近年、品質管理の考え方として「ファクトコントロール」が注目されています。
「事実(ファクト)」と「管理(コントロール)」からなる考え方であり、品質管理が重要視される製造業において、ファクトコントロールが必要とされているのです。
ファクトコントロールとはどのような管理方法なのか。ファクトコントロールの特徴や「KKD」による考えなどを紹介します。
ファクトコントロールとは?
ファクトコントロールとは、数値を基に客観的な判断で行う管理のことです。直感や経験などの要素を抜きにし、検出したデータのみで状況を判断します。
熟練者が多い作業場だと、経験で物事を進めがちです。「これくらいなら大丈夫」「こうすれば早く終わる」など、自己判断をすることも多いでしょう。
しかし、経験豊富な熟練者であっても、必ずうまくいくとは限りません。「大丈夫」と思った自己判断が、トラブルの原因となることもあります。
作業にトラブルが生じると、品質低下や労災などの問題が生じてしまいます。そのようなトラブルが生じないよう、客観的に分析をするファクトコントロールが注目されているのです。
ファクトコントロールが重要な理由
ファクトコントロールが重要とされる理由は、主に3つあります。
- 客観的な指標で説明できる
- 根本解決に結び付けられる
- 情報資産を残すことができる
客観的な指標で説明できる
一つ目は、客観的に説明できることです。初めて知る人であっても、客観的であることで理解がしやすくなります。
例えば、作業機械が故障したとします。作業者は「作業機械の内部温度が高温になり壊れた」と報告しますが、主観的な報告なため、聞く方は「何度くらいで壊れたのか」がよくわかりません。
しかし、ファクトコントロールを基に報告をすれば、「100℃を超えたから壊れた」といったことが判明します。より細かく分析すれば、「70℃から作業速度に遅れが出ている」ことも判断ができるでしょう。
人の認識は、それぞれ異なります。認識を共有し正しく現状を把握するためにも、ファクトコントロールは必要なのです。
根本解決に結び付けられる
二つ目は、根本的な問題解決ができることです。データを参考にすることで、本当に問題となる点が見えてきます。
問題解決で大切なことは、原因の基となる問題を解決することです。表面の問題だけを解決しても、根本的な問題が解決していないと、再び同じ問題が生じてしまいます。
しかし、ファクトコントロールなら、データを参照し、数値の変化から基となる原因を割り出すことが可能です。さらに、データとして残せることから、似たような問題が生じた際の参考にできます。
原因を特定するのはもちろん、その対応を再現できるようにするためにも、ファクトコントロールが必要といえるでしょう。
情報資産を残すことができる
三つ目は、情報を正しく残せることです。客観的なデータを保管することで、将来で同じようなトラブルが生じた際に、データを参考に迅速な対応ができます。
例えば、修理方法として「Aをセットして火が赤くなってから止める」と記載してあったとします。しかし、この内容だと「火がどの程度赤いと止めて良いのか」がよくわかりません。赤さは人の感覚であり、人によって止めるタイミングは異なってしまいます。
一方で「Aをセットして10分後に止める」と記載してあれば、誰が対応しても、止めるタイミングがわかります。そして、誰でも対処できるデータであることから、マニュアル化もしやすいでしょう。
熟練者による経験や直感も大切な情報ではありますが、正しく伝えられなければ、将来に活かすことはできません。
将来に残せるデータにするためにも、ファクトコントロールが必要になります。
ファクトコントロールを進める上で有効なツールや考え方
ファクトコントロールを行う上で、以下のようなツールや考えを使うとファクトコントロールがしやすくなります。
QC7つ道具
QC7つ道具とは、品質管理をサポートするためのフレームワークのことです。「パレート図」「特性要因図」「グラフ」「ヒストグラム」「散布図」「管理図」「チェックシート」の7つから構成され、それぞれ違った手法で、問題点の発見や解決をサポートします。
QC7つ道具の特徴は、数値を基に評価することです。そのため、主観による介入はほとんどありません。客観的にデータをまとめることで、信用性の高い評価をすることができます。
QC7つ道具は、現状をまとめるのにも使えます。人に説明する際に活用しやすいのはもちろん、データとして残しやすいです。
「QC7つ道具」という言葉を聞いたことはありますか?QCとは「Quality Control」の略称であり、日本語に直すと「品質管理」といった意味になります。そして、品質管理をサポートする方法として挙げられるのがQC7つ道具です。 品[…]
PDCAサイクル
PDCAサイクルとは、業務改善や品質改善を目指すフレームワークです。「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Action)」を順番に繰り返すことで、より良く変えていきます。
PDCAサイクルの特徴は、評価した内容を次回へ活かすことです。そのため、客観的に管理・評価するファクトコントロールと相性が良いといえます。
ファクトコントロールによるデータを基にPDCAサイクルを行い、PDCAサイクルの結果をファクトコントロールすることで、改善による変化を客観的に記録したデータを残すことができます。
5W1H
5W1Hとは、情報伝達をする際に考慮すべき6つの要素のことです。「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」を意識することで、相手にわかりやすく伝えることができます。
5W1Hで報告をマニュアル化することで、客観的に状況を整理した報告書が作れるでしょう。
ファクトコントロールの邪魔をするKKDとは?
KKDとは、「経験」「勘」「度胸」を基にした考えのことです。ファクトコントロールとは真逆の考えであり、管理するうえで不要な要素と思うかもしれません。
しかし、必ずしもKKDが不要になるとは限りません。KKDで対応するからこそのメリットもあります。
効果的な生産を行うためには、KKDについても理解し、状況に応じて使い分けることが大切です。
ファクトコントロールとKKDのメリット・デメリット
KKDのメリットは、判断が早いことです。データ収集や分析といった工程を無視して判断しますので、迅速に行動や対応が可能となります。
一方デメリットは、正確性の無さです。経験や勘といった主観的な要素を頼りにしますので、科学的な根拠はありません。その結果、信用性の薄い内容となってしまうでしょう。
ファクトコントロールとKKDをそれぞれまとめると、以下のようになります。
- ファクトコントロール
- メリット:客観的なデータを基に、正確な管理ができる
- デメリット:データ集めや分析などに時間がかかり、初動が遅れる
- KKD
- メリット:経験や勘を基に、新しい対応や迅速な対応ができる
- デメリット:主観的な要素を基にするため、信用性は低く、再現も難しい
ファクトコントロールとKKDは、それぞれ真逆の特徴があります。ファクトコントロールは早さの代わりに正確性を重視し、KKDは正確性の代わりに早さを重視します。
ファクトコントロールとKKDの向き不向き
ファクトコントロールは、品質管理などの安定した結果を求める作業に向いています。製品ごとに品質が変わってしまうのは問題があり、品質低下を防ぐためにも、データを基にした判断はとても重要です。
ほかにも、品質改善で細かな比較をする際も、数値による比較はとても分かりやすくなります。
一方で、問題点の抽出やアイデア出しなどは苦手です。ファクトコントロールでも可能ではありますが、データ集種や分析に時間がかかり、作業が遅れてしまいます。
作業を長く止めてしまうこともあるため、そのような場合は、KKDで的を絞り分析する方が、効率良く作業が進められるでしょう。
再現性のある安定した対応が必要な場面ではファクトコントロールが、変化が激しく迅速な対応が求められる場面ではKKDが向いています。
ファクトコントロールの具体的な進め方
ファクトコントロールの進め方を、3つに分けて紹介します。
- 必要な情報が何かを考える
- データを収集・解析して情報化する
- 情報を元に判断して方針を決める
必要な情報が何かを考える
まず始めに、必要な情報を明確にします。漠然とした状態のままデータを集めても、データをうまく活用できません。データを集めることに時間を費やし、作業の開始が遅れてしまいます。
現状から「何がわかれば対応できるのか」を予想し、関係する情報を中心にデータを集めてください。
データを収集・解析して情報化する
必要な情報が予想できたら、データを収集し分析をします。
分析する方法はいろいろありますが、QC7つ道具やPDCAサイクルを使うと分析がしやすいです。
目的に合ったフレームワークを活用し、集めた情報を整理してください。
情報を元に判断して方針を決める
情報が整理できたら、今後の方針を決めます。必要ならチームで話し合い、対応方法を決めてください。
注意点としては、因果関係を意識することです。理由がつながっていないと、その判断は主観的な憶測となってしまいます。
KKDの判断が必要なときもありますが、根本的な部分を明確にするためにも、最終的には因果関係がしっかりするよう紐づけしてください。
QC7つ道具には、因果関係の整理に役立つ特性要因図があります。ほかにも、関係性を整理するフレームワークが新QC7つ道具にありますので、人に説明したりデータとして残す場合は活用してください。
まとめ:ファクトコントロールは品質保証を行なう上で重要な考え方
ファクトコントロールは、客観的なデータを基にする管理方法です。経験や勘といった主観的な要素を排除することで、正確性の高い管理を可能にします。
近年は、顧客ニーズの激化により、市場競争が激しくなっています。競合企業に勝つためにはより良い製品を作る必要があり、品質管理がとても重要視されています。
品質管理に大切なのは、安定した管理を行うことです。そのためにも、正確な管理ができるファクトコントロールが必要といえるでしょう。
また、ファクトコントロールによる管理は、管理システムがあるとより管理がしやすいです。細かな変化もAIによって記録され、原因究明などもしやすくなります。
効率良くファクトコントロールするためにも、ぜひ現場に管理システムを導入してみてください。