近年、耳にする機会も増えてきたファクトリー・オートメーション。生産性の向上や人材不足の解消などが実現できることから、多くの企業がファクトリー・オートメーションに取り組んでいます。
日本はもちろん世界でも推進の流れは進んでおり、「自社工場にも導入しよう」と考える企業は少なくはないでしょう。
ですが、導入にはメリットだけではなくデメリットも存在します。理解し準備したうえで導入を決意しないと、メリットどころか企業の負担になりかねません。十分な効果を期待するためには、ファクトリー・オートメーションについて知る必要があります。
ファクトリー・オートメーションとはどのような仕組みを指すのか。メリットやデメリット、活用されるITシステムなどについて紹介します。
工場の自動化:ファクトリー・オートメーションとは?
ファクトリー・オートメーション(以下FA)とは、工場における自動化のことです。デジタル機器やロボットが生産をサポートすることで、人の手を必要とせず、自動で製品を造り続けます。
オートメーション自体は1950年代ごろから使われてきた言葉でしたが、近年はデジタル機器の普及により、事務などのオフィスワークも自動化されつつあります。それに伴い、「オフィス・オートメーション」と区別するため、工場の自動作業のことをFAと呼ぶようになりました。
デジタル化が進む近年において、FA化は珍しくありません。国の政策においてもFAは推進されており、将来的に必要とされています。
FAの対象範囲と目的・狙い
FAは「工場における自動化」と説明しましたが、決して「工場内のすべての作業」が対象なわけではありません。
では、FAはどの範囲までの事を含むのか。目的や狙いと合わせて説明します。
FAの対象範囲
FAの対象は、製造に関する範囲です。「加工」「組立」「マテハン(運搬)」「管理」からなる4分野が、主な対象といえます。
設計データを元にしたロボットによる加工と組立はもちろん、ベルトコンベアによる製品の移動、さらには、それらの流れの管理することが、FAの対象範囲となるわけです。
細かく対象を分類するなら、画像検査による品質管理や、問題が発生した際に自動で停止する安全管理なども、FAの範囲に含まれるでしょう。
総じて、製造部門が担当する範囲が、FAの範囲と思ってもらえれば良いです。
FAの目的・狙い
FAが目指す目的は、生産性の向上です。製造が機械によって行われることで、あらゆる面で向上し、便利になります。
生産スピードの向上はもちろん、製造が正確になることによる品質の安定化、不良品の発生を防ぐことによるコストの削減、さらに、危険な作業を機械が肩代わりすることで安全の確保や、従業員の負担を軽減することにもつながります。
もちろん、決してメリットだけではありませんが、総じて、企業と従業員の両者にとって、より良い結果を与えてくれるわけです。
他にも、AIのサポートによって多品種少生産も可能となります。近年は顧客ニーズの多様化により、顧客ニーズに合わせて生産を変える多品種少生産が望まれています。もちろん、アナログ作業でも対応はできますが、多品種に対応できる個人の技量が必要になってくるでしょう。
ですが、FAなら技量不足に悩む必要はありません。デジタル技術によって統一された作業を可能にします。工程の組み換えなども、AIがサポートすれば簡単に行えるでしょう。
FAは現環境を楽にするだけではなく、時代に合わせた生産を可能にする狙いもあるのです。
FAのメリットとデメリット
FA化されることでどのような影響があるのか。メリットとデメリットの両面から考えてみましょう。
FAのメリット
FAの主なメリットは、主に以下の事が挙げられます。
- 不良品の削減や生産のムダを省くことによるコスト削減
- 作業の統一化による品質の安定
- 自動化による作業効率・速度の向上
- 自動化による人材不足の解消
- 安全性の向上による従業員のモチベーション向上
基本的なメリットとしては、「目的・狙い」でも紹介した、生産性が向上することです。作業効率や速度が向上することで生産性も向上し、さらなる利益向上が望めます。人件費、材料費、電気代などのコストが削減できることも、大きなメリットといえるでしょう。
また、機械が作業することで、人材不足の解消にもなります。近年は、どの企業でも人材不足による労働力の低下が問題となっており、何かしらの対策が求められているかもしれません。ですが、FAを採用すれば作業員が必要なくなり、人材不足が解消されます。
他にも、危険な作業や辛い作業を人が作業する必要がなくなり、従業員のモチベーションも向上します。安全で楽な作業に集中できるようになり、生産効率も向上するでしょう。
良い職場であることから離職者が減るのはもちろん、口コミで仕事内容が広まれば応募者も増え、人材不足の解消にもつながります。
FA化による影響はとても大きく、企業にとって莫大なメリットを与えてくれます。
FAのデメリット
FAの主なデメリットは、主に以下の事が挙げられます。
- 導入コストの負担
- FA適応に日数がかかる
- FAを扱うデジタル人材の必要性
コスト削減につながるFAですが、導入には莫大な費用がかかります。導入する機器や規模にもよりますが、工場すべてをFA化するのに、数千万〜数億円かかる場合も珍しくはありません。
また、新しく機器を導入する際は、生産を止める必要もでてきます。新しい技術は慣れるまで時間がかかり、現場を混乱させるなどの問題も挙げられるでしょう。
FAの実現を目指す際は、費用の確保や導入手順など、綿密な導入計画を立てる必要があります。
他にも、デジタル機器を扱うデジタル人材の確保も必要です。いくら最新機器を導入しても、扱える人がいないと効率の良い運用はできません。できることが限られてしまい、十分な効果は得られないでしょう。
FAの実現を目指すためには、様々な事前準備が必要となります。
FAにはITシステムが欠かせない
FAには、様々なITシステムが関わってきます。FAを理解するためには、それらITシステムについても知っておく必要があるでしょう。
FAにはどのようなITシステムが使われるのか。それぞれ紹介します。
製造システム
製品を製造する際に活用される、主なITシステムです。様々なシステムをかけ合わせることで、できることが広がりFA化につながります。
システムの略称 | 説明 |
---|---|
APS | 受注から出荷までの流れを一元管理するシステム |
AGV | 設定された軌道に沿って運搬するシステム |
CAD | コンピューター上で設計できる製図システム |
CAM | CADのデータをもとに製造機械を動作させるシステム |
CAE | コンピューター上でシミュレーションをするシステム |
CAT | CAEとセットで使用し、テストデータを元に結果解析をするシステム |
PDM | 製品データを一元管理するシステム |
PLM | 設計、開発、破棄などの、製品の扱いや流れを一元管理するシステム |
基幹システム
シフト管理や生産計画の立案など、製造の基盤を整えるためのシステムです。効率の良い製造をするためには、ただ作業機械を自動化すれば良いわけではありません。設備を最適な状態に保ったり、過不足がないよう在庫管理をしたりなども必要となってきます。
また、いくら製造全体を自動化するといっても、人による管理や操作は必要です。それらの環境を整えることも、FAには必要となります。
システムの略称 | 説明 |
---|---|
ERP | 企業の経営資源を一元管理し、企業全体を管理するシステム |
MES | 在庫状況や工程進捗などをリアルタイムに管理し、指示出しするシステム |
MRP | 生産計画を作成・修正し、MESへと伝えるシステム |
社外関係者管理システム
顧客との取引など、社外で活用されるシステムです。一見するとFAとは関係ないように思われますが、マーケティング情報を生産計画に入れたり、製造状況に合わせて原材料を注文したりなど、間接的にFAに関わってきます。
システムの略称 | 説明 |
---|---|
CRM | 顧客との関係を一元管理するシステム |
SCM | 原材料の調達から商品陳列までの流れを管理するシステム |
スマートファクトリーとの関係
工場のFA化は、スマートファクトリー化に大きく関わってきます。FAについて知るだけではなく、スマートファクトリーについても知っておきましょう。
スマートファクトリーとは?
スマートファクトリーとは、生産設備をネットワークで連結させ、工場全体を見える化する仕組みのことです。工程の進捗、在庫状況、納期、作業員のシフトなど、すべての情報を管理・分析することで、最も効果的な生産方法を導き出します。それにより、生産性を向上させるだけではなく、作業員の安全確保や作業負担の軽減も目指せます。
FAとの違いは、手段と目的との違いです。FAは製造工程を自動化することに対して、スマートファクトリーは工場全体の効率化を目指します。大まかに関係性をまとめると、「FA化を進めることでスマートファクトリー化が実現される」といった感じになります。
FA化を目指すのはもちろん、将来的にはスマートファクトリーを目指すことが、今後は重要になってきます。
「スマートファクトリー」について聞いたことはありますか?第四次産業革命を目指した取り組みであり、将来的にはほとんどの企業がスマートファクトリー化すると考えられています。 国内はもちろん、世界各国でもスマートファクトリーに対する[…]
世界の流れはFA化の推進
FA化の波は、日本だけではなく世界でも浸透しています。特に有名なのは、ドイツの「インダストリー4.0」についてです。「第4次産業革命」といった意味合いをもち、スマートファクトリーを中心とした改革をすることで、人の指示を必要としない新しい生産の形を目指しています。
また、中国の「中国製造2025」、アメリカの「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」といったように、「インダストリー4.0」に似た政策は世界各国で実施されているといえるでしょう。
日本では、スマートファクトリーを目指す方針として、「コネクテッド インダストリーズ(Connected Industries)」が推進されています。その一環として製造プラットフォームの連結化が取り組まれており、他社工場と連結することで、より効率的な生産が可能となります。
デジタル技術は年々進化しており、今後も様々な技術が発表されることが予想されます。それに伴いFA化の波も浸透し、取り残されないための対応が必要とされるのです。
まとめ:工場の自動化は世界の流れになっている
工場をFA化することは、QCDを向上させることにつながります。QCDとは、「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」の頭文字をとった言葉であり、顧客満足度を高めるために必要な要素です。多品種少生産が望まれる近年において、FA化は欠かすことはできません。
ただ、FA化には初期費用やデジタル人材などの事前準備が必要とされます。考えなしにFAを目指しても、十分な効果は得られず、逆に企業の首を絞める結果にもなるため注意が必要です。
FAはもちろん、スマートファクトリー化への移行は世界中で取り組まれています。世界の流れに取り残されないためにも、FA化への取り組みを進めてみてください。