「労働生産性」という言葉を聞いたことはありますか。大まかに説明すると、「コストに対する成果」を示す指標の事であり、労働生産性が良ければ、それだけ、低コストでより多くの成果が出せたことを意味します。
ローコストハイリターンの考えは、製造業はもちろん、どの業界でも必要な考えです。より企業の利益とするためにも、労働生産性について知っておく必要があるでしょう。
労働生産性とはどのような指標なのか。国内製造業における労働生産性の水準や、向上によるメリットなどを紹介します。
労働生産性とは?
労働生産性とは、「費やした資源に対して、どれだけ結果が生じたか」を表す指標のことです。「導入したコストに対しての成果」ともいえるでしょう。
資源には、作業人数、労働時間、使用機器の台数など、評価対象が当てられます。「就業者1人当たりの労働生産性」「時間当たりの労働生産性」といったように、対象別に結果(売上、付加価値、利益など)を評価するわけです。
労働生産性の計算方法は、「成果(生産量) / 労働投入量(資源)」で計算可能です。数値が多いほど、労働生産性が良いといえます。
そして、労働生産性を良くするためには、作業員のスキルアップなどによる「労働投入量の削減」が重要となってきます。
さらに、「労働生産性」は「ISO22400」での「生産性」カテゴリにおける1つの指標にもなっており、製造業の生産管理における標準化という点でも重要といえる要素です。
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製造業における労働生産性の現状
日本は、世界でも有数の「ものづくり大国」です。国内総生産を示すGDPは、アメリカ、中国に続く第3位であり、それに伴い、労働生産性も高いと思うかもしれません。
ですが、実際には日本の労働生産性は、世界的に見ると低いといわれています。国内製造業における労働生産性の現状を知るためにも、海外の製造業の労働生産性を知っておく必要があるでしょう。
海外の製造業の労働生産性
公益財団法人である「日本生産性本部」が発表した調査によると、OECD加盟38カ国中、最も高いのはアイルランドで、OECDの平均水準と比較して、約2倍の数値を誇ります。
他にも、ルクセンブルク、ノルウェー、スイス、ベルギーなど、北欧国家で高い傾向があります。
また、上位国の順位にあまり変動がないのも特徴の一つです。1位であるアイルランドを筆頭に、スイス、デンマーク、米国、ベルギーなどが、毎年上位を占めています。2005年ごろから大きな変化はなく、今後も同じ順位が続くと思われます。
日本の製造業の労働生産性
世界的に比較すると、日本の労働生産性は低い傾向にあります。「時間当たり労働生産性」では、38カ国中27位。「1人当たり労働生産性」では、38カ国中29位と、どちらも半分以下の順位です。「製造業の労働生産性水準」で見た場合でも、38カ国中18位と、それでも約半分の順位となります。
この「製造業の労働生産性水準」は、始めから順位が低かったわけではありません。2000年に調査した時点では、アイルランドを抜いて、38カ国中1位を記録していました。ですが、2005年には9位。2015年には17位と段々と下落し、2020年時点では18位となってしまっています。
2020年の調査結果で比較した場合、日本の労働生産性は米国の6割弱。1位のアイルランドと比較すると1.6割ほどの労働生産性しかありません。
2000年には1位だったことを踏まえると、日本の製造業の労働生産性は改善の余地があるのかもしれません。
日本の製造業の労働生産性が低い要因
なぜ、2000年の1位から、18位まで下落してしまったのか。製造業の労働生産性が低い要因について考えてみましょう。
残業ありきという習慣による長時間労働
一つ目の要因は、残業によって労働時間が増加していることです。「労働量(労働時間)」で労働生産性を見た場合、母数である労働量が多いほど、労働生産性は低くなります。
日本は残業を当たり前に採用していますが、それによって、労働生産性を大きく下げているのです。海外の働き方と比べても「日本人は働きすぎ」とよく言われるほどです。
また、「残業ありき」の考えも、労働生産性を下げる要因となります。「どうせ今日も残業」といった考えがあることで、「定時までに終わらせる」といった意識が薄くなり、結果として効率を上げることをしなくなり、さらに残業時間が増えるといった負のスパイラルにおちいってしまいます。
たとえ定時までに仕事を終えても、「残業の人がいると、遠慮して定時で帰れない」といったプレッシャーや共感意識も、日本人にはよく見られます。
労働生産性の向上を目指すためには、個人の技術向上や意識変革だけではなく、「早く帰れるようにする」ための、企業全体における働き方改革が必要となってきます。
低く設定している付加価値
二つ目の要因は、成果を必要以上に低く設定しているからです。分子である「成果(付加価値)」が低いほど、労働生産性は低くなります。
GDPの順位からも予想できるように、日本の製造業の基本は「薄利多売」です。安く作ることで販売価格も安くでき、消費者が気軽に購入できるようになります。ですが、薄利多売だからこそ、製品一つ一つの付加価値は低くなり、結果として労働生産性が低下しているのです。
不景気が続く近年において、薄利多売の考えは決して悪いわけではありません。ですが、より企業の利益を出すためには、付加価値を与え、高く売る考えも必要となります。
ただ、薄利多売ができたのは「大量生産の時代」だからこそともいえます。大量生産から多品種少量生産へシフトしている近年において、薄利多売の考えを残して付加価値を付けずにいると、労働生産性が上がらないままとなってしまいます。
そのためには多様化するニーズに応える付加価値を見つけだし、労働投入量(分母)を「減らす」のではなく、成果(分子)を「増やす」意識が必要です。
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遅れているIT化、デジタル化
三つ目の要因は、国内のデジタル化が遅れていることです。アナログ作業が多いことから労働時間や労働人数が増加し、母数である労働投入量が増加します。
近年、世界ではデジタル化へ向けた取り組みが進められており、日本でもデジタル化を目指した様々な政策が打ち出されています。
ですが、実際にはデジタル化への移行は上手くいっておらず、デジタル化が急がれているのが現状です。
2021年に総務省が発表した内容によると、デジタル競争力ランキングで、日本は63か国中27位だそうです。順位としては中央に位置しますが、日本を「ものづくり大国」や先進国の一つとして見ると、決して良い順位とはいえません。
労働生産性の向上を目指すためにも、デジタル化による工場の自動化が望まれます。
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労働生産性を向上させる3つのメリット
労働生産性が高い方が良いのは分かりますが、高いと「なぜ良いのか」分からない人は多いと思います。
労働生産性を向上させると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
コストの削減
一つ目のメリットは、コストの削減につながることです。「1人当たり労働生産性」を高めることで、単純に残業代や電気代を削減できます。
同じ量を生産するにしても、時間当たりの生産性が良くなれば、必然と作業時間が短く済みます。定時に終わることから、残業も必要なくなるということです。
コスト削減によって別の部分に力を入れられ、付加価値についても、追求できるようになるでしょう。
人手不足の解消
二つ目のメリットは、人材不足の解消にもつながることです。「1人当たり労働生産性」を高めることで、同じ人数でもより多くの成果を出せます。
1人分の作業時間が短縮されれば、別の作業にも着手できます。それによって、少人数でも業務が回せるようになり、ひいては、人が足りない状況の改善につながるわけです。
近年は、少子高齢化などの影響により、人材不足が深刻化しています。業務が十全に回せないことから、業務縮小を余儀なくされる事例も珍しくはありません。
労働生産性を高められれば、1人が1つの作業を完了する時間が短くなり、より多くの作業を1人が対応することができるため、人材不足を解消の一助となり得ます。
ワーク・ライフ・バランスの改善
三つ目のメリットは、労働環境が改善されることです。「コストの削減」でも触れましたが、残業や休日出勤がなくなることで、作業員はプライベートな時間を持てるようになります。
極端な話ですが、労働生産性を高めて会社の利益が向上すると、支給できる給料は維持したまま、働く時間や日数を減らし、プライベートな時間を確保することもできるかもしれません。
作業員の負担が減ることは働き方改革にもつながります。ひいては、離職者の減少にもなり、人材不足の解消にもつながってくるでしょう。
他にも、労働生産性の対策としてデジタル化が進めば、重量物の運搬業務、危険な場所での作業、面倒な入力作業などもなくせます。
労働生産性の向上は、企業にとってだけではなく、作業員にとっても、良い影響を与えるのです。
まとめ:労働生産性を向上させてさまざまなメリットを得る
労働生産性は、企業の生産性を示す指標の一つです。「労働人数」や「労働時間」などを基準に、「どの程度の成果を出せたか」を評価します。
労働生産性が向上すれば、それに伴い、コスト削減や人材不足の解消につながります。さらに、残業や休日出勤が減ることで作業員への負担も減るなど、働き方改革にも関係してくるでしょう。
世界と比べ、日本の労働生産性は低いのが現状です。そして、要因の一つとして「アナログ作業によって作業効率が悪く、仕事が終わらないことで残業が常習化している」ことが考えられます。
生産性や作業効率の向上を目指すためにも、工場のデジタル化などの労働生産性を意識した取り組みを、実施してみてください。