
製造業においては、近年の人手不足や生産性の課題を背景に、作業の自動化が急速に進んでいます。その中でも注目されているのが、製造工程を機械やデジタル技術で自動化する「ファクトリーオートメーション(FA)」です。
多くの企業がデジタル社会への適応を目指し、このFAに取り組み始めています。
しかし、すべて自動化することは必ずしも良いことばかりではありません。企業によっては自動化が合わず、導入がデメリットになる場合もあります。
ファクトリーオートメーションが企業の負担とならないためにも、ファクトリーオートメーションについてよく知っておく必要があるでしょう。
ファクトリーオートメーションのメリットやデメリット、導入のポイントなどを紹介します。
ファクトリーオートメーション(FA)とは?

ファクトリーオートメーションとは、製造工程を自動化する仕組みのことです。製造では、加工・組立・検査・搬送などさまざまな工程を経て製品が作られますが、それら全ての工程を、AIを始めとしたデジタル技術によって行ないます。
近年は、労働人口の減少から人手不足が問題となっています。人手が足りないことで生産数が落ちるだけではなく、作業が雑になることで品質も低下してしまうのです。
もちろん、各企業は人材確保のためにさまざまな対策を取っていますが、労働人口が少ないことからうまくいっていないのが現実です。
そこで注目されるのが、機械で製造を行なうファクトリーオートメーションです。労働力を機械が肩代わりすることで、人手不足の問題を解消できます。
ほかにも、機械が作業をすることで効率が上がり、コストやエネルギー消費を抑えられるとしてSDGsの観点からも注目されているなど、多くの企業がファクトリーオートメーションに期待しています。
FA導入で得られる4つのメリット
ファクトリーオートメーション化することで、以下のようなメリットがあります。
生産性の向上
ファクトリーオートメーションが実現すれば、製造時間を伸ばすことが可能です。人が作業をすると体力や労働基準法などの理由から作業できる時間が限られてしまいますが、機械が作業をすれば、休憩を挟まず生産を続けられます。
24時間続けて稼働させることも可能であり、結果として、生産性を上げることにつながるでしょう。
品質の安定・ばらつきの削減
品質の安定化も、ファクトリーオートメーションによるメリットの一つです。人が作業をするとスキルや体調によって品質に差ができてしまいますが、システムによって制御された機械なら、製品ごとに品質がばらつくことはありません。
IoTやセンサーによってリアルタイムに生産ラインを監視することも可能であり、品質に異常が生じた際も、すぐに知らせが届き対処ができるでしょう。
製品の品質は、企業の信用に影響する重要な要素の一つです。顧客ニーズを満たすためにも、品質の安定化は必要といえます。
労働力不足への対応
近年問題となる人手不足も、自動化によって対応が可能です。足りない労働力は機械でカバーができ、少人数でも問題なく生産が行なえます。
また、労働力不足の解消は、作業者の安全確保にもつながります。労働力が足りれば、無理な作業をする必要がなくなるからです。重量物の搬送や高所での作業といった危険な工程もすべて機械に任せ、安全第一に仕事ができます。
コスト削減
製造を自動化することは、作業を楽にするだけではなくコストも削減します。少人数で生産を行なえば人件費の節約になりますし、新人を育てるための教育費も減らせるからです。
また、製造の自動化により、生産効率も良くなります。効率化が進むことでエネルギー効率も良くなり、電気代や燃料代を減らせるでしょう。
ほかにも、不良品の発生が減ることで資材の消費を抑えられるなど、出費を抑えることで企業の利益となります。
FA導入で注意すべき4つのデメリット・課題とは?
一見すると便利に思えるファクトリーオートメーションですが、導入によるデメリットも存在します。
導入が企業の負担とならないためにも、自動化によるリスクを知っておいてください。
初期投資コストが高い
工場全体の自動化には、多くの場合まとまった初期投資が必要です。費用は規模・対象工程・新設か既設か・安全規格・カスタマイズの度合いなどで大きく変動します。
設備費に加え、設計・据付・システム統合・教育・試運転、切替時の生産停止リスクといった間接コストも考慮が必要です。
資金面の負担を抑えるには、段階的な導入や部分自動化から始める選択が有効です。まずは個々の工程・設備単位で進め、見積りや試行導入(PoC)で効果と費用を確認しながら拡張していくのが現実的です。
また、工事や作業員への指導など、移行するための準備も必要となります。生産を止めずに移行させる意味でも、段階を踏むことは重要です。
柔軟性の低下
製造を自動化させることは、同時に製造の柔軟性を低下させる要因にもなります。工程がすべて機械制御されているため、臨機応変に変更することができないからです。
もちろん、設定を変えれば対応ができますが、そのためにはエンジニアを呼ぶ必要があり、手間と時間がかかってしまうでしょう。
設定を変更する必要のない少品種大量生産には向いていますが、オーダーメイドのような柔軟な対応が必要な生産には、製造の自動化はあまり向いていないといえます。
そのため、工場の自動化を目指す場合は、自社の生産形態に合わせることが大切です。「基礎となる部分は自動化し、細かな変更点は人の手で行なう」といったように、工程や目的に合わせて使い分けると効率よく生産が行なえます。
システムトラブル・停止リスク
システムトラブルも、ファクトリーオートメーションにおけるデメリットの一つです。システムトラブルが生じることで機械が止まってしまい、その間は生産も止まってしまいます。
機械に依存した生産だからこそ、機械トラブルによる影響はより大きくなるといえるでしょう。
また、システムトラブルへの対策として、デジタル人材の育成も必要です。システムが停止するたびに修理を外注するようでは、手間とコストがかかります。
専門的に対応できる人材を育成するのはもちろん、それ以外の作業員についても、ある程度の教育が必要となるでしょう。
デジタル人材の確保が難しい
FAの導入・運用には、機械設備だけでなく、システム設計やデータ管理、トラブル対応などに対応できるデジタルスキルを持つ人材が欠かせません。
しかし、製造業ではこうした人材の確保が難しく、特に中小企業では採用や育成の面で課題が残ります。
新しい技術を導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ十分な効果は得られません。
そのため、FA導入と同時に人材育成の計画を立てることが重要です。外部の専門家と連携したり、社内で段階的にスキルを習得する仕組みを整えるなど、長期的な視点での取り組みが求められます。
FA導入を成功させるためのポイント4選
ファクトリーオートメーションは、考えなしに導入しても企業の負担となる可能性があります。コスト面の負担はもちろん、生産形態が変更されることで現場も混乱してしまうでしょう。場合によっては、生産性が向上するどころか、逆に生産性を落とす結果にもなりかねません。
では、導入を成功させるためにはどうすればいいのでしょうか?成功させるためのポイントについて紹介します。
自動化の目的を明確にする
ファクトリーオートメーションを導入する際は、自動化する目的を明確にしてください。なんとなくで導入を目指しても、劇的な効果を実感できません。
もちろん、自動化によって一定の効果は期待できますが、効果的な導入ができていないため、影響を実感しにくいです。膨大なコストがかかるばかりで、費用対効果が低いと感じるでしょう。
中には、導入が必要ない製造現場もあります。「導入してよかった」と思えるようにするためにも、目的を持って導入を進めてみてください。
小規模から段階的に導入する
ファクトリーオートメーションの導入は、段階的に行なってください。デメリットの項目でも触れたように、まとめて導入をしてしまうと、環境の変化に対応できず現場を混乱させてしまいます。
工事中は生産が止まってしまうほか、導入のコストも膨大です。企業によっては、導入によって経営困難になってしまうでしょう。
作業員や企業への負担を最小限にするためにも、スモールスタートで様子を見ながら導入を進めてください。
人と機械の協働を考える
闇雲に自動化を目指すのではなく、人との協働も意識してみてください。自動化は便利ではありますが、特定の製造しかできず柔軟性に欠けます。オーダーメイドのような柔軟性が必要な製造の場合は、人が作業をした方が効率が良いといえるでしょう。
部分的に自動化をするなど、効率よく製造ができるよう導入する範囲を検討してみてください。
データ活用による最適化
導入を検討する際は、データも参考にするといいです。生産数や事故件数など、各種データを参考にすることで、自動化が必要となる部分が見えてきます。
また、収集したデータを基にシミュレーションも行ないます。デジタルツインなどのソフトを使えば、自動化によってどのように製造に変化が生じるのかが事前にわかります。
さまざまな可能性を検討することにより、導入してからの「こんなはずでは」を減らすことができるでしょう。
導入で失敗しないためにも、まずはデータ収集から始めてみてください。
まとめ:ファクトリーオートメーションは「人と機械の協働」が鍵
ファクトリーオートメーション(FA)とは、製造工程の一部または全部を自動化する仕組みです。効率的に製造が行なえるだけではなく、作業員の負担軽減やコスト削減など、自動化によってさまざまなメリットが生じます。
しかし、考えなしの導入は、自社の負担となりかねません。膨大な初期コストやデジタル人材の育成など、さまざまな課題を解決する必要があります。
ファクトリーオートメーションで大切なのは“人と機械の協働”です。いわゆる“完全自動化”は、特定の工程や条件で有効となり得る選択肢の一つですが、常に最適解とは限りません。
オーダーメイドのように、人の手による製造が必要な場合もあります。導入する目的や導入による効果などをよく検討し、意味のあるファクトリーオートメーションを目指してみてください。



