デジタルツインとサイバーフィジカルシステムの違いについて知っていますか?どちらも「サイバー空間にモノを作成しシミュレーションするシステム」なのは同じですが、全く同じシステムなわけではありません。
それぞれの違いを知らないと、いざ使う際に、どちらを使えば良いのか迷ってしまいます。適さない方を選んでしまうと、結果も望んだものにはならないでしょう。
デジタルツインとサイバーフィジカルシステムは何が違うのか。製造業での活用例も合わせて紹介します。
デジタルツインとサイバーフィジカルシステムの違い
そもそもデジタルツインとはどのようなモノなのでしょうか?似たような仕組みにサイバーフィジカルシステムといったものもあり、違いが気になります。
デジタルツインとサイバーフィジカルシステムについて紹介します。
デジタルツインとは?
デジタルツインとは、フィジカル空間(現実世界)の物質をサイバー空間(仮想世界)に再現するシステムのことです。フィジカル空間の情報を入力することで、その情報をもとにサイバー空間へと出力します。
スカイツリーや東京ドームといったフィジカル空間の建造物も、デジタルツインによってサイバー空間へ再現可能です。現実の情報をもとに再現されるため、サイズや重量といったフィジカルデータを寸分違わず再現します。
サイバー空間内の出来事なら、何をしても問題ありません。そのことから、現実では難しいシミュレーションをする方法として、デジタルツインは活用されています。
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サイバーフィジカルシステムとは?
サイバーフィジカルシステム(以下CPS)とは、収集したデータをもとに、サイバー空間へ出力するシステムのことです。loTによって外部から情報を収集するだけではなく、社内のデータをもとに試作品や建造物のモデリングも可能にします。
再現したデジタルデータは、デジタルツイン同様にシミュレーションへ活用可能です。シミュレーションした結果からさらに分析し、より精密性の高い様々な結果を導き出せます。
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2つの違いは「目的の違い」
デジタルツインとCPSの違いは、目的の違いです。デジタルツインは、サイバー空間にフィジカル空間の物質を構築しシミュレーションするのに対して、CPSは、シミュレーションした結果を分析するサイクルを目的とします。
CPSもデジタルツイン同様にフィジカル空間の物質を構築してシミュレーションしますが、あくまでもシミュレーションに必要なだけであって、本質は結果をフィジカル空間にフィードバックすることです。フィードバックした内容を分析することにより、今後の展開などを知ることができます。
主な活用例としては、デジタルツインによってシミュレーションをし、CPSによってその結果を分析します。大まかにくくってしまうと、CPSの流れの中に、デジタルツインによるシミュレーションが組み込まれているといえるでしょう。
CPSの予想をするためにはデジタルツインを活用した物理モデルが必要であり、デジタルツインの結果を分析し活用するためにはCPSによるシステムが必要となってきます。
両システムを上手く活用することで、より精密なシミュレーション結果を得ることができるわけです。
CPSが今注目される理由
CPSが近年注目される理由は、デジタル技術が発展しているからです。様々な事がデジタルで処理できるようになったことで、CPSも活用されるようになります。
昔は、loTなどが発展しておらず、情報の収集方法が限られていました。精密な物理モデルを扱う技術がなかったのもありますが、入力が大変な事から、実際に試作する方がシミュレーションしやすかったのです。
ですが、近年ではloTも普及し、情報収集が楽になりました。便利で精度の高いサポートシステムも使われるようになり、デジタル技術が主流となってきています。
国からはデジタル化を推進させる政策も発表されており、今後はさらにデジタル技術が必要とされてくるでしょう。時代の成長に合わせるため、シミュレーションの方法も変わって来ているのです。
また、コスト削減や作業の効率化目的でも、CPSは注目されています。実際に試作してシミュレーションをしていては、コストと時間のムダです。近年は、顧客ニーズの多様化によって迅速な対応が求められており、昔ながらの方法では流行に乗り遅れてしまうでしょう。
時代の流れに合わせ対応するためにも、サーバー空間内だけで済ませられるCPSが必要とされます。
製造業におけるCPSの一連のサイクル
CPSをより理解するためにも、CPSがどのようにシミュレーションするのか、確認してみましょう。
IoTを活用したフィジカルデータの収集
まず始めに、IoTを活用してのフィジカルデータ収集です。センサーやCADデータといった様々な情報を収集し、クラウド上のサイバー空間に保存します。
また、CPSの説明でも触れたように、社内データから収集する場合もあります。必要なら、営業部門や搬送部門といった他部門のデータや過去のデータも参照することで、シミュレーションに必要な情報を揃えていくのです。
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収集したデータを活用してシミュレーション
必要なデータを収集したら、次はデータをもとにした出力です。その際、サイバー空間にフィジカル空間の物質を再現するのがデジタルツインの働きとなります。
出力後は、作成したデータを活用して、様々なシミュレーションを行います。そして、その結果をフィジカル空間にフィードバックすることで、一連のサイクルが完了するわけです。
また、同じ物理モデルを活用し、別のシミュレーションをすることも可能です。シミュレーションはすべてデジタルデータから構成されますので、シミュレーションした直後でも、すぐに再現できます。
データの値を変更してシミュレーションすることも可能であり、いろいろな可能性が試せるでしょう。
製造業でのCPSの活用例
実際に、どのようにCPSがどのように活用されているのか。活用例をいくつか紹介します。
- スマート工場
- 新規製造ラインの人員や製品の配置の最適化
- シミュレーションで未来を予測
スマート工場
スマート工場(スマートファクトリー)とは、工場のデジタル化によって、生産性や品質の向上を目指す仕組みのことです。リモート操作や自動操作なども可能なことから、新しい働き方として注目されています。
CPSは、そんなスマート工場の実現をサポートします。工場全体をサイバー空間に再現することで、作業の流れをシミュレーションできるのです。
loTによって常に情報を更新し続ければ、実際に生じている製造の流れを、リアルタイムで把握もできます。
それにより、ボトルネックを始めとした問題点の発見につながり、効率の良い製造計画を作れるようになります。
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新規製造ラインの人員や製品の配置の最適化
CPSを活用することで、効率の良い人材や設備の配置も可能となります。現実では規模が大きく全体が把握できない工場の配置も、サイバー空間に再現して縮小すれば、全体を客観的に見ることができるのです。
全体を俯瞰視点で把握することにより、現場では分からなかった問題も、気がつけるようになるでしょう。
また、無人搬送車(AGV)のラインを決める際にもCPSの活用は効果的です。ファミリーレストランで食事を運ぶロボットのように、工場内でも無人で輸送するロボットは活用されています。
ですが、移動のラインを決めるのは意外と難しいです。他の要素との兼ね合いを考えないと、ロボットによる衝突や転倒事故が発生してしまうでしょう。
そのような問題も、CPSを活用すれば、様々なルートをシミュレーションし最適なルートを導き出せます。客観的に把握することで他の要素との兼ね合いもしやすく、オペレーション設計の大幅な時間短縮になるのです。
他にも、新規ライン作成の際に、設備や人員の配置をシミュレーションして最適化を図るなど、様々な形でCPSは応用可能です。
シミュレーションで未来を予測
CPSによって、未来の結果を予測することも可能です。現在の状況に過去の作業履歴などを照らし合わせることで、今後起こりうる可能性を予測します。
「何時間稼働させることで機械が故障する」といったことが事前に分かるようになり、故障する前に対処することで、未来の停止を回避し生産性の低下を防ぐことができます。
他にも、「製品の切り替えにどのくらいかかる」「ボトルネックはどの程度発生する」といった内容も予測ができ、スケジュールの乱れを防ぐ事もできるでしょう。
もちろん、あくまでも予測であり、絶対ではありません。それでも、予測の可能性は高く、知ることで未然に防ぐことができます。ある企業では、従来の約18%も生産性が向上したといった報告もあり、CRSの信用性は高いです。
未来の問題を回避するためにも、CPSは活用されています。
まとめ:サイバー空間をフィジカル空間を活用する
デジタルツインとCPSは、どちらもフィジカル空間をサイバー空間に作り出すためのシステムです。サイバー空間内に再現したデジタルモデルを活用することで、様々なシミュレーションに活用できます。
大まかな違いは、フィードバックの有無です。デジタルツインには、フィジカル空間へのフィードバック機能はなく、分析までとなります。もちろん、分析した結果を人間が読み取ることでフィードバックはできますが、CPSを活用すれば人間を介さず活用が可能です。
基本的にはセットで活用されることが多いですが、それぞれ特徴は違いますので覚えておくと良いでしょう。
デジタルツインやCPS以外にも、様々なデジタル技術が存在します。デジタル社会となりつつあることで、活用する機会も増えていくでしょう。製造をより便利で効率よく行っていくためにも、各デジタル技術について知っておいてください。