製造業に限らず、原因究明はとても重要です。原因が特定できないままだと改善もままならず、同じトラブルを招いてしまいます。トラブルが続くと生産効率などが低下してしまい、納期が遅れることで顧客との信頼関係も悪化してしまうでしょう。
とはいえ、いざ原因究明をしようにも、やり方がわからなければ究明のしようもありません。方向性を間違うと、意味のない分析になってしまいます。
なぜなぜ分析は、そんな分析方法が分からない人でも、簡単に行える分析手法です。論理的な思考は必要ですが、基本は「連想ゲーム」であり、慣れてしまえば直感で組み立てることもできます。
なぜなぜ分析とは、どのような原因究明方法なのか。やり方やコツなどを紹介します。
問題の根本原因を探る分析手法「なぜなぜ分析」
「なぜなぜ分析」は、トヨタ自動車が発案したトヨタ生産方式の一つです。問題解決を目的とした分析であり、原因究明に役立ちます。
なぜなぜ分析とは、どのような分析手法なのでしょうか?
なぜなぜ分析とは?
なぜなぜ分析とは、トヨタ生産方式に含まれる問題解決方法のことです。生じた事象(問題)に対して「なぜ」を追求し、生じる原因となった、本当の問題を分析します。
問題点は、必ず目に見えるものではありません。一見すると「設備操作ミスによる事故」も、実際には「人材不足による無理なシフト」が原因であることはよくあります。そのような場合、「ミスがないよう技術指導を徹底」しても問題解決にはならず、再び同様の問題が生じてしまうでしょう。
事故を防ぐためには、本当の原因である「人材不足の解決」が重要です。そして、「なぜ人材不足なのか」をさらに追及し、原因究明に努めていく必要があります。
外見的な問題で終わらせず、「なぜそのような問題になったのか」も追求し、根本から問題解決ができるようにするのが、なぜなぜ分析による問題解決の仕組みとなります。
トヨタ生産方式とは?
トヨタ生産方式とは、トヨタ自動車が発案した「ムダを排除するための生産方式」のことです。
「自働化(異常が発生したら機械を止めて不良品を造らない)」と「ジャストインタイム(必要なものを必要なだけ作る)」を主軸とし、製造に関係するあらゆるコストを最小限にすることで、「お客様に最速で商品を届ける」ことを目指します。
トヨタ自動車では、製造に生産効率や作業効率などを低下させるムダが7つ存在すると提唱しています。(以下7つのムダ)
- 加工のムダ:必要ない加工による資源や時間のムダ
- 在庫のムダ:死蔵によるスペースや管理コストのムダ
- 不良や手直しのムダ:修正による時間や廃棄コストのムダ
- 手待ちのムダ:手すき状態になることによる人件費のムダ
- 作りすぎのムダ:過剰在庫によるスペースと資源のムダ
- 動作のムダ:不要な動作が多いことによる時間と労力のムダ
- 運搬のムダ:不要な運搬が多いことによる時間と労力のムダ
7つのムダを無くすことで効率的な生産を実現し、生産速度が早まることで、短納期を実現できるわけです。
そして、「自働化」と「ジャストインタイム」を支えるための方式として、なぜなぜ分析が挙げられています。
他にも、トヨタ生産方式には「かんばん」「見える化」「カイゼン」などもあり、製造業にとって有用的な内容なことから、多くの企業がトヨタ生産方式を参考にしているのです。
なぜなぜ分析の3つの手順
なぜなぜ分析は、以下の手順に沿って行います。
- 目的と課題を明確にする
- 問題に対して「なぜ?」を問いかけて原因を掘り下げる
- 特定した原因から解決策を創出する
目的と課題を明確にする
まず始めに、目的と課題を明確にします。目的や課題が曖昧なままだと、「なぜ」の答えも曖昧になり、方向性が定まらないことから正しい原因にたどりつけません。
事象(問題発生現場)を明確にイメージできるよう、目的や課題も明確に提示する必要があります。
また、事象以外にも、「いつ」「だれが」「どこで」「どのように」といったように、発生状況も詳しくまとめておくと、後の分析がしやすく詳しく原因究明ができます。
問題に対して「なぜ?」を問いかけて原因を掘り下げる
目的と課題を明確にしたら、原因を掘り下げていきます。問題に対して「なぜ」を繰り返し、「問題の原因となる問題」を挙げていってください。その際も、内容を曖昧にはせず、「なぜ」を明確にしながら繰り返します。
トヨタ生産方式では、「なぜ」を大体5回繰り返せば大体の原因が突き止められるとされています。もちろん、5回以上の時もあれば逆に5回未満の時もありますが、一つの目安にすると良いです。論理的かつ多角的に分析をし、自分たちで対策可能な根本原因を突き止めましょう。
また、事象によっては「なぜ」が複数考えられる場合もあります。もちろん、そのような結果は間違いではありません。複数の因果関係によって問題が生じることもあります。そのような場合は、それぞれに「なぜ」を繰り返していき、それぞれの原因を突き止めます。
特定した原因から解決策を創出する
最後は、特定した根本原因から解決策を導き出します。分析するだけでは何も変わりません。再発を防止するための対策も、なぜなぜ分析では必要です。
また、対策を考える際は「実施可能かどうか」も判断する必要があります。いくら妙案を思いついても、実施や再現が難しいようでは実用性がありません。他にも、他部署に問題解決を丸投げする事はせず、自分たちで実施可能な対策を立案します。
解決策が見つかったら、実際に試してみます。そして、結果が出るようなら仕組みとして取り入れ、常習化していきましょう。
もちろん、結果がでないようならやり直しです。今一度「なぜ」を繰り返し、別の原因を突き止めてください。
なぜなぜ分析のよくある失敗例
なぜなぜ分析が上手くいかない場合、以下のような理由が考えられます。分析に失敗しないためにも、失敗例についても知っておきましょう。
- 問題と課題の認識違いにより掘り下げられない
- 問題点が明確になっていない
- 主観的な思いを重視してしまう
- 属人的な原因、個人のミスとして片付けてしまう
問題と課題の認識違いにより掘り下げられない
なぜなぜ分析をする際、問題と課題を混同して考えてしまうと失敗しやすいです。どちらも同じ事を指しているように思えますが、問題は「目標達成の障害となる事柄」、課題は「目標達成に必要となる行動」と、それぞれ意味は異なります。
「設備が故障し間に合わなかった」といったように、問題でつなげていくと対策が見つからず「打つ手なし」の状態になりやすいです。「点検が甘かった」といったように、課題につなげるよう掘り下げることで、その後の対策も立てやすくなるでしょう。
問題はネガティブなことであり、課題は問題をポジティブに変換することでもあります。なぜなぜ分析をする際は、問題と課題を分けて考え、「どうすれば良くなるか」をイメージして掘り下げてください。
問題点が明確になっていない
分析が上手く行かないのは、問題点が明確になっていない場合があります。「手順」でも触れたように、目的があいまいなままだと、「なぜ」の方向性が定まらず、必要な課題が見えてきません。
「人材不足だったため」「設備が故障したため」として挙げるのではなく、「担当者が少なく手が回らなかったから」「誤った操作をしたため故障した」として挙げれば、「シフトの見直し」や「技術指導」といった課題や対策が見えてきます。
問題を提示する際は、十強をイメージしやすいよう、可能な限り明確に提示してください。
そして、そのためにも、発生状況を詳しくまとめておく必要があるでしょう。
主観的な思いを重視してしまう
事象を主観的に捉えてしまっても、なぜなぜ分析は上手くいきません。主観や感情が入ることで、正しく状況把握ができなくなるからです。
「製造が遅れた」のも、「製造機械の調子が悪かった」「Aさんが高齢で物覚えが悪いから」といった内容では、課題が見えてきません。場合によっては、「どうしようもない」といった結果にもなり、問題点は改善されないでしょう。
また、見えている原因と実際の原因が違う場合もあります。「技術不足によるミス」が原因に思えたけど、実際には「人手不足で忙しく無理をしたため」といったように、主観と事実が異なることは多いです。
根本原因が異なるため、「技術不足だから技術指導を徹底する」といった対策をとっても、問題解決はされません。
主観で考えてしまうと、視野が狭まり本当の原因を見逃してしまいます。正しく事象を把握するためにも、しっかりした情報収集を行い、客観的に考えることが大切です。
属人的な原因、個人のミスとして片付けてしまう
「Aさんの操作ミスが原因」といったように、原因を個人のミスで片づけてしまうと、なぜなぜ分析は失敗します。
たしかに「Aさんのミス」が原因かもしれませんが、「Aさんが気をつける」で片づけてしまうと、分析の意味がなく組織としても成長しません。「Aさんがミスした原因」が解明されないことで、他の作業員が同様のミスをする可能性があります。
「ダブルチェックをしていなかった」「時間がなく無理をしてしまった」など、仕組みや組織について、客観的に評価するようにしてください。
属人化が原因の場合も、「なぜ属人化してしまったのか」を考え挙げていきましょう。
なぜなぜ分析を成功させる5つのコツ
なぜなぜ分析を成功させるためにも、失敗例を踏まえつつ、以下の内容を意識してみてください。
- 「課題」ではなく「問題」を明確にする
- 「事実」に基づいて客観的に分析する
- 複数の問題をまとめて解決しようとしない
- 個人の問題として特定しない
- MECEやロジカルシンキングを学ぶ
「課題」ではなく「問題」を明確にする
一つ目のコツは、いきなり課題から入らず、問題を明確にしてから課題につなげることです。「失敗例」でも触れたように、課題は問題を解決するためにあります。そのため、問題が明確でないと、課題も明確にはなりません。
すべての問題は、問題から課題、そして対策とつなげて考えることができます。課題はもちろんですが、それ以上に、始点となる問題は明確にしておきましょう。
「事実」に基づいて客観的に分析する
二つ目のコツは、客観的に分析することです。失敗例でも触れたように、主観で物事を考えてしまうと、視野は狭まり正しい評価ができません。
偏った評価にならないよう、事実(記録)を元に分析してください。
もし、どうしても主観的になってしまうようなら、複数人で分析すると良いです。個別で分析を行い、最終的に照らし合わせることで主観的かどうかが判断できます。他人の分析から気付かされることもあり、より明確な掘り下げにもなるでしょう。
複数の問題をまとめて解決しようとしない
三つ目のコツは、複数の問題をまとめて考えないことです。まとめて考えると規模が大きくなりがちで、課題や対策も大きく曖昧になっていきます。
「生産速度が遅い」という事象に対しても、「作業動線が悪い」と「作業手順が悪い」の2つで考えれば、より掘り下げもしやすくなります。それぞれで詳しい課題が立てられ、効果的な対策が行えるでしょう。
なぜなぜ分析では、派生がいくつ増えても問題ありません。作業を面倒くさがらず、問題を細分化して一つずつ分析してください。
個人の問題として特定しない
四つ目のコツは、個人の問題で済ませないことです。「失敗例」でも触れたように、個人の問題で済ませてしまうと、何も解決せずに終わってしまいます。
個人による反省はもちろんですが、同じ問題を繰り返さないためにも、個人の問題にはせず、組織の問題として分析し考えることが大切です。
MECEやロジカルシンキングを学ぶ
より詳しくなぜなぜ分析をするためには、MECEやロジカルシンキングを学ぶことも重要です。ロジカルシンキングとは「物事を結論と根拠に分け、論理的なつながりを捉えながら考える」ことであり、MECEは「漏れがなく、ダブりがない」ことを意味します。
ロジカルシンキングによって原因を掘り下げていくのはもちろん、原因の可能性を見逃さないためにも、MECEが必要となります。
例えば、「スイッチをONにしても機械が動かない」ことを事象としたとします。機械が動かないことから、多くの人は「電源が入っていないから動かない」と考えることでしょう。
ですが、MECEで考えた場合には「電源が入っているのに機械が動かない」といった選択肢も挙げられます。「漏れなく」分析するためには、「電源が入っていない場合」と「電源が入っている場合」の両方で考えなければなりません。
もちろん、「電源が入っていない」ことを前提として、なぜなぜ分析をするのも間違ってはいません。その場合でも原因究明ができ、対策は見つかります。
ただ、「電源が入っていない」ことを前提としてしまうと、先入観から「電源以外が問題」の可能性を見逃してしまいます。
そのような見逃しを無くすためにも、MECEについて学ぶ必要があるわけです。一般的ななぜなぜ分析で課題が見つからない場合は、固定概念を捨て、総当たりで「なぜ」を考えてみてください。
まとめ:なぜなぜ分析で問題の根本原因を明らかに
なぜなぜ分析は、「なぜ」を繰り返して原因を掘り下げる分析方法です。関連性を掘り下げて分析することで、根本原因を見つける事ができます。
いくら途中の問題を改善しても、根本原因が解決しないと同じ問題が再発してしまいます。問題を完全に解決するためには、根本を解決する必要があるのです。
なぜなぜ分析で大切なことは、内容を明確にし、客観的に事象を分析することです。そのためにも、しっかりとした情報収集も行ってください。
製造業に限らず問題が生じた際は、ぜひ「なぜなぜ分析」で根本原因を特定し、対策を講じることで再発防止につなげましょう。