談をする
製造業でのAAR活用シーン
AARはどのようなタイミングで行なえば良いのか。活用シーンをいくつか紹介します。
トラブル・不良発生時
最も多いのは、トラブルや不良品が発生したシーンです。発生した問題に対しての改善策をAARで模索します。
「工程に不備はなかったか」「安全対策はできていたか」など、トラブルや生産状況を評価して業務改善を目指してください。
また、トラブル対策だけでなく、業務効率化目的でも活用できます。ムダを見直すことで業務が効率化され、それによって生産性を向上させられるでしょう。
急激な技術発展によって生産がデジタル化しているように、生産方法は時代によって変わっていきます。時代に合わせた生産を行なうためにも、継続的な改善が必要です。
QC活動後の振り返り
QC活動後の振り返りにも、AARは活用できます。品質改善について振り返るのではなく、QC活動のやり方について振り返ります。
例えば、「話し合いに時間がかかった」とします。それに対して、「段取りが悪かった」ことを挙げ、その改善案として「あらかじめ話す順番を決めておく」といったように、QC活動についてAARを実施するのです。
AARによってQC活動が改善されれば、より効率よくQC活動に取り組めます。QC活動の結果も良くなり、品質改善の効果も期待できるでしょう。
QC活動後のノウハウができていない時ほど、AARの実施が必要となります。
新ライン・新工程の立ち上げ
新しく立ち上げる際も、AARを活用してください。新設時はわからないことが多く、トラブルになりやすいです。業務を安定させるためにも、毎日AARを行なって、問題解決に務めましょう。
また、導入準備についてもAARをすると良いです。今回のことを踏まえてマニュアル化しておくと、次の導入時に参考にできます。
特に、近年は変化が激しい時代です。グローバル化による市場の変化やデジタル技術の発展など、製造業に大きな影響を与えます。それに伴い生産方法を変える必要もあり、新ラインを立ち上げる機会も多く存在するでしょう。
新しく立ち上げるたびにあたふたするようでは仕事になりません。AARの結果を、次回に活かすようにしてください。
OJTや新人教育の振り返り
OJTや新人教育の振り返りにも、AARは効果的です。講習内容を振り返ることで、自分の技量を見直すことができます。「話す速度はどうだったか」「説明はわかりやすかったか」など、自身を評価することで改善点が見つかるでしょう。
教える力が身につけば、業務説明がわかりやすくなります。情報の齟齬が減ることで、情報共有がしっかり行なえます。
また、AARには「Anticipation Action Reflection」を意味する別のAARも存在します。「見通し」「行動」「振り返り」を意味する仕組みであり、簡単にまとめると「見聞きしたことを実際に行動し、行動した内容を評価する」といった意味の組み合わせです。
知識や技術は、聞いたからといってすぐに習得できるわけではありません。実際に試し反復することで身についていきます。
「After Action Review」とは意味が異なりますが、受講者側にも、AARによる自己学習が必要といえるでしょう。
AARを製造現場で定着させるポイント
いくらAARが効果的といっても、自主的に行なわなければ意味がありません。継続的な改善を目指すためには、AARを定着させる必要があります。
製造現場にAARを定着させるためには、以下のポイントを意識してみてください。
「責任追及しない」文化づくり
一つ目は、AARに悪印象を持たせないことです。AARのことを「失敗を責めること」と思ってしまうと、自主的に行なう気持ちが失せてしまいます。
誰だって、叱られたり怒られるのは嫌です。AARを意識するあまり、余計に失敗を恐れて行動を制限してしまうでしょう。
一方で、AARが「より成長すること」と認識すれば、自然とAARを行なうようになります。AARの結果が自信にもつながり、より積極性を育てられるのです。
AARの特徴は、非難しないことにあります。責任追及をしないことで、前向きに取り組める企業文化を構築していきましょう。
短時間で終わらせる
二つ目は、短時間で終わらせることです。時間をかけてしっかり考えることも大切ですが、あまり時間がかかるようだと、面倒になってAARをしなくなります。
また、時間をかけたからといって、必ずしも良い内容を思いつくわけではありません。自分だけの力では限界があり、多くの場合、時間のムダになってしまいます。
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朝礼・昼礼・夕礼の中で挟む
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現場稼働に影響しない時間の確保
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QC活動のミニレビュー
上述のような例で時間を確保(10分~15分:最大20分程度)するのが、製造現場で実施する上ではおすすめです。無駄な時間を過ごさないためにも、短時間で終えることを意識してみてください。
とはいえ、短時間では改善策が見つからない場合もあります。そのような場合は課題としてメモしておき、後で上司に相談するなどをして問題解決にあたりましょう。
フォーマット化・テンプレ化する
三つ目は、AARの仕組みを標準化することです。やり方を統一することで、AAR初心者でも迷うことなくAARを実施できます。
実例も紹介もすると、どのような場面で行なうかもわかり、自主的にAARが行なえるでしょう。
改善案は必ず「1つだけ」でも実行する
四つ目は、改善案を必ず1つは実行することです。考えただけで終わってしまっては、AARをした意味がありません。実際に行なってみることで、初めて改善されたといえます。
そのため、改善案を挙げる際は、必ずすぐにできることも挙げてください。時間や手間がかかる方法ばかりを思いついても、実行に移す前に気持ちが萎えてしまいます。考えがまとまっているうちに、行動へ移しましょう。
また、改善案を欲張らないことも大切です。改善案をたくさん用意することも大切ですが、すべて実行するのは難しいといえます。改善案が多い場合は実施の優先度を決めるなど、確実に行なえる状態を作りましょう。
まとめ:AARで現場の改善力を底上げする
AARとは、現場の改善力を成長させる振り返り手法のことです。出来事を振り返って評価し、次回に活かすための改善案を模索します。
AARの特徴は、ただ改善案を実施するだけではなく、実施者が成長できる点にあります。改善能力や解決能力が育つことで、自身で考え最適な行動を取れるようになるでしょう。
ほかにも、物事を整理する能力が育つことで、説明する力や効率よく物事を見る力も身につきます。
近年は、人手不足の影響により、一人ひとりの質が求められています。より良い職場に現場にするためには、一人ひとりが考え業務改善に取り組むことが大切です。
仕事のミスを恐れていては、自主性が育たず成長しません。ミスを成長のチャンスと思えるようにするためにも、AARを企業文化として根付かせてみてください。



