近年、情勢が激しく先が予測付かないことから、VUCA時代とも呼ばれています。VUCAとは、先が読めないことを意味する言葉であり、将来性が不明な時代といった意味があります。
利益を出すためには、物事の先を読み投資をする必要がありますが、先が読めない状態では、投資するのも難しいです。投資に失敗すれば、リスクを背負い企業が倒産してしまうかもしれません。
そのため、近年ではVUCA時代を乗り切るための、時代に合わせた能力が求められています。
VUCA時代に必要とされる能力とは何なのか。VUCAの意味や注目される理由など、VUCA時代について紹介します。
VUCAとは?
VUCAとは、先行きが読めず将来が予測困難な状況を指す言葉です。「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の4要素をまとめた言葉になります。
元々はアメリカで使用されていた軍事用語でしたが、近年は世界的に情勢が不安定なことから、ビジネス用語としても使われるようになりました。
企業運営は、流行を読むことで発展を遂げます。「冬に向けて寒くなるから冬物を多く用意する」といったように、顧客のニーズに合わせることで、より利益が上げられるわけです。
ですが、近年はその読みが難しくなっています。2000年ごろを境に広まったIT革命によって、できることが劇的に増加したからです。急激なIT技術の発展はもちろん、グローバル化したことでニーズも多様化されています。新しい市場が次々と開発されるため、企業もニーズに合わせた対応が求められるのです。
また、2020年に広まった新型コロナウイルスの影響も大きいです。感染拡大を防ぐため、外出禁止や輸出入の制限が、今までの流れを大きく変化させました。それにより、国内回帰や倒産を余儀なくされた企業も少なくはありません。中には、倒産を回避するため、新しい事業を始めた企業もあります。
他にも、戦争、環境問題、少子高齢化問題、制度の変更など、様々な問題が挙げられます。将来性が不安なことから、近年はVUCA時代とも呼ばれています。
VUCAの4つの視点
VUCAは、4つの不安要素から構成される言葉です。それぞれの要素は、どのようなことを意味しているのでしょうか?
- 変動性(Volatility)
- 不確実性(Uncertainty)
- 複雑性(Complexity)
- 曖昧性(Ambiguity)
変動性(Volatility)
変動性(Volatility)とは、流行や技術革命など、時代とともに変化する不安を指します。今まではテレビや雑誌など、企業が提供するモノが人々の情報源でした。紹介する情報も企業側が操作することができ、ブームの操作も難しくはなかったです。
ですが、近年はインターネットの普及により、ブームは個人(インフルエンサー)が作るようになりました。今までのように企業がブームを操作することが難しくなり、結果として、先の展開が読みにくい状態です。
今後も、技術の発展に伴いニーズの多様化が広がっていくと考えられます。「なにが流行し発展するか」が読めないことから、企業はリスクを覚悟しなければなりません。
不確実性(Uncertainty)
不確実性(Uncertainty)とは、環境破壊や経済不況など、将来的な不安を指します。今までは足元を固めることでリスクを回避していましたが、近年は世界規模の問題が多く、一企業の備えだけでは、万全とは行かなくなっています。
新型コロナウイルスの影響によって経営不振や倒産となった企業も多く、いつどのような問題が生じるかは分かりません。
また、少子高齢化などの社会問題も不確実性に挙げられます。他にも、戦争や地球温暖化などの問題や、逆にIT技術の発展による仮想空間の活用なども挙げられ、良くも悪くも将来どのようになるかは分かりません。
大企業や老舗企業であっても、情勢によっては経営が傾き、倒産するリスクがあります。
複雑性(Complexity)
不確実性(Complexity)とは、複数の要素が重なることで、予測がつかない不安を指します。近年は、グローバル化の影響により、海外との交流が増えてきました。アメリカはもちろん、インド、イタリア、タイ、中国など、様々な文化や人種とつながることで、日本の将来が期待されています。
ですが、様々な国とつながることで、同時に各国への対応が必要になります。文化が異なるということは価値観や礼節なども異なるため、それぞれの国に合わせた対応が求められるのです。
また、海外展開についても同様です。文化が異なるため、日本で成功したビジネスモデルが、海外でも通用するとは限りません。
企業が成功するためには、文化を始め、環境、情勢、経済など様々な情報を調査する必要があり、新しいことへ挑戦するリスクがあります。
曖昧性(Ambiguity)
曖昧性(Ambiguity)とは、状況の理解ができない不安を指します。変動性、不確実性、複雑性と紹介しましたが、正直な話、原因が分かっているなら対応も難しくはありません。「寒くなってきたから冬物を販売する」といったように、原因に対して解答を提示するだけだからです。
ですが、問題が複数あると話は変わってきます。それぞれの問題に対する解答を同時にこなす必要があるからです。問題が多ければ多いほど条件は絡み合い、より複雑化していきます。
もちろん、問題を絞って対応する方法もありますが、それだけでは問題解決にはなりません。解決できない問題によって、利益が減少してしまいます。
近年は、変動性、不確実性、複雑性による問題が立て続けに生じ、判断が難しくなっています。
前例のない問題も生じるようになり、手探りで問題解決を目指す必要があるでしょう。
VUCAが注目される理由
なぜVUCAが近年注目されているのか。「VUCAとは」でも簡単に触れましたが、改めて確認してみましょう。
新型コロナウイルス感染拡大
VUCAが注目される理由は、新型コロナウイルスの影響が大きいです。感染力と死亡率の高さから、世界各国で外出禁止や輸出入の制限が余儀なくされました。流通が制限されたことで企業として成り立たず、大企業や老舗企業であっても、倒産を余儀なくされた企業は少なくありません。
大企業や老舗企業といった地盤がしっかりしている企業であっても、1つの出来事から経営が傾くことが十分にあり得るのです。
いまだ新型コロナウイルスの感染拡大は続いており、対策が取られているとはいえ、今後どのようになるかは分かりません。他にも、戦争や震災の心配も強く、VUCAについての対応力が求められています。
グローバリゼーションによるビジネスの複雑化
新型コロナウイルスの影響以外にもVUCAが注目される理由として、ビジネスのグローバル化も理由に挙げられます。2000年ごろを境にインターネットが普及し始め、それに伴い、海外の文化が国内で広まるようになりました。
それに伴い、様々な企業がグローバル化に乗り出します。日本が海外文化を取り入れるだけではなく、逆に海外が日本の文化を取り入れるなど、今後のビジネスは、世界がターゲットになると期待されたのです。
ですが、実際には文化の違いによる問題に直面してしまいます。文化が違うことで考えが異なり、国内でのビジネスモデルそのままでは海外に通用しないのです。海外進出をするためには、海外のニーズに合わせた新しいビジネスモデルが必要となります。
また、ターゲットとなる国も1つではありません。アメリカ、中国、イタリア、ドイツなど、様々な国があります。世界企業をターゲットにするには、各国の文化に合わせた経営戦略が求められます。
さらに、様々な文化が混ざることで、新しい文化も誕生しています。同じ日本でも、昔と今では、必要なモノは同じではありません。その結果、「絶対的」なビジネスモデルというものは存在せず、VUCA時代に適した能力が必要となります。
IT技術の急速な発展
近年におけるIT技術の発展も、VUCA時代となる原因の1つです。携帯電話からスマートフォンへの進化を参考にしてもらえれば分かりますが、近年はすさまじい勢いで技術が進化しています。
経済産業省は、第四次産業革命を目指す政策として、技術・機械・人などがつながり生活を豊かにする「コネクテッド インダストリーズ(Connected Industries)」を発表しており、今後も様々なIT技術の発展が期待されているのです。
ですが、その一方で、急激な変化に対応しきれない個人・企業も少なくはありません。新技術にはコストや知識が必要であり、準備が間に合わず追いついていない状態です。
中には、技術の進化に追いつけず、変化に対応できないことから倒産するケースもあります。
技術の発展自体は望ましいですが、その技術を活かすための、新しい能力が求められるでしょう。
スマートフォンやパソコンなど、電子技術が当たり前となる近年。ドイツでは、「インダストリー4.0」についての政策が発表されました。 インダストリー4.0とは、「第4次産業革命」のことであり、将来に向けた様々なデジタル政策の取り組[…]
少子高齢化
少子高齢化も、VUCAの不確実性に関係する要素の1つです。近年は収入が不安定などの理由から子供の出生率が減っており、逆に医療の発展によって高齢者が長生きしていることから、少子高齢化といわれています。
少子高齢化の最大の問題は、人材不足になることです。若者が減ることで、自然と働き手も減ってきています。ビジネスが多様化していることも相まって、どの業界でも人手不足に悩んでいるのです。
人手不足が原因で昔のような経営が難しくなり、規模の縮小を余儀なくされる企業も出てきています。
もちろん、人手不足を解消するためのIT技術は発展していますが、IT技術の導入には知識とコストが必要であり、導入は簡単ではありません。
日本の経済状況は悪くなる一方で、今後も少子高齢化は加速すると考えられます。人手不足による問題は解消されず、ビジネスは困難になっていくでしょう。
VUCAに関する政府の動き
VUCAに対する試みとして、2019年に政府は「人材競争力強化のための9つの提言(案)〜日本企業の経営競争力強化に向けて〜」を発表しました。
大まかな内容は、「経営トップがVUCAについて理解し、将来を見据えた変革を求めること。実現するための人材育成や戦略を実施すること」を推奨しています。
また、企業に向けてだけではなく、VUCA時代に対応できる子供を育てる「OECD Education 2030 プロジェクト」も公表しています。
2030年以降を想定した教育方針であり、「新しい価値を想像する力」「対立やジレンマを克服する力」「責任ある行動を取る力」の3要素を教育の要とすることで、VUCAに対応できる能力を身につけさせます。
他にも、人材不足を解消するため、仮想空間と現実空間を融合させ、経済発展と社会的課題の解決を目指す「Society 5.0」の提唱など、様々な対策を講じています。
ただ、どの対策も、将来を見据えた政策や方針であり、すぐに効果が出るわけではありません。そのため、「今」を乗り越えるためには、個人や企業ごとに対策が必要となってきます。
- 参考サイト
- 経済産業省「人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~」
- 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室「OECD Education 2030 プロジェクトについて」
- 内閣府「Society 5.0とは」
VUCA時代に求められる6つの能力
VUCA時代を乗り越えるためには、主に6つの能力が必要です。VUCA時代では、どのような能力が必要とされるのでしょうか?
- 情報収集力と情報処理能力
- 迅速な意思決定力
- 臨機応変に対応する能力
- コミュニケーション能力
- 問題解決力
- 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)
情報収集力と情報処理能力
1つ目の能力は、情報収集能力です。経営に限ったことではありませんが、情報は最大の武器となります。たとえ経済状況が急激に低下したとしても、事前に原因を把握していれば、すぐに解決法を提示することが可能です。準備期間も十分に確保でき、安定して問題に立ち向かうことができます。
また、そのためには情報処理能力も重要です。情報を集めても、それを活用できなければ意味がありません。
情報の中には誤情報も存在し、もし誤情報の方を信じてしまった場合、経営が傾く原因となってしまうでしょう。
必要な情報を集められる能力はもちろん、情報を分析・取捨選択できる能力も、VUCA時代では求められます。
迅速な意思決定力
2つ目の能力は、意思決定力です。状況の変化に対して、迅速に判断・決行できる能力のことを指します。
変化が激しいVUCA時代では、市場のニーズが常に変動しています。予測した内容と違う結果になることも多く、投資には一定のリスクがあります。
ですが、だからといって行動しないのもNGです。行動しないとライバル企業に先をこされ、ビジネスで後手に回ってしまうからです。
VUCA時代を生き抜くためには、自分を信じ行動する必要があります。もちろん、リスク回避するための対策は必要ですが、アイデアを出したらすぐに実行できるような、行動力と判断力が必要なのです。
臨機応変に対応する能力
3つ目の能力は、柔軟な対応力です。変動の激しいVUCA時代では、臨機応変な対応が求められます。
新型コロナウイルスが感染拡大した際も、本来の事業とは別にマスクや消毒液などの生産をしたことで、経営を持ち直した企業もありました。
既存の事業に捕らわれず、状況に応じた柔軟な思考や発想、それを実行できる行動力が必要になるでしょう。
コミュニケーション能力
4つ目の能力は、コミュニケーション能力です。グローバル化が進む現代では、人と交流する機会が増えています。
グローバル企業の場合は海外の人と交流する機会も多く、外国語は必須項目です。海外によって文化や価値観なども異なるため、トラブルにならないよう理解する必要もあります。
また、交友関係が広がることで、新しい情報も入ってきます。他業界の新情報を先んじて知ることで、ライバル企業と差をつけられます。
他にも、優先的な契約や支援なども期待することができ、新型コロナウイルスの時のような状態でも、助け合いによって経営を保つことができるでしょう。
問題解決力
5つ目の能力は、問題解決力です。情報から出来事を分析し、理由と解決方法を導き出します。
VUCA時代では、様々なことが新しい出来事です。前例がない場合も多く、それゆえ、自分で考えて行動しないといけません。
利益の損失を防ぎ利益を出すためにも、「この情報からどのようなことが考えられ、どのような結果が生じるのか」。また、「どのようなことをすれば利益につながるのか」を考える力が必要になるでしょう。
企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)
6つ目の能力は、企業変革力です。企業変革力とは「環境や状況が変化する中で、企業が自己変革するための能力」のことを指します。
ようは、状況に対する企業の適応力のことです。いくら問題解決の立案を提示しても、企業が対応できないと状況は改善しません。
意思決定力や柔軟な対応力に通じる部分でもあり、柔軟に判断・対応ができる指導者の資質が求められます。
近年話題となっているダイナミック・ケイパビリティ。企業の変革に必要とされる3つの能力を指し、様々な企業や業界で注目を集めています。 環境保全や移民対策など。近年における世情の変化は目まぐるしいです。特に新型コロナウイルスによっ[…]
VUCA時代の意思決定方法:OODAループ
意思決定方法といえば、「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Action)」からなるPDCAサイクルが有名ですが、近年では、別の方法として「OODAループ」が注目を集めています。
OODAループとは、「観察する(Observe)」「状況を理解する(Orient)」「決める(Decide)」「動く(Act)」からなる、情報収集(観察)に重点を置いた決定方式です。問題が生じた際に前段階に戻って修正を繰り返すループ形式を特徴としており、1サイクルを前提として修正や改善を目指すPDCAサイクルよりも、臨機応変に対応することができます。
また、PDCAサイクルのように1サイクルを回してから修正をするわけではないため、結果が出るまでも早いです。PDCAサイクルの場合は、修正するごとに上司へ実行の許可を申請しないといけませんが、OODAループでなら、修正は現場レベルで済ませられるため、上司への申請は最小限で済みます。
OODAループは、迅速かつ臨機応変に修正できることを特徴としており、状況が変化しやすいVUCA時代の意思決定方法に、とても適しているのです。
近年、需要が広まるOODAループ。デジタル化社会による影響により、様々な業界で注目されるようになりました。 以前はPDCAサイクルを始めとした各サイクルを用いていた企業も、インターネットの普及によって高速化された情報の変化には[…]
まとめ:VUCA時代の先、SuperVUCA時代に突入
VUCAとは、予測困難な要素をまとめた言葉のことです。「変動性(Volatility)」「不確実性(Uncertainty)」「複雑性(Complexity)」「曖昧性(Ambiguity)」の4要素からなり、先行きが不明なことは、企業にとってのリスクを表します。
- 変動性(Volatility)
- 不確実性(Uncertainty)
- 複雑性(Complexity)
- 曖昧性(Ambiguity)
新型コロナウイルスの拡散や少子高齢化問題など、近年は先行きが不安になる要素がとても多いです。環境問題や戦争などの問題もあり、今後はよりVUCA時代が進行し、さらに先行きが不安なSuperVUCA時代に突入すると考えられます。
VUCA時代を乗り越えるためには、情報収集力や情報処理能力がとても重要です。世界各国の情報をいち早く収集するためにも、様々なモノとつながり情報収集を行うloTや、収集した情報を分析してフィードバックするサイバーフィジカルシステムといった、インターネット技術を活用したIT技術の導入が求められます。
他にも、決断力やコミュニケーション能力、企業変革力なども、VUCA時代には必要な能力です。VUCA時代であっても利益を上げられるよう、各能力を意識して鍛えてみてください。