生産の進め方で、困った経験はありませんか?「生産が思い通りに進まず納期に間に合わなかった」「製品を余計に造りすぎてしまった」などの失敗は、製造業においてよくあることだといえます。
ですが、そのような失敗が続くと、企業は大きな痛手となります。企業の信頼は失われ、顧客は離れてしまうでしょう。
MPSは、そんな生産管理のミスを減らすための手法の一つです。MPSによって生産管理をすることで、在庫の過不足を防ぐことができます。
MPSとはどのような手法なのか。MPSとは別のシステムと合わせて解説します。
MPS(基準日程生産計画)とは
MPSとはどのような生産計画のことを指すのでしょうか。MRPやMRP2との違いについても確認してみましょう。
MPSとは?
MPS(Master Production Schedule)とは、「いつまで」に「どれくらい必要なのか」を決める生産計画のことです。現在の在庫状況やリソースなどから照らし合わせ、日程ごとの必要生産数を組み立てていきます。
もし、受注した個数を制限なく作れればMPSは必要ありません。ただ作るだけで、必要な個数をすぐに納品できます。
ですが、実際は設備や人員などのリソースに限りがあり、制限なく製造するのは難しいです。日程の制限もあることから、無計画に製造していると、納期に間に合わない恐れがあります。
契約の不履行は、企業の信用を損ねる結果となります。信用を損ねることで次回の契約につながらず、顧客を逃してしまう結果となるでしょう。
そのような事態を防ぐためにも、生産計画を立てることはとても重要です。一言でまとめるなら、MPSは「納期を守るため」に必要なシステムといえます。
MPSとMRPとの違い
MRP(Material Requirement Planning)とは、「生産に必要となる資材・部品」を「いつまで」に「いくつ必要か」を決める計画のことです。日本語では「資材所要計画」と呼びます。
MPSとの違いは、計画する範囲の違いです。MPSは製造に対する計画であるのに対して、MRPは資材の調達・管理に対する計画のことを指します。MPSを計画するためには資材の状況からも判断する必要があり、MPSの指標としてMRPが活用されます。
資材が不足してしまうと、生産がストップし納期に間に合わなくなります。逆に多すぎると、倉庫を圧迫し過剰在庫となってしまうでしょう。
資材は、少なくても多くても、企業にとってデメリットとなります。コストを削減し生産性を向上させるためにも、MRPが必要とされるのです。
MPSとMRP2の違い
MRP2(Manufacturing Resource Planning)とは、MRPの管理範囲(資材)に加え、コスト、人員、設備までも範囲に含め管理する計画のことです。日本語では「生産資材計画」と呼びます。
MRPの発展型であり、1980年代に、在庫管理の概念を在庫以外の要素(資産、人員、設備など)にも適用するため考案されました。
MPSとの違いも、MRP同様に計画する範囲の違いです。MPSは製造に関する生産計画に対して、MRP2は資源や人材などの管理計画のことを指します。
MRPはMPSの設計に必要ではありますが、それだけでは不十分です。より精密な計画を立てるためには、設備や人員などの情報も必要といえます。
MRP2は、そんなMRPでは足りない情報をカバーするための管理システムです。MRP2を活用することで、より緻密で効率的なMPSが実現されます。
MPSの主な機能:需給計画と生産計画
MPSの機能は、主に「需給計画」と「生産計画」の2つに分けて考えることができます。それぞれどのような内容なのか確認してみましょう。
需給計画
需給計画とは、需要に対して過不足なく供給するための計画のことです。受注内容や過去のデータなどから算出し、いくつ作ればいいのかを計画します。
需要に対して供給が少ないと儲けるチャンスを逃してしまい、逆に供給が多すぎると在庫が余ってしまいます。ムダがなく最大効率で儲けるためには、過不足のない需要計画を考案する必要があるのです。
生産計画
生産計画とは、市場の状況や受注状況に対して、適切な生産を行うための計画のことです。目標を達成するにはどうすればいいかを、リソースから算出し計画を立てます。
ムダのない生産を行うためには、しっかりとした需要計画が必要です。そして、需要計画を実現するためには細かい部分まで考案された生産計画が必要となります。
それぞれが別の計画を立てるのではなく、それぞれが関係して、一つの生産計画を組み立てるのです。
なぜMPSが必要なのかとそのメリット
MPSが必要とされる主な理由は、必要なものを必要な量だけ作るためです。「MPSとは」でも触れましたが、納期に間に合わせるためにも、生産計画を立てる必要があります。
また、MPSによる管理は、製品の造りすぎを防ぐ意味もあります。計画を立てて製造すれば、余計に造りすぎる心配はありません。その結果、コスト削減はもちろん、過剰在庫による倉庫の圧迫も防げるでしょう。
トヨタ自動車では、必要なものを必要な量だけ作る考えのことをジャストインタイムと呼び、厳守しています。効率の良い生産を実現するためには、ムダを省いた生産が望まれます。
そして、ムダを省いた生産を実現するためには、ムダを省いた生産計画(MPS)が必要となるわけです。
ほかにも、MPSによって生産による作業員への負荷を平準化できたりなど、労働環境の改善にもMPSは活用されます。
MPSと他のシステムの比較
MPS以外にも、計画を立案するシステムは存在します。ほかのシステムにはどのようなものがあるのか確認してみてください。
MRP
MRPは、在庫状況を確認するためのシステムです。「MPSとの違い」でも触れましたが、資材の必要数や購入数を管理し、「必要なものを」「必要なときに」「必要な量だけ」用意できるよう、在庫状況を管理します。
どちらかといえば単体で使用されるのではなく、ほかのシステムの指標として活用されることが多いです。MPSも、MRPの内容を基に計画を立てられます。
ERP
ERP(Enterprise Resources Planning)は、基幹となる業務を統合し、情報の一元化を図るためのシステムです。日本語では「統合基幹業務システム」や「基幹系情報システム」と呼ばれています。
企業の業務には、会計業務や人事業務など、さまざまな業務が存在します。それぞれの業務を別の者が担当し、情報のやりとりをすることで、企業を運営するのです。
ですが、担当部門が異なることで、管理システムが異なる問題も存在します。管理方法がそれぞれの部門で異なるため、反映させるには手間がかかるのです。手間がかかることで情報共有にミスも生じやすく、決して効率的な方法とはいえませんでした。
そこで、新しい管理方法として選ばれたのがERPによる一元管理です。全管理システムをERPで統一することにより、各部門間でデータの受け渡しがなくなります。情報が可視化されることで他部門の情報もすぐに取得でき、スムーズな生産を可能にします。
さらに、反映によって生じていたミスも一元管理によってなくなります。リアルタイムで情報が更新されるため、急な変更にも即対応ができるでしょう。
ほかにも、経営分析や経営戦略を決める際にも活用され、製造部門はもちろん、すべての部門で効率的な業務が実現できます。
MPSを立てる際も、ERPを参照することで、他部門と連携した生産計画を立てやすくなります。
SCM
SCMは(Supply Chain Management)は、製品の流れを管理するシステムです。日本語では「供給連鎖管理」と呼ばれており、調達、製造、搬送、販売までの流れをまとめて管理します。
SCMが注目される背景には、グローバル化の影響が関係してきます。近年は海外工場も増えてきており、部品ごとに別の工場で作るケースは珍しくありません。各工場との連携を高めるためにも、SCMによる情報の一元管理が求められているのです。
SCMを導入することで、消費者に届くまでの一連の流れが可視化されます。消費者情報を基に生産を決めるといったことも、SCMによって可能となるわけです。
また、原因究明にもSCMは活用できます。SCMを遡ることで原因が特定しやすくなり、大幅な時間短縮につながるのです。
ERPが横のつながりに対する可視化を目的とすると、SCMは縦のつながりに対する可視化を目的としています。
MPSのメリットと功績
MPSによるメリットは、「必要なものを必要な量だけ作れる」ことだけではありません。ほかにも、生産におけるさまざまなメリットがあります。
「なぜMPSが必要なのか」でも触れましたが、改めて確認してみましょう。
効率化・最適化
一つ目のメリットは、生産工程を効率化・最適化しやすいことです。設備や人員などのリソースを均等に配分して計画を立てるため、生産完了までの流れをスムーズに進められます。手すき状態もなくせるため、生産にムダが生じません。
また、過去の生産記録と比較することで、最適化も目指せます。単純に、紙面などにまとめることで見えてくる事柄もあり、ムダな工程や作業を省いた、効率的な計画が立てられるでしょう。
生産効率の向上
二つ目のメリットは、生産効率が向上することです。最適化された生産計画によって、工場全体の稼働率が高まります。
また、生産負荷の平準化によって作業員のモチベーションも向上します。短期間でしっかりと作業するようになり、残業も減らせるでしょう。
ほかにも、無理のない計画を立てることで作業が丁寧になり、品質や検査の精密性も向上されます。
コスト削減と利益向上
三つ目のメリットは、コスト削減や利益向上が目指せることです。必要なものを必要な量だけ作ることで、生産にかかる資材の消費を抑えられます。
また、生産にかかるコストは材料費だけではありません。設備を稼働させる電気代や人件費などもかかります。特に、残業代は思ったよりもコストがかかり、企業の負担となるでしょう。残業のない平準化された作業日程を立てることも、コスト削減につながるわけです。
生産効率が向上すれば、生産数が上がり製品を売ることができます。納期を守る企業として信用もされ、製品を売る機会にも恵まれるでしょう。
生産計画の立て方と流れ
では実際に、生産計画はどのように立てればいいのか。計画立案の大まかな流れを紹介します。
ステップ①大日程計画の作成
まずは、中長期的な計画を立てることから始めます。中長期的とは、3ヶ月〜1年程度を指す期間のことです。基本的には今年度を指す期間と思っていいでしょう。
計画頻度は、1ヶ月〜3ヶ月を目安に区切って計画を立てます。一本の長期的な目標だけでは、途中で何かあった際に修正をするのが難しいです。ドミノ倒しのストッパーのように、1シーズンを目安に区切って考えます。
大日程計画では、需要予測が基本となります。過去のデータや市場調査を基にしながら、将来的な計画を決めていきましょう。
そして、その計画に必要となるリソースを定め、将来必要となるリソースを確保するよう計画を進めていきます。
ステップ②中日程計画の作成
大日程計画を作成したら、次は中短期的な計画を立てていきます。中短期的とは1ヶ月〜3ヶ月程度を指す期間のことです。基本的には1シーズンを指す期間と思っていいでしょう。
計画頻度は、1週間〜1ヶ月を目安に区切って計画を立てます。毎週や毎月ごとに区切って計画を立ててください。
中日程計画では、実際の受注状況が基となります。週や日単位で、どの製品をどの程度作るのかを決め、それに合わせて、外注計画や在庫計画などの各計画を立ててください。
ステップ③小日程計画の作成
中日程計画を作成したら、次は短期的な計画を立てていきます。短期的とは1週間〜1ヶ月程度を指す期間のことです。「作業日程計画」とも呼ばれます。
計画頻度は、毎日〜毎週を目安に区切って計画を立てます。各進捗状況を反映するためにも、細かく区切った方が良いでしょう。
小日程計画も、実際の受注状況を基に計画を立てます。中日程計画は目標を設定するのに対して、小日程計画は目標を実現するために必要な作業計画を立案するのです。
作業指示だけではなく、品目、数量、完了日なども記載された、粒度の高い指示書の作成を心がけてください。
生産計画における課題
生産計画の手技としてMPSを紹介しましたが、残念なことにMPSは絶対ではありません。トラブルや新しい受注が入れば予定は変わるからです。近年は世界情勢の変化も激しく、計画通りに進むほうが珍しいといえます。
そのため、一度計画を立てて終わりとするのではなく、計画の区切りごとに計画を見直し、その都度修正していくことも大切といえます。
ほかにも、生産計画を立てるうえで課題となる問題はあります。どのような課題が挙げられるのか確認してみましょう。
ERPや生産管理パッケージの課題
一元管理を可能とするERPや生産管理パッケージですが、生産管理をするうえで精密さが欠けるといった問題があります。
ERPや生産管理パッケージにもMPSを構築するシステムは備わっているのですが、その目的は所要量計算をするために必要な要素といった意味合いが強く、現場の状況が考慮されていない場合が多いからです。在庫状況に基づく計算が主であり、ロットサイズやリードタイムを考慮しないことはよくあります。
その結果、計画と実態に微妙な狂いが生じ、積もった違いによって最終的に計画が破綻するリスクが存在します。
もちろん、些細な問題はアナログで修正もできますが、規模の大きいプロジェクトの場合だと、アナログでの修正が難しい場合もあります。
より緻密な計画を立てるためには、実態を考慮できる、計画管理システムの導入が望まれるでしょう。
需給/在庫計画に基づくMPS
実際の現場では、長期的な受注がされるのではなく、短期による飛び込み受注が多い傾向にあります。ニーズが多様化する近年において、求められる製品も変わることから、受注内容も変わりやすいためです。
そのため、生産する方としても、需要の変動に対する柔軟な対応が求められます。需要予測ができれば安全在庫として作り置きも可能であり、今後は需要予測を基にした生産も増えていくでしょう。
ただ、需要予測は難しく、予測が外れることで在庫となるケースも少なくありません。在庫過多によるデメリットは大きく、可能なら在庫を抱えない方がいいといえます。
需要予測を可能にするためには、生産部門における情報だけでは不十分です。マーケティング部門や販売部門といった複数の部門を横断することが大切であり、それによってより正確な需要予測が可能となります。
生産スケジューラを活用した攻めの計画立案
MPSの組み立てには、需給調節や在庫計画など、さまざまな情報や知識が必要です。ERPや生産管理パッケージなどでも生産計画は立てられますが、グローバル化され世界がライバルとなる近年においては、いささか心もとないといえるでしょう。
そこで、計画立案に特化した生産スケジューラの導入がおすすめされます。
生産スケジューラとは、生産計画システムとも呼ばれる生産計画を立案するシステムのことです。分や秒単位での細かな管理が可能であり、現場に適したシステムといえます。
近年は、生産計画だけではなく、需給計画や在庫計画にも活用されるケースが増えてきています。SCP(Supply Chain Planning:流通を予測し、生産計画を決める)にも活用されるなど、生産計画にとどまらない汎用性が評価されているのです。
需給計画や在庫計画を始め、各計画の立案に生産スケジューラを活用することで、予測に基づいた攻めの計画立案が可能となります。
まとめ:MPSとIT・システムを活用した生産効率の最大化
MPSは、ムダのない生産を実現するために必要な要素です。生産計画を立てていないと、必要な数量が分からず納期に支障をきたします。顧客からの信用を損なうだけではなく、販売するチャンスも逃してしまうでしょう。
たとえ簡単な受注内容であっても、MPSを活用することで、業務の効率化や生産効率の向上が期待できます。記録を残すことで、今後の生産にも役立つでしょう。コスト削減と利益向上を目指すためにも、MPSを作成するようにしてください。
ただ、MPSの作成にはさまざまな情報が必要であり、アナログでの作業は難しいです。そのため、生産管理システムなどのIT技術を活用することをおすすめします。生産スケジューラのような特化したシステムを活用すれば、より効率的に計画が組めるでしょう。
MPSを設計するためにも、ぜひ生産スケジューラを始めとしたシステムの導入を検討してみてください。
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カイゼンナビを運営するNCK(株式会社日本コンピュータ開発)では多品種少量生産を行う中小製造業様に向けて「生産管理スケジューラ Freely(フリーリー)」を提供しています。
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