近年様々な業界から注目されるloT技術。企業はもちろん、近年では一般家庭でも見かける、身近なデジタル技術の一つです。
製造業でも、loTは活用されています。特に、製造に特化したloTのことを「インダストリアルIoT」と呼び、DXやスマートファクトリーの実現に、必要不可欠な技術といえるでしょう。
インダストリアルIoT(IIoT)とは、どのような技術なのか。一般的なloTとの違いや、導入によるメリットなどを紹介します。
インダストリアルIoT(IIoT)ってどんなもの?
インダストリアルIoT(以下:IIoT)を説明する前に、そもそもloTとはどのような技術なのでしょうか?IIoTとの違いも含めて確認してみましょう。
IoTとは?モノのインターネット
IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノをインターネットでつなぐ考えのことです。パソコン(デバイス)同士はもちろん、センサー、カメラ、製造機器、人員、他企業など、様々なモノとつながることで、新しい可能性や価値観などを生み出します。
「センサーやカメラで得た情報を、リアルタイムでタブレットへ送信し利用者に知らせる」といったように、loTを活用すれば、遠く離れた情報もリアルタイムで知ることができるのです。
身近な例としては、「ペット用の留守番カメラ」や「外出先からのお風呂の追い炊き」などが挙げられ、最も身近にあるデジタル技術の一つともいえるでしょう。
情報化社会が進む近年。様々なモノがネットワークでつながるようになりました。スマートフォンやパソコンはもちろん、SNSによって人ともつながり、インターネットは今では欠かせない技術と言えるでしょう。 loTは、そんなインターネット[…]
IIoTとは?製造業向けのIoT
IIoT(Industrial Internet of Things)とは、工業用(Industrial)に特化したloTのことです。仕組み自体は一般的なloTと変わりませんが、大規模な製造環境でも耐えられるよう、安全性や制御レベルなどが強化されています。
「24時間稼働の異常検知センサー」や「工場全体のデータ送受信」などに活用され、作業の効率化や自動化が目指されています。
IoTとの違いは特化するための条件の違い
IoTとの違いは、工業用に特化しているかどうかです。製造・輸送・物流といった現場での作業に対応するためには、以下の条件を必要とします。
- 常時稼働
- エラーやトラブルに対応できる堅牢性
- 安定性
- アクセスレベルの制御
- 通信ネットワークの維持に必要なネットワーク帯域幅
工場では、常に設備が稼働しています。そのため、常時稼働してもエラーが発生しないような、強固な堅牢性と安定性が求められます。
また、重要な機密も多いため、アクセスできる人も制限する必要があるでしょう。
そして、それら大規模な通信ネットワークを維持するための、十分なネットワーク帯域が必要です。
産業用として活用するなら上記の条件が最低限必要であり、loTと異なる条件となります。
IIoTの導入に必要な条件
IIoTを導入するためには、「IoTとの違い」で紹介した条件を満たす必要があります。中でも、「通信ネットワークの維持に必要なネットワーク帯域幅」は、IIoTを導入するために必要不可欠な要素です。
ネットワークが古いままだと、lIoTの負荷に耐え切れずリアルタイムな情報処理は行えません。最低限な課題として、IIoTを扱うための通信環境を要求します。
また、それに伴い、セキュリティ対策も必要です。IIoTでは、ネットワークで外部とつながるため、不正アクセスされるリスクがあります。大切なデータを守るためにも、強固なセキュリティプログラムが必要となるでしょう。
そして、それらを扱うためには、デジタル人材も必要になってきます。導入するだけでなら専門企業に任せることもできますが、それだけでは、トラブルが生じても対処ができず、十分に活用できているとはいえません。
他にも、導入費用の問題などもありますが、まずは「ネットワークの課題」「セキュリティの課題」「デジタル人材の課題」を解決することが、IIoTの導入に必要な条件となります。
IIoT化が実現可能なこと・メリット
IIoTが導入されることで、どのようなことが可能になるのでしょうか?導入によるメリットをいくつか紹介します。
- 業務の効率化・品質の向上
- 製造現場の事故を未然に防止
- サプライチェーンの最適化
業務の効率化・品質の向上
一つ目は、業務の効率化です。アナログ管理がデジタル管理になることで、作業時間が短縮されます。自動化によって作業員の手も空き、他の作業に取り組めることで、生産性の向上にも期待できるでしょう。
また、センサーによって製造を監視することで、トラブルにも迅速に対処できます。万が一に不良品が発生しても、すぐにセンサーが検知し、設備停止などをすることで不良品を次の工程に流しません。記録から原因究明もしやすく、不良品の発生を防ぐことで、製品の品質を保ちます。
他にも、「他部署との情報共有を円滑にすることによる効率化」や、「在庫状況を管理することで品質の劣化を防ぐ」など、様々な形で製造業務をサポートしてくれます。
製造現場の事故を未然に防止
二つ目は、事故やトラブルの予防です。記録から状況を分析し、事故やトラブルが生じる前に対処ができるようになります。
例えば、設備の経年劣化についてです。導入された時期や稼働時間、過去のデータなどから計算して、設備の損耗具合を予想します。そして、故障しそうならメンテナンスを要求することで、設備が故障するのを事前に防ぐのです。
設備が故障すると、修理するまで時間がかかり、稼働できないことから生産性を下げてしまいます。修理コストもかかり、利益率の低下は免れません。さらには、故障によって作業員が怪我をする可能性もあり、設備の故障によって甚大な被害が生じてしまうでしょう。
そのような事態を防ぐためにも、事前に問題を検知し、対策を取る必要があります。
他にも、「異常な数値や音を検知することで事故を予防」したり、「温度や酸素濃度を測定することで産業災害を予防」したりなど、IIoTの導入は品質と人命を守るために役立ちます。
サプライチェーンの最適化
三つ目は、サプライチェーンの最適化です。サプライチェーンが見える化することで、製品管理や追跡がしやすくなります。
サプライチェーンとは、製品が消費者に届くまでの一連の流れのことを指します。材料の調達から始まり、生産、物流、販売、購買といった流れを、すべてIIoTによって管理し記録するのです。
それにより、他業種間での情報共有がしやすくなります。「部品が足りないから調達してほしい」「製品を来月までに50個用意してほしい」といった情報共有が、リアルタイムに行えます。
また、購買時に不良品が見つかった場合は、記録をたどることで原因究明も可能です。製造ロットから販売店を検出し、自主回収もしやすくなるでしょう。
他にも、「余剰在庫から生産数を決定」したり、「生産状況や購買記録から見込み生産を予想」したりなど、様々な形でサプライチェーンが最適化されます。
IIoTに関連する技術
IIoTには、主に以下の技術が関係してきます。IIoTをより理解するためにも、それらのデジタル技術についても知っておきましょう。
- 5G通信規格
- IIoTセンサー
- セキュリティ
- エッジコンピューティング
- AI
5G通信規格
5Gとは、次世代を担う新しい通信規格の事です。「5」とは五世代目を意味し、現在主流となっている4Gの、次の世代であることを意味します。
通信規格は、主に「容量」「通信速度」「同時接続数」の3要素をもって比較しますが、すべての要素で、5Gは4Gの約10倍の性能を誇ります。つまりは、「約10倍のデータを、約10倍の速度で、約10倍の端末に送信可能」ということです。
工場全体、さらには販売店や海外支部などとの連携を考えると、4Gよりもさらに高性能な通信規格が必要になってきます。
IIoTセンサー
IIoTセンサーとは、いわゆる監視カメラや感知センサーのことです。IIoTセンサーからの情報を集計し、分析した結果をタブレットなどに表示します。
もちろん、工場で使うことを考えるなら、市販されているような一般的なセンサーでは心もとないです。24時間対応はもちろん、熱や湿気、衝撃など、設置状況に合わせた耐久性も必要となります。
また、IIoTセンサーは種類も豊富です。温度センサー、光センサー、重量センサー、近接センサー、超音波センサー、画像判別センサーなど、目的に合わせて多種多様にあります。
IIoTセンサーがないと、現場の情報収集はままなりません。製造における事故やトラブルを防ぐためにも、状況に適したIIoTセンサーが必要です。
セキュリティ
セキュリティとは、ファイアウォールなどのデジタルセキュリティのことです。IIoTは外部サーバーとつながるようにもなるため、外部からの不正アクセスを防ぐ必要があります。
今まで、企業用のサーバーといえば、企業内だけでつながるサーバーが一般的でした。外部とはネットワークがつながっていないため、外部から不正アクセスをされる心配はなかったわけです。
ですが、IIoTによって外部サーバーともつながるようになります。それに伴い、不正アクセスも可能にしてしまうのです。
不正アクセスをされると、情報の流出やデータ書換、さらには、データ暗号化を解除させるための身代金要求などをされてしまいます。どの不正アクセスも企業の信用と資産を損ねる被害となるため、絶対に防ぐ必要があるでしょう。
今まで内部サーバーだったことから、IIoTへと切り替えた際に、セキュリティについて失念する企業も少なくありません。IIoTの導入と合わせて、セキュリティ対策のできるデジタル人材の獲得も必要です。
エッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、メインサーバーとは別にサーバーを用意し、その中でデータ加工してから送信することで、データ処理の負担を軽くするネットワーク技法のひとつです。端末の近くで処理することから「エッジ処理」ともいわれています。
いくら5Gや最先端のコンピューターを活用しても、大規模なデータ処理は時間がかかります。サーバーへの負担も大きくなることで、リアルタイムでの通信は難しくなるでしょう。
そのため、あらかじめデータ処理を行うことで、データ量を軽くします。送信されるデータ量が少なければサーバーへの負担も少なくなり、リアルタイムでの通信も問題なく行えるようになるわけです。
大規模なデータを扱うIIoTだからこそ、エッジコンピューティングは必要となります。
AI
AIとは、人工知能のことです。様々な状況を学ばせることで、人間のように、機械自らが考え実施できるようにします。
IIoTの活用によってサプライチェーン全体を把握できるようになりますが、収集した情報をすべて分析するのは簡単ではありません。さらに、その分析をリアルタイムで行う必要があることを考えると、人力では到底無理な話といえるでしょう。
そこで、AIによって管理をサポートしてもらいます。膨大なデータも、AIによって分類や分析をしてもらうことで管理がしやすくなるわけです。
他にも、「生産状況から生産計画の立案」や、「設備の摩耗状態からメンテナンスを提案」といった事も、AIによって導き出せます。
IIoTの性能を十分に引き出すためにも、AIは必要不可欠な要素といえます。
製造業界では、近年、AIによる考えが広まりつつあります。機械による自動化は革新的であり、多くの企業がAIに注目しているといえます。 ですが、期待する一方で不安な点も多く、導入に踏み切れない企業も少なくはありません。「作業が効率[…]
まとめ:製造現場のモノを繋げる製造業向けのIoT
IIoTとは、産業に特化したloTのことです。一般的なloTと比較し、「常時稼働」や「堅牢性」、「安定性」などを兼ね揃えています。
導入によって業務の効率化や品質の向上が期待できるほか、サプライチェーンの最適化も実施できるでしょう。
ただ、高レベルなIoTであることで、動作させるためのネットワーク環境を有します。一般的なloTと同じ感覚で活用すると、負荷に耐え切れず、ネットワークが止まってしまいます。導入を検討するためには、デジタル人材の確保も含め、準備が必要です。
デジタル化が進む近年、自動化を統括するためにはIIoTの導入が必要不可欠となります。生産性をより良くするためにも、ぜひIIoTの導入を検討してみてください。