
なぜ今あらためて「DDoS攻撃」に注目するのか。
オンラインサービスやクラウド利用が当たり前になった今、「サーバが落ちる=ビジネスが止まる」時代になっています。
ECサイト、予約サイト、会員向けマイページ、業務システムのポータルなど、社外向け・社内向けを問わず、Web経由で提供しているサービスは年々増えています。その一方で、こうしたサービスを狙ったサイバー攻撃も巧妙かつ多様になっており、なかでも近年改めて存在感を増しているのが「DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)」です。
DDoS攻撃は、機密情報を盗み出すことよりも「サービスを使えなくすること」そのものを目的にしている攻撃です。
顧客から見れば「つながらない」「遅すぎて使えない」という状態になり、結果として売上機会の損失や信用低下につながります。それにもかかわらず、「セキュリティ対策=マルウェアや不正ログイン対策」と考えられがちで、DDoS対策は後回しにされやすい分野でもあります。
こうした状況を踏まえ、IPA(情報処理推進機構)が毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」の2025年版では、組織向け脅威の第8位に「分散型サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)」がランクインしました。これは、DDoS攻撃が一部の大企業だけでなく、多くの組織にとって現実的なリスクとして無視できない存在になっていることを示しています。
本記事では、このDDoS攻撃について、
- どんな攻撃なのか(ざっくりしたイメージ)
- どのような被害が出るのか(ビジネスへの影響)
- 中小〜中堅企業でも現実的に取れる対策は何か
を整理していきます。
DDoS攻撃とは?

DDoS攻撃とは、特定のサーバやサービスに対して大量のアクセスを一斉に送りつけ、正規ユーザーが利用できない状態に追い込むサイバー攻撃です。機密情報の窃取を目的とした攻撃とは異なり、「サービス停止そのもの」が目的になる点が特徴です。
近年は、IoT機器やマルウェアに感染した端末を悪用することで、規模の大きい攻撃が容易に行なえるようになり、多くの企業にとって無視できないリスクとなっています。
このセクションでは、専門用語をできるだけ使わずに
- 「DDoS攻撃がどういう仕組みで起きるのか」
- 「サービス側でどんな症状が起きるのか」
を、まずはざっくりと押さえていきます。
一言でいうと「大量アクセスでサービスを押しつぶす攻撃」
一言で言うと、「大量アクセスでサービスを押しつぶす攻撃」と考えるとイメージしやすいでしょう。
イメージしやすくするために、人気ラーメン店の例を考えてみましょう。
その店には本来、30人分の席しかありません。そこに、100人、200人と一度に人が押し寄せるとどうなるでしょうか。
- 店内に入りきれない
- 行列が長くなり過ぎて、待ちきれずに帰る人が出てくる
- 本当に食べたいお客さんも、諦めて他店に行ってしまう
サーバやネットワークでも、これと同じようなことが起こります。
一度に処理できる「席数」が限られているところに、過剰なリクエスト(アクセス)が一気に来ることで、正規の利用者がサービスを使えなくなってしまいます。
「分散型」になる理由と、正常なアクセス集中との違い
DDoS攻撃の「D」は「Distributed(分散型)」を意味します。
これは、攻撃が1台のPCから行なわれるのではなく、世界中に分散した多数の端末から同時に攻撃が仕掛けられることを表しています。
攻撃者は、マルウェアに感染したPCやIoT機器(監視カメラ、ルーターなど)を乗っ取り、それらをまとめて操作できる「ボットネット」を作ります。そして、そのボットネットに対して「このサイトに一斉にアクセスせよ」という命令を出すことで、ターゲットに大量のトラフィックを送りつけます。
ここで重要なのは、単なる人気によるアクセス集中(例:セール開始直後のECサイト)と区別がつきにくいという点です。
どちらも「アクセスが増えてサービスが重くなる・落ちる」という結果は同じですが、
- 攻撃の場合:悪意を持って意図的にトラフィックを増やしている
- 人気の場合:正規のユーザーが一時的に集中している
という違いがあります。
サービス側で起きる主な症状(つながらない・重い など)
DDoS攻撃を受けると、サービス側では次のような症状が現れます。
これらはそのまま、利用者にとっての「使いづらさ」「つながらなさ」として表面化します。
- Webサイトがまったく表示されない(タイムアウトする)
- ログイン画面までは開くが、その先の動きが極端に遅い
- 一部のページだけが極端に遅い・エラーになる
- 管理コンソールや監視画面にアクセスしづらくなる
こうした技術的な症状は、そのまま利用者の体験にも影響します。
利用者から見ると、「エラー画面」「ぐるぐる回ったまま進まない」「異常に重い」といった体験につながり、結果的に離脱やクレームの原因になります。
IPA「情報セキュリティ10大脅威2025」におけるDDoS攻撃の位置づけ
IPAが毎年発表している「情報セキュリティ10大脅威」は、国内で発生したサイバー攻撃や事故の中でも、特に社会的な影響が大きかった事例をもとにランキング化したものです。
2025年版では、組織向け脅威の第8位にDDoS攻撃が選ばれており、これはサービス停止による事業へのダメージが多くの企業にとって無視できないリスクとなっていることを示しています。
このセクションでは、「なぜDDoS攻撃が再び注目されているのか」「他の脅威とどう関連しているのか」を、10大脅威の位置づけを軸に整理していきます。
情報セキュリティ10大脅威2025の概要とDDoS攻撃のランクイン
IPAの「情報セキュリティ10大脅威」は、その年に発生したインシデントや攻撃の中から、社会的なインパクトが大きかったものを専門家が選定し、順位づけしたものです。
2025年版では、組織向けの脅威として、
- ランサムウェア攻撃
- 標的型攻撃
- サプライチェーンを悪用した攻撃
などと並んで、「分散型サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)」が8位に挙げられています。
これは、DDoS攻撃が「情報漏えい」や「不正アクセス」のような派手なニュースには隠れがちでありながら、サービス停止を通じてビジネスに直接影響を与える脅威として、改めて注目されていることの表れです。
他の脅威(ランサムウェア攻撃など)との関係と、DDoSが示すトレンド
DDoS攻撃は、単独で行なわれるだけでなく、他の攻撃と組み合わせて使われるケースもあります。
- ランサムウェア攻撃と組み合わせ、「データを暗号化する」「サービスをDDoSで止める」の二重脅迫を行なう
- 企業や団体に対する「抗議」や「嫌がらせ」の手段として使われる
- 別の攻撃(情報窃取など)の目くらましとして、DDoSで監視をかく乱する
こうした背景から、DDoS攻撃は「単発の技術的な問題」というより、
- 社会情勢
- ビジネス上の対立
- サイバー犯罪のビジネス化
といった広いトレンドとも関係する攻撃になってきています。
「うちみたいな会社も狙われるの?」中堅企業のリスク整理
DDoS攻撃というと、大手企業・金融機関・行政サービスなど「特定の高い注目度を持つ組織だけが狙われるもの」と思われがちです。
しかし実際には、業種や企業規模に関係なく、あらゆる組織が攻撃の対象や巻き添えとなる可能性があります。特に中堅企業は、セキュリティ体制が限定されている一方でWebサービスの重要度が高まりやすく、攻撃側から見ると「狙いやすく、効果が大きいターゲット」になりやすい側面もあります。
ここでは、自社にどのようなリスクが潜んでいるのかを「狙われる要因」と「巻き込まれる要因」の両面から整理します。
典型的なターゲット像と中堅企業が巻き込まれるパターン
DDoS攻撃のニュースでは、金融機関や大手クラウドサービスなどの名前が挙がりやすいため、「うちはそこまで有名じゃないから大丈夫」と考えてしまいがちです。
しかし実際には、中堅企業が狙われたり巻き込まれたりするケースも珍しくありません。
- 特定業界に対する一斉攻撃の一環として狙われる
- 競合関係や恨みによる「嫌がらせ」のターゲットになる
- 炎上やトラブルがきっかけで攻撃対象にされる
また、自社が「攻撃される側」ではなく、「攻撃する側に利用される」ケースもあります。
例えば、自社サーバや社内のPCが乗っ取られてボットネットの一部になり、他社へのDDoS攻撃の踏み台にされてしまう可能性です。
この場合、自社も被害者であると同時に、加害の一部とみなされるリスクもあります。
自社のリスクをざっくり確認する3つの観点
自社がどの程度DDoSリスクを抱えているかは、次の3つの観点でざっくりチェックできます。
- オンライン依存度
売上や業務のどれくらいがWebサービスに依存しているか。
(例:EC比率、Web経由の予約件数、Webポータル経由の問い合わせなど) - インフラ構成
自社サイトやサービスは、どのような構成で動いているか。
(オンプレかクラウドか、冗長化されているか、1回線・1サーバに集中していないか) - 現在の対策状況
DDoSを意識した対策やサービス(回線事業者のオプション、WAF・CDNなど)を導入・設定しているかどうか。
この3点を一度整理するだけでも、「どこから手をつけるべきか」が見えやすくなります。
DDoS攻撃による被害とビジネスインパクト
DDoS攻撃の最も分かりやすい被害は「サービス停止」ですが、その影響は一時的な利用不能にとどまりません。
売上機会損失、サービス利用者の離脱、SNSでの拡散による信用低下、復旧対応にかかる追加コストや担当者の工数負担など、企業が被るダメージは多岐にわたります。
表面化する金銭的損失だけでなく、目に見えにくいブランド価値の毀損が長期的に効いてくるのがDDoS攻撃の厄介な点です。
このセクションでは、「ビジネスへの影響」という観点からDDoS攻撃を捉え直し、なぜ今のうちに備えるべきなのかを整理します。
売上・サービス提供への影響(機会損失)
DDoS攻撃による直接的な影響は、「サービスが止まる」または「極端に遅くなる」ことです。
ECサイトであれば、
- カートに商品が入らない
- 決済画面に進めない
といった問題が発生し、その時間帯の売上がほぼゼロになる場合もあります。
予約サイトや問い合わせフォームが止まれば、
- 予約の取りこぼし
- 資料請求や見積もり依頼の機会損失
といった形で、目に見えにくい損失も発生します。
ブランド・信用・復旧コストへの影響(見えないコスト)
DDoS攻撃は、直接的な売上減だけでなく、「見えないコスト」も生みます。
- ブランド・信用への影響
「また落ちている」「このサービスは不安だ」といった印象が、SNSや口コミを通じて広がると、長期的な利用意向にも影響します。 - 復旧コスト
緊急対応のためにベンダーやクラウドのサポートを呼び出したり、追加のトラフィック対策を契約したりすることで、突発的な費用が発生します。 - 社内工数
システム担当者が復旧対応にかかりきりになり、本来のプロジェクトや改善活動が止まることも少なくありません。
こうした「目に見えにくいコスト」まで含めて考えると、DDoS対策は決して「余計な出費」ではなく、「将来の損失を抑えるための投資」として捉えることができます。
中小〜中堅企業でも取り組めるDDoS対策のステップ
まずやるべき現状把握(インフラ・契約・監視体制)
最初の一歩は、「今、自社がどのような守られ方をしているのか」を知ることです。
- インフラ構成図の確認
どのサーバ・サービスが、どの回線・クラウド上で動いているか整理する。 - 契約内容の確認
回線事業者やクラウド事業者の標準機能として、どこまでDDoS対策が含まれているかを確認する。 - 監視・アラート体制の確認
トラフィック量やレスポンス時間に異常があったとき、誰にどのような通知が飛ぶようになっているかを把握する。
この段階では「対策をいきなり導入する」よりも、「現状を見える化する」ことが目的です。
すぐ見直せる対策:設定・運用・ベンダーへの確認ポイント
次に、コストをかけずにできる範囲で、設定や運用を見直します。
- アクセス制限・レート制御の設定を確認する
同一IPからの過剰なアクセスを自動で制限できるか、APIやログイン画面などに対して適切な制限がかかっているかチェックします。 - 監視の閾値とアラート内容を見直す
明らかに異常なトラフィックが発生したときに、すぐ気づけるような閾値・通知方法になっているか確認します。 - ベンダー・事業者への確認
「DDoS攻撃と思われる事象が起きたとき、どの窓口に連絡すればよいか」
「どの範囲までサポートしてもらえるか」
を事前に確認しておきます。
中期的に検討したい対策:DDoS対策サービス/WAF・CDNの活用
もう一歩踏み込む場合は、専用サービスの導入も選択肢に入ってきます。
- DDoS対策サービス
回線・クラウド事業者や専門ベンダーが提供するサービスで、大容量トラフィックを手前で吸収・遮断してくれるものです。 - WAF(Webアプリケーションファイアウォール)
主にWebアプリへの攻撃対策ですが、一部のDDoS的なアクセスの抑制にも役立ちます。 - CDN(コンテンツ配信ネットワーク)
コンテンツを複数拠点で分散配信することで、負荷分散や一部の攻撃耐性向上が期待できます。
これらを組み合わせることで、防御の層を厚くしつつ、自社で抱える運用負荷を抑えることができます。
もし攻撃されたら?初動対応と再発防止のポイント
DDoS攻撃は、予兆なく突然発生することが多く、攻撃の最中に冷静に判断するのは容易ではありません。
しかし、初動対応の質はその後の復旧スピードや被害拡大の有無に大きく影響します。特に中堅企業では「誰が何をするのか」が曖昧なまま対応が始まることが多く、混乱が長引く原因になりがちです。
このセクションでは、攻撃が疑われた際にまず確認すべきポイント、社内外への連絡フロー、収束後に必ず行ないたい振り返りを簡潔にまとめ、いざという時に迷わないための指針を提示します。
DDoS攻撃を疑うサインと、最初に確認すること
実際にDDoS攻撃が起きたとき、完全に見分けることは難しいものの、次のようなサインがあれば注意が必要です。
- 特定の時間帯にアクセスが急増している
- 監視ツールでトラフィック量が急激に跳ね上がっている
- ユーザーや社内から「つながらない」「極端に遅い」という問い合わせが急増している
こうした状況になったら、
- トラフィックの状況(どこから、どの程度来ているか)
- 影響範囲(どのサービス・機能が止まっているか)
をまず確認します。
初動対応の流れ(社内連絡・外部連絡のざっくりフロー)
初動で大事なのは、「一人で抱え込まない」ことです。
- 社内連絡
上長や関係部署(コールセンター、営業、広報など)に、
状況と影響範囲を簡潔に共有します。 - 外部連絡
回線事業者やクラウド事業者、DDoS対策サービスの窓口に連絡し、
現在の状況を伝えて対応を相談します。 - 一次アナウンスの検討
ステータスページやSNSなどで、「現在アクセスしづらい状況が発生している」旨を簡潔に案内するかどうかを検討します。収束後にやるべき振り返りと、次に備えるための見直し
攻撃が収束してサービスが安定したら、必ず振り返りを行ないます。
- どの時間帯に、どのようなトラフィックが来ていたのか
- どの対策が効果を発揮したのか、どこに課題があったのか
- 社内連絡や顧客対応はスムーズだったか
これらを整理したうえで、
- 監視・アラートの設定見直し
- インフラ構成や契約内容の見直し
- 簡易な「インシデント対応手順書」の作成
など、次に備えるための改善につなげていきます。
まとめ:DDoS攻撃を「自社ごと」として捉え、現実的な一歩を踏み出そう
DDoS攻撃は、大企業だけでなくあらゆる規模の企業にとって現実的な脅威となっています。しかし、必要以上に身構える必要はありません。重要なのは、「まず自社がどの状態にあるか」を知り、できるところから着実に対策を積み上げていく姿勢です。
本章では、今後どのように取り組みを進めていくべきかを整理し、負担をかけずに始められる実践的なステップへとつなげていきます。
「現状把握 → 最低限対策 → 段階的強化」で進める
DDoS攻撃は、技術的にも社会的にも背景の広い攻撃ですが、中小〜中堅企業がいきなり完璧な対策を整える必要はありません。
重要なのは、次のような流れで取り組むことです。
- 現状を把握する
- できる範囲の最低限対策を行なう
- 必要に応じて段階的に強化していく
これらのステップで進めることで、着実に前進することができます。
記事を読み終えたあとにすぐできる3つのアクション
最後に、この記事を読み終えたあとにすぐ実践できるアクションを3つだけ挙げます。
- 自社のWebサービス・システムがどの構成・回線・クラウドで動いているかを整理する
- 回線事業者・クラウド事業者の契約を確認し、「DDoS対策はどこまで含まれているか」を把握する
- 監視・アラートの設定を見直し、「明らかにおかしいトラフィック」を早期に検知できるようにする
この3つだけでも、DDoS攻撃に対する備えの第一歩になります。
そこから先は、IPAの10大脅威の資料やベンダーの情報も参考にしながら、自社の規模とリスクに合った対策を少しずつ積み上げていくことが大切です。
できるところから一つずつ着手することで、DDoS攻撃のリスクは確実に下げられます。
今日からできる小さな一歩が、将来の大きなトラブル回避につながります。



