近年は、世界的に第5次産業革命（インダストリー5.0）への変革が提唱されています。日本でも変革が進められており、デジタル技術を取り入れた工場のDXを目指す企業も年々増えつつあります。
人手不足や生産性の向上にもつながることから、IT化が気になる企業も少なくはないでしょう。
しかし、いざDXを目指すにしても、何から手をつければ良いのかわからない企業は多いと思います。
製造業におけるIT化とはどのようなものがあるのか。IT化するメリットや取り組む際のポイントなども紹介します。
製造業がIT化することで期待できる効果
製造業をIT化することで、以下のようなメリットがあります。
生産性の向上
一つ目は、生産性が向上することです。機械の力で作業することで、人が作業するよりもたくさんの製品を製造できます。
特に影響が大きいのは、人手不足が解消されることです。例えば、生産ラインで必要な人員をAIロボットが補うことで、足りない人手をロボットやAIが補うことにより、不足なく生産が行なえるようになります。
また、システム管理によって、生産過程の効率化も行なえます。在庫管理もしっかりできていれば、過剰在庫となる心配もありません。
ほかにも、24時間働ける、ヒューマンエラーの心配がなく不良品の発生が少ない、力仕事も軽々行なえるなど、IT化によるメリットは大きく、人が作業をするよりもたくさんの成果を出すことができます。
品質の向上
二つ目は、品質が向上することです。センサーを始めとした計器類により、一定した条件の値で管理ができます。
人の目では見逃してしまうわずかな変化も、機械の目なら正確に検知ができるのです。
生産に問題が生じた際も、すぐに異常を検知することで、不良品の発生を最小限に抑えられるでしょう。
また、技術差によって品質がばらつく心配もありません。熟練者と初心者とでは同じ製品を作っても品質に違いが生じてしまいますが、機械ならすべて同じ品質で作れます。
同じ製品を安定して作り続けられるのが、機械の強みといえます。
新たなサービスの提供
三つ目は、新製品の開発やサービスの提供にも役立つことです。IoTで集めたデータを分析することで、顧客が必要とするものが予測でき、顧客ニーズに合わせた商品展開が行なえます。
近年は、グローバル化の影響により、顧客ニーズが変化しやすくなっています。市場の変化に対応するためにも、ITシステムによるサポートは欠かせません。
また、時間がかかる作業をシステムに頼ることで、事務工数を削減できます。空いた時間を「人にしかできない作業」に充てることで、さらなる商品展開につなげられるでしょう。
IT化・DX化の現状
製造業のIT化は、今後の製造業界において必要なことです。近年は世界規模でデジタル化が推奨されており、日本でもDXへの推進が進められています。
日本におけるIT化・DX化はどのようになっているのか。日本や製造業における現状を紹介します。
日本におけるIT化・DX化の現状
世界と比べると、日本のIT化・DX化は遅れているとされています。総務省が令和3年に発表した情報通信白書によると、ほとんどの業界において、約6割が「実施していない、今後も予定なし」と回答したそうです。
特に中小企業においての割合が大きく、大企業は約4割が今後も「予定なし」なのに対して、中小企業は約7割の企業が、IT化・DX化を検討していません。
大企業と中小企業におけるIT化への意識差は大きく、中小企業のIT化が進まないことには、日本全体のIT化も進まないといえるでしょう。
製造業におけるIT化・DX化の現状
製造業だけを限定して見た場合でも、IT化への移行は進んでいないといえます。総務省が令和3年に発表した情報通信白書によると、約6割の企業が「実施していない、今後も予定なし」と回答しました。
また、「実施していない、今後実施を検討」と答える企業も含めると、約7割の企業がIT化を行なっていないことが記されています。
実際にIT化ができている企業は全体の約3割ほどしかなく、製造業界の意識改革が望まれます。
製造業におけるIT化による業務改善のアイデア
ITを使った業務改善の方法として、以下のような方法が挙げられます。
IT化を行なう際の参考にしてください。
ペーパーレスの推進
最もわかりやすいIT化といえば、ペーパーレスへの移行です。社内情報をデジタル管理することも、立派なIT化といえます。
ペーパーレス化が進めば、物理的な場所の圧迫の解消やスムーズな書類検索ができるようになり、情報の管理が楽になります。クラウド上にデータを保存すれば、複数の部署で情報を共有することも可能です。
さらに、紙が不要なことでコストの削減にもなります。ゴミを減らせることから、SDGsの実施にもつながります。
クラウドサーバーの導入
クラウドサーバーを導入すれば、情報の共有が楽になります。情報を手渡しする必要がないため、リアルタイムな情報伝達が可能です。
サーバー機器も不要なため、自社サーバーを用意するよりも、導入コストを安く済ませられるでしょう。
また、大規模災害対策としても、近年注目されています。クラウドサーバーはインターネット上で管理をするため、たとえ災害によって会社に被害が生じても、データ消失を防ぐことができるからです。
別の拠点からサーバーにアクセスすることで、すぐにでも業務を再開できます。
クラウドサーバーの導入により、管理が楽になるだけではなく、万が一のリスク対策にもなります。
IoTの導入と活用
IoTを導入することで、業務全体の見える化が行なえます。センサーによって生産ライン全体を管理し、異常やトラブルが生じた場合には、すぐに知らせてくれます。
また、収集したデータを分析することで、生産計画に活かすことも可能です。稼働状況や需要予測などを照らし合わせることで、効率的に生産が行なえるでしょう。
ほかにも、リアルタイムに通信が可能なことから無人ロボットが使えたり、作業者の動きをデータ化し、ノウハウとして蓄積することもできます。
テレビ会議システムや電子黒板の導入
近年利用が広まるテレビ会議も、IT化による業務改善の一つです。オンラインで打ち合わせをすることで、働く場所を選ばず、自由な労働環境が実現します。
また、テレビ会議でなら、細かな指示も出しやすいです。電話やメールだけではわかりにくい内容も、図や写真で確認しながら説明することで、正確に伝えられるでしょう。
近年は、さまざまな業界で働き方改革が推進されており、製造業界も例外ではありません。リモートワーク環境を構築するうえで、テレビ会議システムや電子黒板の導入は重要になってきます。
文書管理・情報共有ツールによるナレッジベースの構築
ナレッジベースとは、業務データをまとめたデータベースのことです。業務データを一括管理することで、他部署との情報共有がスムーズに行なえます。
また、業務について調べることも可能であり、業務のノウハウを共有することで属人化も防げます。マニュアルとして使うことで、新人教育にも活かせるでしょう。
生産・工程管理ツールの導入
管理ツールを導入すれば、全体の流れが把握しやすくなります。進捗状況から現状を把握し、納期に間に合うようタスクを修正することが可能です。
従業員の負担を軽減することで、属人化を防ぐことにもつながります。
また、スケジュール作成が苦手な人の助けにもなります。クリック操作で簡単にガントチャートが作れるなど、作業効率を大幅に良くしてくれるでしょう。
生産管理システム導入
生産管理システムの導入により、すべての業務を一元管理できます。進捗情報や作業指示などがリアルタイムで把握でき、効率的に生産が進められます。
ほかにも、在庫状況から過剰在庫を防いだり、稼働状況から機械の故障を防いだりなど、さまざまな業務をサポート可能です。
業務の効率化を図るうえで、生産管理システムの導入は欠かせません。
製造業で業務改善に取り組むときのポイント
業務改善を成功させるためにも、以下の点に注意して取り組んでみてください。
IT化・DXの方向性を打ち出して目的の明確化
業務改善に取り組む際は、導入をする目的をしっかり決めてください。「国が推奨しているからDXを目指す」といったように、目的や改善後のイメージがあやふやだと、改善による成果が実感できません。
業務改善は、少なからず作業員への負担となります。意味のわからない改善は、作業員のモチベーションを下げる結果となるでしょう。
逆に、納得できることなら、作業員は進んで改善に取り組んでくれます。
企業が一丸となって改善に取り組めるよう、目的や方向性を明確にしてください。
現状の問題点や課題点を洗い出してギャップの把握
現状の問題点や課題点を明確にすることも大切です。問題でない部分を改善しても、十分な効果は得られません。
少ない改善で最大限の効果を得るためにも、問題や課題に沿った改善を目指しましょう。
問題点や課題点を見つけるコツとして、「ムダ・ムリ・ムラ」に着目すると良いです。生産全体を見える化し、「不要・高負荷・ばらつき」がある部分を洗い出してください。
ほかにも、品質改善に活用される「QC7つ道具」や「新QC7つ道具」なども、問題発見におすすめです。
解決策を検討・計画の立案
改善計画を立案する際は、チームで考えるようにしてください。作業員と管理者とでは見えている現場が異なるため、一人で計画をすると、的外れの立案をしてしまいます。
現場の様子は、現場で働く人しかわかりません。専門のチームを設け、しっかり話し合いましょう。
また、計画内容は、社内リソースを前提として計画をしてください。時間や導入費用など、コストを度外視した改善は、自社の負担にしかなりません。
必要なら段階的に改善を進めるなど、自社や作業員の負担とならない計画を立てましょう。
解決策に優先度をつけて「やりたいこと」と「やるべきこと」を分ける
複数改善をする場合は、解決策に優先順位をつけてください。すべてを同時に進めても、人手やコストが足りず、中途半端な改善となってしまいます。
現場への負担も大きく、通常の業務にも支障をきたしてしまうでしょう。
「やりたいこと」と「やるべきこと」に分け、「やるべきこと」から改善を始めてください。
定期的に振り返りを実施する
業務改善をしたあとも、定期的に振り返ることが大切です。結果を振り返ることで、次回の改善に活かすことができます。どの程度の効果が出たのかはもちろん、失敗についても分析し、記録として残しておきましょう。
また、定期的に見直すことで、新しい問題が見えてきます。PDCAサイクルやKPT法を実施して、より良い生産になるよう改善を目指してみてください。
業務連携や他部署とのつながりを強くする
他部署と連携する場合は、他部署との連携についても考慮してください。自部署だけIT化しても部署間の足並みが揃わず、結果として、改善の結果を出すことができません。
「情報伝達をスムーズに進めるため、自部署と他部署の両方でクラウドサーバーを採用する」といったように、他部署との連携も意識した改善を行なうことで、効率を高めることができます。
どの部署とどのように関係しているかわからない場合は、工程をフローチャートにしてまとめるなど、図式化することでイメージがしやすくなります。
まとめ：アイデアを活かしてIT化による業務改善を実現しよう
業務のIT化は、今後必要となる要素です。近年は世界的にIT化への推進がされており、
IT化を前提とした業界が作られています。特に、海外企業のIT化が目覚ましく、競合企業に負けないためにも、会社の規模を問わず、IT化が望まれるでしょう。
もちろん、会社すべてをIT化するのは簡単ではありません。膨大なコストがかかり、企業の負担となってしまいます。
そのため、IT化を目指す際は、段階的に進めることが大切です。ペーパーレスの推進やクラウドサーバーの導入は導入コストも軽く、比較的始めやすいIT化といえるでしょう。
工程管理ツールや生産管理システムを導入するだけでも、生産効率は大きく向上します。生産率に悩んでいる企業は、アイデアを参考にIT化を進めてみてください。
