「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をご存じでしょうか。 近年、ニュースや書籍のほか、製造業界のインターネット記事でも目にする機会が増えるようになってきました。
定義は広範囲にわたりますが、もともとは「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という考え方を指します。
ビジネス用語に応用されるようになってからは「ITを導入・活用してビジネスをより良いものに変革すること」というような意味で用いられています。
現在、様々な業界でDXが進められており注目を集めています。 もちろん製造業も例外ではなく、DXを進め、競合との差別化を図ることが重要となります。
しかし、「DXとは何か?」「なぜ製造業にDXが必要か?」「実際に何をすれば良いのか?」と疑問に感じている方も多いと思います。
そこで本記事では、製造業におけるDXの取り組み方、進め方や活用方法について解説します。
DXとは?
経済産業省が発表した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』では、「DX」を以下のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
要約すると「ITを導入・活用して会社をより良くして、競合他社との競争に負けないようにしよう」ということです。
ここで重要なのは、DXにはただ単に製造現場や情報管理においてITツール等を導入し活用することだけではなく、仕事のやり方や製品・サービスの売り方も改めていく必要があるということです。
例えば製造業の場合、帳票や指示書等の紙媒体を電子化するだけでは、データ入力や資料のチェックなどの業務は人が行うことになってしまうため、手間は変わりません。
データの自動チェックや分析など、デジタル化を組み合わせて業務全体を効率化させることが正しいDXと言えるでしょう。
製造業にDXがなぜ必要か?
製造業に限った話ではありませんが、経済産業省が発表したレポートによると、日本の企業がこのままDXを推進しなければ、2025年から約12兆円の経済損失が発生すると予測されています。
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
現在、日本は1人当たり名目GDPでは世界第25位と低迷し、少子高齢化の影響で労働力も減少しています。グローバル競争において日本の立場はますます厳しくなることが予想されます。
しかし逆に言えば、これから全国的にDXを進めていくことができれば、2025年には12兆円の利益を生み出すことができる可能性があるといえます。
そしてそれを実現するためには、GDPへの影響力と他業種との関わりが強い「製造業」のDX推進が必須であることを意味しています。
DX化を進める方法
それでは、具体的に製造業においてどのようにDXを進めていくのかを考えていきます。
- DXで改善したい課題を明確にする
- 必要なデータの収集や分析をする
- システムを導入して業務を自動化・効率化する
- ビジネスモデルを変革させる
①DXで改善したい課題を明確にする
製造業がDXに取り組むにあたって、まず実施するべきことは改善したい課題は何なのか、どんな会社を実現したいのかなど、共通のビジョンを持つことが重要となります。
具体的なところでは、製造現場で困っていることは南アの火という観点から考えていくと、進めていくべき方向性が定まりやすく、戦略を立てる上でも整理できて良いです。
また、DXは部署ごとではなく、会社全体として経営陣が中心となって、目標や課題・今後のビジョンを共通認識として明確にし、共有していくことが円滑に進めていくポイントになります。
②必要なデータの収集や分析をする
DXで実現したいイメージや課題を共通認識として明確化できたら、次に実施するのはデータの収集と分析です。
生産性が向上し、生産製品の品質なども上がったとしても、製造業の場合はそう単純に売上は増えていきません。より多くの人に製品を知ってもらう必要があり、さらに競合他社の製品よりも良いと思われるようにならなければなりません。
目的を達成するためにどんなデータが必要になるのか、データを分析してどのように活用していくべきなのかといった観点で市場のニーズを組み込みながら検討していく必要があります。
とはいえ、データの分析や活用といった部分はDXにおいても難しい部分でもあり、ITリテラシ―のある人材の確保が求められる場合も少なくありません。また、そういった人材の確保は難しい場合が多いため、コンサルティングやサポートが受けられるシステムを導入するなどの対策を講じる必要があります。
DXのためにシステムを導入する場合は、自社のニーズに合わせてサービスを検討すると良いでしょう。
③システムを導入して業務を自動化・効率化する
データの分析や活用の方法が定まり、目標の達成・実現性が確認できたら、ITシステムを導入していきます。とはいえ、ITシステムであれば何でも良いというわけではなく、明確化した課題や自社のニーズに合わせたシステムを導入する必要があります。
ITシステムを導入することは、製造業においては、書類発行や入庫管理等の定型作業(業務の流れに一定のパターンがある作業)などIT技術を導入することによって自動化したり、課題が解決できる可能性が高い業務があります。
ただし注意点としては、一気に全ての業務フローを変えてしまうと、生産現場の混乱を招き、最悪の場合は業務が停止してしまう等のリスクがあることです。
このようなリスクも考慮した実行計画を立て、過剰なIT投資を回避するためにも、現在の形から少しずつ変化させていき、効果を確認出来たら次のレベルへ移行するようなサイクルを回していくことが重要です。
また、要件定義を実施することも大切です。要件定義とは、ITシステムに必要な機能や性能などを明文化していくことです。要件定義をしっかりと実施することで、自社のニーズにマッチするシステムを構築することができるはずです。
近年、働き方改革による労働時間の見直しや少子高齢化の影響による労働人口の減少によって、 企業の生産性を向上させることが企業の大きな課題となっています。 製造業では現場にITやシステムを導入することで生産性向上を図る企業が増加し[…]
④ビジネスモデルを変革させる
DXが実現できるか、はたまたIT化やデジタル化で終わるのか、組織全体として会社の風土などの根本的な部分から見直す必要がでてきます。
一部分だけデジタル化して効率化ができていたとしても、利益に繋げられるように効率化した部分の工程やルールが対応できていなければ、会社として利益を感じることができずに終わってしまうかもしれません。
そのため、DXを推進していくには会社全体が一丸となって、新たなビジネスモデルや運用ルールなどを構築し、より利益を上げられる形で進めていくことが大切です。
製造業でDXを成功させるためのポイント
ステップを踏んで、DXに取り組んだにもかかわらず、ITシステムを導入しただけで終わってしまい、ビジネスとして結果が伴わないということは避けたいところだと思います。
製造業におけるDXを成功させるために、心得ておきたいポイントをご紹介します。
- 段階的に少しずつ実施する
- ITシステムの導入はゴールではなくあくまで手段
- 経営陣がしっかりとコミットメントする
段階的に少しずつ実施する
DXは部分的な改善ではなく、全社一丸となって実施することがビジネスとして利益を感じられるようになると先述しましたが、だからといって、一気に新しいシステムを導入し、すべてを一新してしまうと、現場での混乱は避けられません。
そうした混乱が発生してしまうと、業務が止まってしまったり、変化が完了するまでの長い間効率が悪くなってしまいます。
最終的には広い範囲での改善が必要にはなるかもしれませんが、段階を追って少しずつ実施していく方が安全かつ現場の従業員にとっても負担が少なく済みます。
まずは簡単な業務から始めて、少しずつ範囲を広げていくことが製造業におけるDX推進のコツだといえるでしょう。
ITシステムの導入はゴールではなくあくまで手段
DXのために新しいITシステムを正しく導入することができれば、ある程度の効率化が必ず見込めるといえるでしょう。しかし、新しいシステムを導入するということは、それを使うこなすために労力が必要となります。そうすると、現場は必死に追い付こうとしてITシステムを導入すること自体がゴールとなってしまいがちです。
IT化はあくまでも目標達成の手段として考え、DX推進のゴールを共通認識として戦略的にビジネス的に効率化・利益向上を目指す必要があります。
経営陣がしっかりとコミットメントする
DXの推進は最終的に会社一丸となってビジネスモデルを変革していくことになります。そのため、経営トップや経営陣が中心となって推進していくことが不可欠です。
また、最初のステップとして明確にする課題や進むべき方向・ビジョンなどは経営陣が正しく定めていないと、現場は進むべき方向を見失い、結果DXの実現に失敗してしまいます。
DXを成功させるためには現場だけではなく、仕事の仕方や組織構造、企業文化・風土など会社全体としての変革が不可欠といえます。そのため、経営陣が先頭に立って社内をまとめ、共通の課題や目標・ビジョンの認識を持って進めていくことが大前提といえるでしょう。
まとめ:DXは長期的に考えるべき
ここまでの説明で、製造業におけるDXとは、ただIT化させれば良いというものではない、ということはお分かりいただけましたでしょうか。
一度変えれば終わりということではなく、社会の変化に応じて常に社内の業務プロセスを継続して見直していく必要があります。
明確なゴールはありませんので、焦らずに製造現場との連携を取りながら自社に合った計画や方法で取り組んでいくことが重要です。
また、現場のみではなく、会社全体として経営陣が先頭に立って推進していくことも大切です。IT化やデジタル化で終わらせず、DXを成功させるためには、まず課題や目標をしっかりと明確にして、会社全体の共通認識として共有することから始めていきましょう。